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!CAUTION!
京極シリーズ「魍魎の匣」パロです。
国設定なし。日本が狂人。監禁もの。
問題ない方のみお進みください。



















匣の中





 その男は匣の蒐集家だった。
 桐の匣。白檀の匣。大中小様々な大きさの匣に、何でも詰め込んでとっておくのが趣味だった。
 海外との国交が増えてからは、各国の技術者に異国情緒豊かな匣を造らせ、それぞれの国の思い出をしまっていた。匣の中のものが本当に大切なものかどうかわからなかったが、仕舞うことに意義があるのだろう。
 彼が嬉しそうに話すので、表面上はとても興味が有るように話を合わせて聞いていた。彼の特殊な趣味に共感する者は少ないのか、男は大層それを喜び、有る日とっておきの逸品をフェリシアーノに披露してくれた。
 これは誰にも見せたことがないのです。この素晴らしさは凡人にはわかりません。貴方ならきっと分かってくださると思ったから、あなたにだけ見せるのですよ。
 正直、自分を同胞だと思われることに気持ち悪さを感じぬでもなかったが、孤独な老人に優しくするという偽善的な心地でフェリシアーノは喜んだ顔を造った。
 男は微笑んで、フェリシアーノを屋敷の裏の蔵の中に招いた。
 中はかび臭く、湿気っぽくて、生ぬるい空気が満ちていた。虫よけの匂いなのか、クローゼットの中のような匂いも混じっている。
 フェリシアーノが匂いに眉根をしかめたのに気づいたもか、菊は大丈夫ですよ、と笑ってフェリシアーノを奥へと導いた。
 不思議なことに、奥へ歩を進めると入り口よりも空気が澄んでいるように感じた。どこかに空気入れのための窓でもあるのか、訝りながら菊の背に付いて行くと、菊は鍵のついた扉の前で足を止めた。
 蔵の中に部屋がある。
 なんだろうと怪訝に思いながら、視線を上げると、部屋と蔵の天井の間に隙間がある事に気がついた。
「これは匣なのですよ」
 菊が得意げに語る。
「我が国の巨匠と呼ばれた職人に、造らせたものですよ。部屋と勘違いしたでしょう? 中は二三畳ありますからね」
「へえ……」
 感心はしたものの、正直興味は覚えなかった。逆にこんな物まで造らせるなんて、やっぱり菊はどこかおかしい、と嘲笑が表情の陰に浮かんだ。
 さて、こんなにも大切にしまっている匣には、何が入っているのやら。
 ご開帳とばかりに恭しい手つきで、観音開きの扉が菊によって開かれる。扉の向こうから淡い幻想的な光が漏れる。
 光源が中にあるのか ―――― 菊の肩越しににフェリシアーノが中を覗き込むと、彼はそのまま目を見開いた。
 匣の中には檻のような匣が更に入っており、その中に真っ黒な目をした少女が入っていた。
 四肢を放り出し、仰向けに寝そべって逆さにこちらを見つめている。一瞬、死体かと思うほど不健康な白い肌をした少女に、菊は優しげな声音で声をかけた。
。元気にしていましたか? お祖父様が来ましたよ」
「お祖父……?」
「この方はフェリシアーノ君。私の友人です」
 フェリシアーノの戸惑いを無視して、菊はと呼ばれた少女にフェリシアーノの紹介や最近起こった近況などをかたりかけている。
 だが、その間にが返した反応は瞬きさえなく、よもや本当に死体なのではとフェリシアーノは訝った。
 糸の切れた人形のように崩れ伏した少女。
 死体のように美しく、何も語らず、何も主張せず、漆黒の闇を湛えた瞳だけが何の意思も感じられぬ虚無をこちらに投げかける。
 吸い込まれそうな黒に、フェリシアーノは胸をときめかせた。
 その感情は美しい絵画を目にした時のような、恍惚とした感覚に似ていた。
 狭い檻の中で少女は身動きする事が出来ず、ただ匣の中に逆さまに嵌っているだけだったが、それですべてが完成されていた。
 空気と光を通す小さな窓が空いただけの空間は、シンプルであるが故に他の余剰を許さず、他の介入を許さず、独立した世界であり、まるで額縁の中と外のように現実から乖離している。
 嗚呼、触れてみたい ――――
 ゆるゆるとまるで誘われるようにフェリシアーノは指先を伸ばした。少女の瞳に手を伸ばし、それを縁取る睫毛を指でなぞって見たいと奇妙な欲望に駆られた。
 だが、
「いけませんよ」
 パシリと乾いた音がして、手の甲がじんと熱を持った。
 不愉快そうな顔でこちらを見上げる菊の顔を見た時、今まで優位に立っていたはずの余裕がなくなり、ただ疎ましさだけが心を支配した。


end


「魍魎」を久しぶりに読んでパロってみたくなりました。
四肢を落とした方が、それっぽかったかも。
この後、フェリが菊を殺して、匣を奪って逃げるとか、
最後は一緒に匣に詰まってハッピーエンド?とか考えてたんだけど、
ここでお腹いっぱいになり断念。
きっとメタボとか眉毛が孫娘に粉かけてきて、それに嫉妬した爺様がご乱心。
匣に詰めてヒロインも心壊す、みたいな経緯があったりなかったり。