自分だけが、自分の味方であるという、それだけが――――真実。
人狼の館 2nd night08
この屋敷に集められたのは八人。
人狼と妖狐、仲間となるべき狂人を除けば、人間は五人。その中から順々に獲物を食らっていく。夜を迎えるたび、狂気に牙を濡らす。
「理由なんて特にないよ。妖狐とか狂人っぽくないし。なんとなく喰らいやすかった、それくらいかな」
そう最初に答えたのは半兵衛だった。
初日の犠牲者、正則を喰らった動機である。
「正則は愚直だ。それ故に思い込むと制御が出来ぬ。余計な邪魔にならぬよう、早々に退場してもらった」
対して官兵衛の理由はこうである。
確かに正則は思い込みが激しいところがある。後々推理の邪魔にならぬよう、早めに口を塞いだという事だろう。
「二日目はもうちょっとちゃんとした理由かな。清正は俺のこと疑って投票してたし、早めに処分したんだよ」
半兵衛はくすくすと嗤いながら、の耳元を唇を寄せる。
「本当を言うとね、俺はのこと食べちゃいたくって仕方なかったんだよ? 占い師候補だし。でも、は狂人の可能性があったからね。だから食べずに残しておいたんだ」
殺さなくって良かったよ、そう呟いてかぷりと耳朶に噛み付かれた。その感触に驚いて首をすくめたの身体を、官兵衛がけん制するようにぐいと自分の方へと引き寄せる。
「二日目の投票後で、狩人の可能性があったのは清正と元就、それに半兵衛だ。元就にはを擁護する姿勢があったが、卿らにはそれはなかった。二択の後、私は清正を殺した」
へぇぇ、と半兵衛が目を細める。
「官兵衛殿が人狼だったって言うんなら、どうして俺を殺さなかったの? 俺は占い師吊りに反対してたんだよ?」
その点が清正と半兵衛の立場の違いである。二日目、占い師を吊るべきだと主張したに、清正は同意の姿勢を見せたが、半兵衛は難色を示した。だが、人狼にとって占い師吊りで時間を稼げるのなら、それは歓迎すべき事であるはずなのだ。
「俺は人間の振りをしてたから、人間に有利になる事を言ったんだよ? なのに官兵衛殿は人狼のくせに俺を生かして、清正を殺した。どうして?」
半兵衛が挑発するように唇を歪ませる。
だが、官兵衛は表情を変える事すらせず、そんな事かとでも言いたげに説明を続けた。
「愚問だな。あの段階で妖狐の居所は確定していない。私は卿が妖狐である可能性を疑っていたにすぎない」
「俺が?」
「占い師を吊り上げて時間稼ぎをしたいのは妖狐も同じ。むしろ下手に矛先が自分へ向かうより、よっぽど安全だろう。あの段階で私はを狂人、卿を妖狐と見ていたのだ。その確認のためにわざわざ卿を噛んでいたら、一手遅れる事になる。故に清正を殺した。それが理由だ」
半兵衛はふうん、と曖昧な相槌を打った。今はそういう事にしてあげるよと言いたげな顔である。
「それよりも、卿の理由の方が浅く見えるようだが? 卿こそなぜ私や元就を殺さなかった?」
官兵衛の反論に、半兵衛は呆れ顔を作る。
「理由なら言ったでしょ? 清正だけ俺の事を疑っていたからだよ」
清正がどういう理由があって半兵衛を疑っていたかはわからない。だが二日目のあの投票において、清正の投票のみ浮いている。理由が分からぬのに殺すという半兵衛の行為が、官兵衛には曖昧に見えたのだ。
「清正にとって俺は異物だったのかもしれないけど、それは俺にとっての清正も同じ事さ。何か俺に不信感を感じていたのかもしれない。三日目に残して余計な推理を展開されちゃ困るからね。それにね、こんな遊戯に興じてても、俺にだって好き嫌いがあるんだよ。出来ればや官兵衛殿に狂人であって欲しいし、殺すならあの三馬鹿を先に血祭りに上げてやりたいからね」
「それは、どういうことですか……?」
恐る恐る疑問を口にしたに、半兵衛はにこりと微笑みかける。
「俺はが好きなんだよ」
「え?」
「なのにあいつら、事あるごとに俺を邪魔してずっと殺してやりたかったんだ。本当は三成も一緒に葬ってやりたかったけど、あいつは妖狐だったから。ま、もうどうでもいいけど」
そして半兵衛は部屋の隅へ、三成の躯が晒されている方へ視線を投じ、くすくすと笑みを零した。
「三日目は本当は、官兵衛殿を殺そうか悩んでたんだ。でも、元就公を残しておくと、は元就公を信じちゃうかもしれない」
「奇遇だな。私も卿を殺そうか考えていた。だが、元就は怪しさだけで言えば、半兵衛以上だ。生き残った時に人狼を騙るつもりで居たのかも知れぬ。だから先に殺した」
確かにもし元就が生き残り、半兵衛と官兵衛のどちらかが先に死んでいたとしたら、は元就を信じてしまっていたかもしれない。狩人を騙り、妖狐を先に殺すように提案したのも、すべて人狼である自分が生き残るためだと言われれば、は迷っただろう。
そして、もし元就に従ってしまっていたら――――に勝利はない。最後の最後では人間に敗北してしまったに違いない。
これが全てだとでも言わんばかりに、半兵衛と官兵衛は共にの方を向いた。
「さあ、今度はの番だよ」
「選べ。お前の望む、人狼の世のために」
殺せ――――と、二対の瞳がに命じる。は困惑した表情のまま、ゆっくりと己の飛刀を握り締めた。
三人を殺した理由を聞いても尚、の中では明確な答えが見つからなかった。だが、どちらかは偽りの告白をした、偽者なのだ。を誑かし、人狼を排除しようと目論んでいる賢しい人間。
「俺との世界を邪魔するやつなんて、みんな死んじゃえばいいんだ。、早くそいつを殺してよ。早く一緒になろう」
「よせ、耳を貸すな」
官兵衛の両手がの耳を塞ぐ。だが、の瞳には、狂気に彩られた笑みを浮かべ手を拱く半兵衛の姿が映っていた。
「あ、ああ……」
の見開いた瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
殺さなくちゃ。殺さなくちゃ。あの人のために、殺さなくちゃ――――
人狼との未来を夢見て、皆を謀って来たのだ。
正則の躯に偽りの涙を流し、胸中で舌を出しつつ三成を陥れて。大切だった者たちを裏切り、殺して来たのはそのたった一つの望みを叶えるため。
手にした飛刀が穿つ対象を求めて彷徨う。
そして、は強く飛刀を握り締め――――
- 選択肢
- さて、ここで選択肢です。
狂人であるにとっての勝利は、人狼と運命を共にする事にあります。
ただし、からどちらが人狼であるかは分かりません。
二人の言動をもとに、どうぞお選びください。 - 1.官兵衛を人狼と信じ、半兵衛を殺す
-
2.半兵衛を人狼と信じ、官兵衛を殺す
1.官兵衛を人狼と信じ、半兵衛を殺す
遊戯が終了しました。
結末へ進む。
2.半兵衛を人狼と信じ、官兵衛を殺す
遊戯が終了しました。
結末へ進む。
end
最後の選択です。
どちらを選んでも遊戯はこれで終了となります。
遊戯の結果は次の更新にて……