軍師たちの私生活
「自分のふんどしは自分で洗ってください」
と。
顔をしかめていささか品のない言葉をさらりと言いのけたに、執務に没頭していた両兵衛は揃って顔を上げた。
突然何の話だと官兵衛が無表情を向けると、半兵衛がおどけたような顔でああ、ごめんごめんと笑った。
卿か――――
ものぐさな同僚にいささか呆れたような表情を向けると、半兵衛はだってさぁと唇を尖らした。
「俺、家事とかからっきし駄目なんだよねぇ。これでもいい所の若様だったしさぁ」
これでも、と自分で言ってつけるのが自覚がある証拠なのだろうが、確かに竹中家の正当な血脈を継いでいる。もっとも今は家督を弟に譲り、自由気ままな生活をしているが、いい所の出であるのは変わりない。
だが、それは官兵衛も同じであるし、も元はと言えば姫と称される身分である。決して家事洗濯をしたり、間違っても人のふんどしを洗わせていい相手ではないのだ。
「わかったよ、自分のふんどしは自分で洗う」
と、何を今更と言われかねない事を堂々と答えて、半兵衛は官兵衛を呆れさせた。
普段は大所帯の豊臣一家だが、実はここ数日、両兵衛とを除いた皆が屋敷を空けていた。初めは一家みんなで慰安旅行でも、という話だったが、官兵衛が残ると言い出したのでそれに釣られてと半兵衛が屋敷に残った。
身の回りをさせている下女や下男もせっかくだからと暇を出してしまい、今は屋敷に三人だけ。立場上、家事一般はが世話する事になったのだ。
それと、とはふんどしの一件だけでは事足りないのか、両手を腰に当てて続けた。視線は半兵衛を向いている。……という事は、またこのものぐさな軍師が何かやらかしたのだろう。
「追い焚きが大変なので、湯浴みは最長一時間で済ませてください。使った書物は元の位置に……あと、書き損じの紙はちゃんとくずかごに捨ててください」
ふぁい、と半兵衛があくびを噛み殺したような気の抜けた返事をする。
言われて見れば、半兵衛は風呂に入れば二時間は出てこず、書棚の書物は戻すという事を知らない。しかも探すときに手当たり次第に書を取り出してはそこら辺に散らばったままにさせるので、次使う人間が大変迷惑をするのである。
そして三つ文机が並ぶ執務室では、明らかに半兵衛の机だけが汚い。乱雑という言葉を軽く超えるほどの混沌とした惨状で、何度が片付けても、机の周りは書き損じの紙が丸めて放ってあるし、書物はうず高い山を作って重ねられている。山の中から何時使ったのか分からない、空の湯飲みが発掘される事がしばしばだった。
そして物が無くなっては、
「〜。あれ何処だっけ、あれ」
との千里眼で失せ物探しをさせるのだった。
あれだけで言葉が通じてしまうもだいぶ半兵衛に毒されているが、元来しっかり者のにはこの状況は我慢できないらしい。
それから、といい加減耳にたこが出来たと言わんばかりの顔を半兵衛はしたが、はさらに続けた。
「好き嫌いは許しませんからね?」
官兵衛様、と名を呼ばれ、今まで無関心を通していた官兵衛が意表を突かれて顔を上げた。
朝から物を食べる気になれず朝餉の魚を半分残していたのを、はしっかり確認していたのだ。文句をつけるならば、が魚を焦がしたせいもあり、消し炭のような魚を丸々口にする気になれなかったのだが――――さすがに家事までさせておいて、文句をつけるのもいかがなものだろう。
言いたい事は全部すんだのか、は息をつくと、それでは昼餉の用意をしてまいります、と二人に頭を下げて去っていった。
が去ったのを確認してから、半兵衛がにやにやといやらしい笑みを官兵衛に向ける。
「俺達、がいないと駄目だねぇ」
半兵衛の方が怒られた数が多いというのに、何やら敗北感を覚える。
それはさておき、半兵衛の言う事はもっともなので、
「まったくだ」
と、呟いて、官兵衛はねねが帰るまで憂鬱な食事を続ける事に、知れずため息を零した。
end
半兵衛は片付けとか一切できなそう。
官兵衛は意外と小食、ついでに偏食ぽい気がする。
ヒロインは料理するけど下手っぽい。