少しですがAPH夢とクロスオーバーしてます。
APH夢のヒロインがデフォルト名で出てくるのでご注意ください。
問題のない方のみ続きをどうぞ。
浸月03
人間を審神者に、それもろくに訓練も受けていない者たちを大量に戦線へ投下する危険性を、政府は端から想定に入れていた。それでも人海戦術に頼らざるを得なかった、その判断は決して誤りではない。
しかし、のもとへ届けられる決して少なくない報告書は、彼女にたびたび頭痛をもたらした。
審神者の寿命が足りなかった例ならまだ平穏だ。精神が保たなかった例はそれよりも悲惨で、審神者の前に刀剣の神経がやられてしまう例はさらに悪い。
どのような審神者であれ初めは皆、選ばれた英雄のように良き主であることを考える。だがやがて、戦いの中で心が摩耗する。すると刀剣たちが疎ましくなる。怒りや憎しみ、あるいは欲を従順な彼らにぶつけてしまう。閉じられた本丸の中で淀んだ思考は出口を失い、やがて己の毒に殺される。
その日、が目にしたケースは刀剣が審神者を殺害した事案だった。
殺されるまでの経緯を目で追い、ため息が漏れた。
付喪神が使役する主を殺すなんてよっぽどな目にあったのだと予想できたし、そのよっぽどの事が起こってしまっていた。
刀剣たちが禊を終え、本丸が正常に稼働するようになるにはどのくらいかかるだろう。次の審神者を受け入れられるようになるには、百年やそこらで足りるだろうか。
いや、そもそもの話としてーーーー死んだ審神者は戻らない。もっと早く政府が介入していれば最悪の自体は免れたのではないか…
考えを巡らせれば巡らせるほど、思考は憂鬱な渦に飲み込まれていく。どんな時でも、この国の人間が死ぬのは辛いものだ。
「様。禊の準備が整いました」
声をかけられ紙面から顔をあげると、ダークスーツに身を包んだ政府の高官がこうべを垂れていた。
「わかりました。参りましょう」
銀縁の眼鏡を外し、机の引き出しの中にしまう。
廊下に出ると、政府の役人たちに紛れて、自分のような黒い学生服をまとった若者の姿が何人か目についた。女子はセーラー服、男子は学ラン。まれに軍服のようなものを身につけている者もいる。そして、皆一様に同じような顔をしているのだ。
人間ならばクローンと呼ばれるべきであろう。を含め、皆とある人物を元に生まれた存在だ。
この国の祖国と呼ばれる人物ーーーーその彼を補佐すべく、この国の様々な機関が肉体を得た姿が、たちだった。だから彼らは人ではない。人よりももっと曖昧で、個人の区別を持たない、国という巨大な電子回路のパーツのようなもの。
示し合わせたわけではないが、彼らはの方を一瞥すると、こくりと頷いて見せた。がどこへ向かい、何をするのか言外に理解していた。
転送室とプレートのはめられた部屋に入ると、スーツの上に白衣を纏った者たちが恭しくに礼をした。袱紗に包み捧げられた日本刀を手に取り、セーラー服の上から巻いたベルトに挿す。
転送機のガラス板に映った自分の姿が、禊の巫女には程遠くてなんだかおかしくなってしまった。巫女服を用意しろとは言わないが、せめてこの学生服はどうにかならないものか。祖国の趣味らしいが、齢千年をとうに超えたばばあには羞恥を通り越し申し訳無さが胸に募る。
「私の後継は姉妹たちに任せます」
「姉妹といいますと…湊様に?」
「いえ、あの子は鎮守府の管理で大変でしょう。その下の妹に任せます」
「御意に」
短いやり取りの後、は静かに目を閉じた。
意外にもが再び意識を取り戻したのは、柔らかな陽光を吸い込んだ布団の中だった。
呆然としてしばらく、自身に起こった出来事を把握し嘆息が漏れた。非道い有り様であろうとは想像していたが、まさかいきなり刀剣に犯されるとはずいぶんな歓迎だ。
身体は清められ、白い寝間着に着替えさせられていた。身体中が軋むように傷んだが、布団に寝かせてくれたということはそれなりの理性は残っているのだろうか。
ともかく赤黒く淀んだ空が晴れたのは僥倖だ。自分が審神者としてこの世界に受け入れられた事の証明である。
まずは現状把握をしなければなるまい。
と、立ち上がると、ふいにすとんと身体のバランスが崩れた。怪訝に思いながら障子の枠に手をやって、身体を起こす。が、左足に力が入らずに、再び身体は布団の上に落ちた。
不思議に思い左足に目をやり、息を呑む。足の先が、ない。
「ああ、起きたか」
物音に気づいたのか、三日月が障子を開きひょいと顔を覗かせた。昨夜の狂気が嘘のように抜け、天下五剣の名に相応しき美しい顔で笑んでいる。
「昨日は無体を働いてすまなかった。永く待ち侘びた主が現れて、つい血が滾ってしまってな」
血が滾ったどころの話では済まないと思うが…、この本丸に訪れた時から覚悟していた事だ。憎しみと穢れで歪んでしまった刀剣たちが自分をどう扱うか、ある程度予想はついていた。
「貴方達の苦しみは…理解しているつもりです。ここまで追い詰めてしまったのは、私たち政府の落ち度です。ですから、貴方が私をどのように扱おうと私は抵抗しないつもりです」
だが…、ひざ下から忽然と消えてしまった己の左足を見やる。
「この足は、貴方が?」
「ああ、義足だろう? 要らぬゆえ俺が壊した。せっかく来てくれた主殿を、みすみす逃したくはないからな」
詫び入れもせずにこりと微笑む。三日月のその笑みに、は底冷えするような恐怖を味わった。
「三日月宗近。私は逃げたりしません。私は貴方達の禊が済むまでここから離れぬと決めたのです。このような事をせずとも私は…」
「信じられぬよ」
笑顔のままぴしゃりと言い放たれ、は二の句が告げなくなった。
これほどまでに三日月の憎しみと恨みは深いのだ。
「心配せずとも、俺がお主の足となろう」
三日月はの背に手を回すと、猫の子でも抱きかかえるように軽々と両手にいだいた。を抱いたまま障子を開き、縁側へと歩を進める。
「まずは荒れた屋敷をどうにかせねばな」
end
…というような、いわくつきのブラック本丸が、生贄系精神社畜な審神者の献身によりホワイト本丸に向かいつつ、でもやっぱりグレーくらいにしかならなかったお話を誰かください。