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!CAUTION!
少しですがAPH夢とクロスオーバーしてます。
前シリーズと設定似てますがほのぼの話。
問題のない方のみ続きをどうぞ。


















 

特別扱い





 平安と呼ばれたかつて在りし日の頃は、何もかもが緩やかであった気がする。春の陽の光のような柔らかな世界で蝶よ花よと愛でられて、美しく雅な殿上人たちに囲まれ暮らしていた。
 不安も、虚ろもなかったあの頃。満たされていたと感じていたのは若さゆえか、そこから連綿と続く時代の中で欠けてしまった新鮮な感覚を、あの頃は持っていたような気がする。
 幼かった。恋のようなものもした。
 人のように心を震わせて、人のように焦がれた。そんな想いを抱いても自分にはどうすること出来ないのだと、そんな当たり前の理屈も忘れ、ただ純粋に恋慕を重ねてーーーー愚かだとは言わないが、ただ若かったと今なら一笑に付せる。
 刀に宿った霊に誰かと交わるすべはない。そんな当たり前のことに気づくのに一世紀近くの時を必要とし…、気づいた時にその人はすでに失せていた。平安という安寧の時代が終わったのだった。
 こみ上げる寂寥は長い年月が慰撫してくれた。時代は流れ記憶も朧気になった。このまま風化していくのだと、老いから来る穏やかな心地で覚悟していたのにーーーー


「時間とは残酷なものだなあ」
 三日月宗近は湯気の立つ湯のみを擦りながら、独り事には大きすぎる声で呟いた。
「なんです藪から棒に」
 と、三日月の視線の先で両手に軍手をはめたセーラー服の少女が振り返る。畑仕事の最中なので袖はまくり上げ、下はスカートでなくもんぺ、頭には三角巾を巻いていた。
 まるで戦時中のような姿が、三日月の中に残る雅な十二単を壊していく。あの時の優雅さ、神々しさはどこへ行ってしまったのかーーーー千年の時は、優雅な殿上人を庶民派の小娘に変えてしまったようだった。
「いやなに…夢を見ておった」
「白昼夢ですか、おじいちゃん。ボケちゃいやですよ」
 けらけらと笑う娘ーーーーと言っても、相手も見た目が若いだけで十分ババアである。
 なにせ娘は人ではない。三日月の生まれた平安の世にも居た、この国の化身に連なる存在なのだ。
 今の世では、というニンゲンのような名を名乗っていた。彼女が祖父と慕うこの国の化身もヒトのような名を名乗っているのだ。
「俺がじじいなら、お主も十分ばばあよな」
 ぼそりと呟くと、は般若の形相で誰がババアだクソジジイと声を荒げる。内番に付いていたへし切長谷部と燭台切光忠が、まあまあと必死に宥めるのを余所に、三日月はそっとため息をついた。
「長生きはするものではないな。知らんでいいことまで知って幻滅する」
「長生きしてもらわなければ困ります。あなたも一応、国宝なのですから」
 一応と付けたのは悔し紛れだろう。三日月個人の人格はともかくとして、国に連なる者である彼女に国宝を粗末に扱う事はできない。政府や祖国からも、くれぐれも大切にするようにと釘を差されている。だが三日月自身はその特別扱いが居心地が悪くて仕方がなかった。
「なあ、主…俺も鍬くらい振るえるぞ?」
 内番を免除されて、嬉しいと感じた事はない。むしろ生活の中で親交を深める他の刀を羨ましく感じていた。
「いいのです、天下五剣に畑仕事なんてさせられません」
 は振り返らぬまま応える。
「それに道具の使い方知らないでしょう?」
「そうではなくてだな…」
 三日月が言いかけた瞬間、表で遠征隊の帰還の声が響いた。
「あっ、おかえりなさい!」
 は三角巾を外すと、へし切長谷部を伴ってぱたぱたと駆けて行ってしまった。取り残された三日月は、むっと子供のように顔をふくらませていた。その様子を見ていた燭台切がこらえ切れずに吹き出した。
「なんだ、笑うこともなかろうに」
「いや、三日月さんでもそんな顔をするんだと思って」
「俺にも矜持がある。役に立たぬと言われては名が廃れよう」
 そう言って自信ありげに胸を叩く三日月だったが、三日月が電子機器を片っ端から壊した一件を思い出し、燭台切はふるふると肩を震わせるのだった。
「いいじゃないか主に大切にされて。特別扱いを受けるなんて僕はむしろ羨ましいね」
「なら代わってやろうか」
「いや、結構。僕は意外と家事が嫌いじゃないんだ」
 やっぱり嫌なのではないか、と三日月はむくれる。
 じじいと称する三日月に子供のような顔をさせられるのは、おそらく主くらいなものだろう。
 だが悔しいので、それは黙っておく。やはり燭台切も特別扱いは羨ましいのだ。



end


サルベージされた昔書いたネタ。
人外審神者と昔会ってたよというお話。
実はシリーズよりも先に書いてたのですが、
ブラック本丸ネタがやりたくてあんな暗い話になりました!