もれなくみんな変態です。
問題ない方のみお進みください。
写真
たまたまなんだけどさ、と前置きして半兵衛は懐から一枚の写真を取り出した。
浴衣を着て、ラケットを片手に卓球に興じるの姿。浴衣の模様に見覚えがある。先日の慰安旅行の時のものだ。
「た・ま・た・まカメラを持ってたら、いい写真が撮れたんだよね」
偶然ですと言わんばかりの得意顔。だが、三成の耳にはそんな声は届いていない。浴衣の裾からちらりと覗く白い足に目は釘付けだ。
畳の上のそれを無言のまま自分の方へ引き寄せ――――かけて、もう一方の端を半兵衛の指先が押しとめる。
「ただじゃあげないよ」
半兵衛の厳しい声に、三成はちっと舌打ちをすると、同じように懐から一枚の写真を取り出した。
畳の上に置かれたそれは、だいぶ古く、長く持ち続けてきたせいか先の方が振り切れている。だが、画像は鮮明で、白い猫を抱えた少女が今にも泣きそうな顔で、目に大粒の涙を浮かべていた。
おおおっ! と半兵衛は感嘆の声を上げると、写真を自分の方へと引き寄せた。
「こ、これは紛うこと無きの幼少時代の写真! しかもAランクの泣き顔……!」
いささかマニアックな事を言いながら興奮気味に写真を取り上げると、はしっと三成が写真の上の方を指で掴み上げた。
「なんのつもりかな、三成ぃ〜?」
手をぶるぶると震わせながら力を込めて引き寄せようとするが、三成も引かない。
「約束が違います」
と、顔に青筋を立てて半兵衛を睨みつける。
「はあ? 俺が浴衣写真、三成が泣き顔写真で交渉成立でしょ?」
「勝手に話をすり替えられては困る。俺の写真がたかだか足チラ如きと、対等なはずがない」
「どーゆーこと、それ?」
ちらりずむに常人以上の価値を見出している半兵衛にとって、たかだか足チラなどという言葉は侮辱以外の何者でもない。確かに幼少時代の写真はレアだが、それと同等の価値が己のそれにあると半兵衛は信じているのだ。
「足チラならばせめてもう一枚、それ以外であればもっとレアな写真でなければ応じられんな」
「そっちこそ馬鹿なこと言わないでよね。確かにレアだけど、三成のには色気がないじゃん。悪いけど、俺ロリコンじゃないから」
「今も十分ロリコンではないか」
「いやいや、十五を過ぎればみんな立派な大人だし」
そんなやり取りを続けながら、互いにばちばちと火花を放ちながらにらみ合う。
そして――――
「何故、私の元へ来る」
仏頂面の上に限りなくどす黒いオーラを纏って、官兵衛は目の前に広げられた二枚の写真と二人の愚か者の顔を睥睨した。
そんな官兵衛の纏う剣呑な空気をまるきり無視して、だってさ〜、と半兵衛が足を崩して肩をすくめる。
「俺達二人じゃ決着がつかないし。だったらここは官兵衛殿の意見を聞くしかないかな、って」
「まあ、あまり期待はしていないが、同じ二次元愛好家ならばどちらが真の価値ある一枚か、正しき判断ができよう」
いつの間にか変態の仲間に加えられている事に苛立ちながら、それでも官兵衛は黙って二つの写真を交互に見やった。
そして、ふむと唇に手をやる。
「こちらはずいぶんと古い……が、見覚えがある。十年前の春のものか」
三成はほう、と目を見張った。
三成自身ですらその写真がどういう物だったのか、正しくは覚えていないというのに。やはり保護者である官兵衛の目は確かである。
確か猫の仔を飼いたいと言い出して、こっぴどくねねに叱られて来た時のものだ。返してらっしゃいと言われたが捨てに戻る事もできず、ぐすぐすべそをかいている時のものを誰かが写真に写したのだろう。
「もう一方は……先日の慰安旅行のものか」
今まさにスマッシュを打ち込もうとしているの姿。危ういほどに足を開き、すらりと伸びた白い足が眩しい。
妙にアングルが低いのが気になったのか、官兵衛は無言で半兵衛を見やった。が、半兵衛はそっぽを向いたままぴゅーぴゅーと口笛を吹いている。
あえてそこは追求せず、官兵衛は写真を元の位置に戻すと、再び唇に手をやってふむと考え込んだ。
そして、――――
「どちらも凡庸な写真といわざるを得まい」
「はあ?」
「なんだと?」
半兵衛と三成が身を乗り出して、不満を口にしたのは同時だった。
官兵衛はふう、と息をつくと、懐から一枚の写真を取り出した。
昨年の夏祭りの時のものだ。浴衣姿のが写っている――――が、恐ろしいほどの熱帯夜だたっため、袖やら裾やらを捲り上げた、ねねが見たらはしたない! と怒りそうな姿だった。
それを二人の眼前に突きつけると、
「こ、これは……! 浴衣に足チラ、胸チラって官兵衛殿の助兵衛!!」
「しかも笑顔だと!? 貴様、どんな非合法な手を使ってこれを手に入れた!」
卿らと一緒にするな、と最大限の侮蔑の視線を向けてから、官兵衛は仕切りなおすように軽く咳払いをした。
「非凡な写真とは、被写体の表情、視線、感情までも内包しているものだ。卿らのそれは、ただの盗撮に過ぎぬ」
この変質者共が、と一刀両断に言い放つと、半兵衛と三成は畳の上に両腕を付き、悔しそうに呻き声を上げた。
この道を究めたと思っていたその慢心が、これほどまでの屈辱を与えるものだと彼らは知らなかった。だが、官兵衛のいう事は正論。健康的な色気を孕みつつ、の笑顔まで納めた一枚は、官兵衛だからこそ写し得た最高の写真だ。
「くっ、この俺が負けるなど……」
「官兵衛殿〜。ね、お願い。俺もその写真欲しいな〜」
煩悶する三成と、さっそく写真を手に入れようと擦り寄ってきた半兵衛を、官兵衛は順に睥睨すると、黙したままその写真を懐にしまった。
そして、官兵衛の前に置かれた二人の写真を手に取ると、
ジュッ――――
傍らで炎をちらつかせていた行灯にかざしたのである。
「あああああああ、ちょっ、官兵衛殿、何すんの!?」
「貴様っ! 俺がその一枚を手に入れるだめに、どれだけの苦労をしたと思っている!」
「黙れ。変態の慰み物になるくらいなら、ここで灰と化した方が良かろう」
そして、ぴっと写真の端を二人に向けて放ると、彼らの手の中でそれはぼろぼろの灰になって崩れ去ったのだった。
まるで自分自身も燃え尽きてしまった二人を前にして、官兵衛はさて、と仕切りなおすように言葉を切った。
文机の座布団の上に乗せた、妖気球を手に取り、すくっと立ち上がると――――
「騒乱の争いは潰えた。次は――――あれの平穏を脅かす愚か者を滅するとしよう」
冷ややかな目で二人を見下ろすと同時に、官兵衛の背後にすうっと巨大の鬼の手が浮かび上がったのだった。
end
みんな変態さんですみません。