鳥のさえずりのように小うるさい声で、喋る、唄う、笑う。
それだけで耳障りで、苛立ちが胸に募る。
嬉しそうに――――そう、とても楽しそうに彼の人の事を語る声は、弾むように響いて、耳障りで仕方が無い。
それは憧れに過ぎないのだと言う。恋慕には遠い、尊敬や敬愛であるのだと。
だが、そんな嘘に隠れた慕情が、言葉の節々から滲み出してあふれ出しているのを、当の本人は気付いていないのだ。
好きだの愛しているだのと陳腐な言葉を並べるよりも、どれほどその言葉に重みがあり、深い愛情が篭っているか――――それは傍らでさえずりを聞く人間にしか分からないのだ。
さえずる声は耳に届くのに、その声は自分のために唄わない。その想いの一片さえ、己には向けられていないのだと、絶対的な敗北を突きつけられるようにして知る。
なめらかに詩を吟ずるようなこの声が、自分はとても好きなのに――――他の男のために唄う声など聞きたくない。
耳を塞いでも流れ込んでくる恋歌に、いっそ鼓膜を破ってしまいたい衝動に駆られる。
否――――鼓膜を破っても、きっと声は流れ込んでくるのだ。唇がかたどり、微笑が彩り、言霊が想いを乗せ、音にならぬ歌が耳の中を満たす。
頭がどうにかなってしまいそうだ――――
このままでは、きっと自分は狂ってしまう。
もう、いっそ、自分のために鳴かぬなら……
舌切り雀
舌切り雀は某然と、格子で隔てられた部屋の向こうから遠く広がる秋の空を眺めていた。
列を作って飛ぶ鳥の群れが、薄い色の空に浮かんでいる。
南へ渡る鳥たちだろう。
季節が巡るまで戻って来ないと思うと、妙な寂寥感と哀愁が胸を襲った。
と、人が近づいてくる気配を感じ取り、は背後に注意を向けた。千里眼を使わずとも、足音の癖で誰が来たのか判別できてしまう。
それほど長い時間、は籠の鳥になっているのだった。
がちゃりと錠を開ける音がして、外の空気が流れ込む。だがそれはたった一瞬で、すぐさま重い音を鳴らして扉は閉まってしまうのだ。
「やあ、今日のご機嫌はいかがかな?」
背後から柔和な男の声。
は一瞥だけくれ、すぐにふいと顔を背けてしまった。その仕草に男が苦笑を漏らす。
「ご機嫌ななめだね」
当たり前だ、とは胸中で呟いた。
この籠の中に連れて来られてすでに三月――――外との連絡は一切絶たれ、一方的な狂愛を受けるこの身に如何に満足できよう。
あの日、は官兵衛の遣いで元就の元へ来ていた。
いつものように取り止めのない話しをし、用を済ませたら早々に辞去するはずだった。
それが突然――――話し途中で元就の様子が豹変した。
いや、顔はいつも通り柔和で落ち着いた雰囲気を、醸し出していたのだ。だが、元就の纏う色が、一瞬深く沈んだように感じた。
「君を愛していると言ったら、君はどうするかな?」
質問の意味が理解できなかった。
「私はこんな年寄りだし、両兵衛や小飼いたちのような若者みたいに愛を語るには、はした無いと思っているんだよ」
だから、本当はこんな事を言うつもりは無かったのだ、と。
「優しいおじいちゃんのままで、いられるならそうしたいと思っていたんだよ」
だけど――――
「鳥のさえずりが、あまりに五月蝿くてね……」
細められた目がの瞳を捉えた。
顔は笑っているのに、目は――――禽獣のように鋭く、小鳥を狩る鷹のようにぎらぎらと光っている。
は後ずさった。
この男は危険だ。近づいてはいけない。
だが、脳裏が警告を四肢に伝えるより早く、元就の手がの顔を掴んでいた。口を塞ぐように、元就の大きな手が顔を覆って――――
「私の事しか語れぬようにしてしまおうか?」
微笑みながら、問う。
「それとも言葉を奪ってしまおうか? 音階さえあれば、唄えるのだから、言葉なんて必要ないからね」
ねえ、いっそその舌を切ってしまっても、いいかい――――?
荒々しく口づけを受けたと思ったら、元就の舌がの口内に押し入った。掻き出す様にの舌先を引っ張り出して、元就の歯が柔らかくそれを噛む。
そして、激痛が舌先を走り抜けたと思うと――――鉄のような味が口いっぱいに広がったのだった。
そして、舌切り雀になったは、籠の中に居る。
end
柔和な笑みを浮かべながら、謀神だし実は黒かったら……
とか、思っていたらこんな話を書いてしまいました。