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とある事件簿04





 何からお話いたしましょう、と桔梗は前置きして語りだした――――



 そもそも、『いの十七号文書』とは様の言動を見張る記録でございました。
 なぜ、黒田様が様を見張る必要があったのか、そのようにお尋ねになりますのね。
 様の出自を知る者は多くはございません。多くの者は、戦争孤児を黒田様が戦場より連れ帰り、秀吉様に引き取られたと聞いているのでしょう。
 あながち外れでもございませんが、重要な部分が抜けているのです。
 あの方は家の血を引かれるお方、十七代目・常世姫様なのです。
 ふふっ、常世姫など、御伽噺とばかりに思っていらしたのですね。
 いいえ……実在するのです。あの碧の瞳が何よりの証拠。あの碧の瞳に見つめられると、頭の芯がぼうっとするでしょう? ええ、それこそが人を惑わす常世姫の魅力なのです。
 詳しい事情は割愛しますが、黒田様は常世姫である様を織田に引き入れ、自分の下へと置きました。あの千里眼を戦に利用する事を考えておいでだったのでしょう。黒田様は様に軍略を教え、軍師へと育てる事を決意されました。
 ご存知のように様は黒田様をとても敬愛されております。かつて命を救われたことを、今もご恩に感じているのです。
 しかし、この時はまだ、黒田様は様の忠誠を疑っておいででした。果たして本当に己の駒となりうるのか、それとも内より織田を滅ぼさんとしているのか、真相を見極めるには常世姫の存在は不確定な要素が多かったのです。
 故に黒田様は忍びの者を遣わし、様の身辺を徹底的に探らせたのです。それが『いの十七号文書』ですわ。
 『いの十七号文書』で交友関係が強く強調されているのは、内通を案じての事です。あの瞳で味方の将兵を骨抜きにされては敵わないとお思いになられたのでしょう。もっとも、今となっては取り越し苦労に終わったわけですけれども……
 そうして出来上がったのが『いの十七号文書』でした。もっとも途中から監視の意味合いは薄れ、様をお見守りする目的が強くなったのですけれど……それは余計な話ですわね。
 さて、先代の記録係が記したその書物は、南東書庫に仕舞われ幾年もの月日が流れました。正直、黒田様もその存在をお忘れになられていたのだと思います。
 しかし、ある日、とある人物が様の身辺を探らせていた忍びの存在に、気が付いたのでございます。
 その人物もまた忍びの者を駆使し、黒田様の忍びの行動を注意深く探って今も『いの十七号文書』に相当する書物が書き記されている事を知りました。
 ええ、今の最新は確か……『いの三十五号文書』でしたかしら。そして、南東書庫に仕舞われた『いの十七号文書』を含む秘密文書の存在を知ったのです。
 さて、余人に秘密文書の存在を知られてしまった黒田勢ですが、わたくし達も先方の動きを把握しておりました。
 その報告を受けた黒田様は、一計を打つことにします。
 それが今回の事件――――様自身の手で『いの十七号文書』を処分していただくというものです。
 様ご自身が出てきては、さすがのその方も手出しができませんもの。
 後はあなたのご想像の通り。わたくしが様に『いの十七号文書』の存在を明かし、南東書庫のぼや騒ぎ。もちろん『いの十七号文書』が燃えない事は計算のうちでした。福島様がいらしたのは予想外でしたが、様のご命令どおり、宝物庫からそれを盗み出したのでございます。
 様には『いの十七号文書』は燃やしたとご報告いたしました。安堵される様を騙すのは心が痛みましたが……今は黒田様のみ知る場所で、大切に保管されております。
 ええ、『いの十七号文書』以外の秘密文書もそこに。ぼや騒ぎの一件で『いの十七号文書』以外は持ち出しておりましたから。『いの十七号文書』も共に持ち出しても良かったのですが、あまり上手く行き過ぎて様に疑われては本末転倒でしたので。
 さあ、わたくしの話はこれで全て。
 今度はどうぞ、あなたのお話を聞かせてくださりませ――――





 桔梗の言葉に、私は何のことでしょう、と薄らとぼけた。
 桔梗は興が削がれたとでも言うように呆れた顔をしたが、無理に詮索するような事はしなかった。
「では、わたくしはこれで……。くれぐれも今日の事はご内密に。余計な事を言えば……きっと、消されますわ。まだ鬼の手でぺしゃんこに、されたくはありませんでしょう?」
 まさか、と笑った私に桔梗もまた笑った。
「うふふ、冗談? わたくし、あいにく冗談を言う趣味はございませんのよ」
 と、美しく笑う。女とは末恐ろしい生き物である。
 桔梗は闇に溶ける様にして消えた。
 ざわりと木々が揺れ行ったかと思ったが、主に忠実なくのいちはわざわざ釘を刺しに戻ってきた。
 姿を見せないまま、告げる。
「ああ、それともう一つ――――黒田様からの伝言ですわ。つまらぬ策謀を巡らせている暇があるなら政務に励むがよかろう、ですって。ふふっ、あなたのご主人の竹中半兵衛様によろしくお伝えくださいませ。では、ごきげんよう」
 やはり見透かされていたか――――
 くのいちが姿を現したというだけで、その事実は予測していたが、まさか依頼主の名まで割れているとは驚きである。
 北東書庫の記録係は仮の姿。私もまた桔梗と同じく、偽りの名を持つ者である。
 さて……秘密文書を手に入れられなかったことを、主になんと説明したものか。



end


以上、桔梗(官兵衛の忍び)と私(半兵衛の手先)のえせ推理物でした。
半兵衛と官兵衛は自分たちは直接手を出さないけど、
部下に命じて探り合ってると(主に私が)萌える。
あまりにも二人が出なさすぎなので、事件簿・後始末編を用意しました。
本編が真面目だったので、アホ&下品ギャグです。ご注意を。


あ、いかん。桔梗の口調が竹姫と一緒だった……