Text

「物語の終わりというのは、いつも唐突に訪れるものですのね……」
 ――――の中のドクは、静かに、寂しげに呟いた。
「そうかな。僕は君がずっと以前からこの結末を、予期していたように思うよ」
 ドクは微笑むと、買いかぶりすぎですわ、と首を横に振った。
 静かな夜だった。



Black Mare24





 嬌声とも悲鳴ともつかない切れ切れの声が響く。獣のような荒い呼吸とむせ返るような淫靡な香りが暗闇を満たす。
 あの平和な日常を脅かしたちょっとしたテロからしばらく、槙島はを酷い方法で抱く事が多くなった。
「まき、島っ! いた……痛い! 痛いってば!」
 痛みに耐えかねて、は怒った声を上げると、槙島のわき腹をしたたかに蹴り飛ばした。みぞおちに入ったのか、ぐっと呻いて槙島はむせ返る。はざまぁみろ、と言い放つと、抱擁を拒むようにシーツに包まって一人横になってしまった。
「お前どうしたんだ? 何をそんなに怒ってるんだ」
「僕は怒ってなどいないよ」
「嘘をつけ。酷い顔だ。傷ついた子供みたいで、痛々しくって見ていられないな」
「それは君の事だろう」
「五月蝿い。僕がそうならお前もそうだ。自分がそういう顔してるから、他人の顔もわかるんだよ」
 いいから寝ろ、とは槙島の腕を引っ張ると、そのままベッドの上に引き倒した。
 自分の包まっていたシーツをまくりあげ、彼の裸の肩にその端をかけてやる。
「これは誘われていると理解していいのかな?」
 シニカルな笑みを浮かべ、の唇に触れようとした指先を、は犬歯を露わにして牽制した。つれないな、と槙島は残念そうに、だが楽しそうに言う。
「君はなぜ僕が君を抱くのか、考えた事はあるかな?」
 は怪訝な顔をした。
「知るか。お前もただの雄だってことだろ」
「ロマンに欠ける回答だね。20点」
 完全に調子を取り戻した槙島に、は顔をしかめて見せた。じゃあなんなんだよ、と拗ねるような口調で聞くと、槙島は途端に真面目な顔をした。
「君の事を愛しているからだよ」
 は面食らった。へぇ……、と居心地が悪そうにもぞもぞと身じろぐ。どうやら照れているらしい。
 これだけ多く抱き合って来たにも関わらず、が槙島の愛の言葉を聞くのは、これが二度目の事だった。
「君は? 僕の事を愛おしく思ってはくれないのか」
「あー……それなりに気心の知れた奴……とは思う」
「他には?」
「まあ……一緒にいて、楽、かな。嘘をつく必要もないし」
「それから?」
「顔はいいんじゃないか? サイコパスが綺麗なのも羨ましく思う。声もわりと……好みだ」
「その次は?」
「その次は……って、いい加減にしろ!」
 は目を吊り上げて怒った。槙島はくすくすと悪戯のばれた子供のような顔で笑う。
 槙島は嬉しそうに腕を伸ばすと、両腕で強くを抱きしめた。頬にキスをして、鼻先を豊かな髪に埋める。
 は鬱陶しそうに槙島の腕を解こうともがいたが、もがけばもがくほど槙島は嬉しそうにの身体を抱きしめた。やがては諦めて、槙島の腕の中で丸まった。
「なあ、槙島。お前はどうしてそうなっちゃったんだろう?」
 の突然の問いに、槙島は苦笑を漏らした。まさかにそんな風に聞かれるとは思っていなかったのだ。
「君までそんな事を聞かないで欲しい。落胆する事ばかりで、僕も気落ちしているんだ」
 ふうん、とは胡散臭いものでも見るように、疑わしげな目をした。どうせ、と小さな声で呟く。
「うん?」
「お前は……世の中の何もかもが嫌なんだろう?」
 槙島は少しだけ驚いた顔を見せたが、すぐにいつもの顔になってそれを否定した。
「そうじゃないさ。僕は当たり前の事が当たり前に行われる世界。そういうのが好きなだけだ」
 は再び、ふうん、と気の抜けた相槌を打つと、槙島から視線を反らした。
「そうかもな。お前はキャッチャーというより……、崖から落ちる子供の方だ」
「なら、僕と一緒に崖から落ちるかい?」
 ふいに大人の顔になると、妖艶な笑みで誘う。額に口付け、瞼に唇をあて、耳の先から、顎の先まで温かな吐息がなぞる。
 は鼻先にキスを受けながら、
「子ども扱いするな」
 と、悪態をついた。




end


ライ麦畑ネタだらけです。
ヒロインはフィービーポジションでしょうか。
元ネタ知らんわ! と言う方はどうぞスルーしてください。