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君が夢中なあいつに嫉妬
ver.三成





「清正! ねえ、きーよーまーさー!」
 名を呼びながら後ろを歩く姿は、まるで親に追従する雛鳥のようで。何事かと顔を上げた三成の視界には、仏頂面で前を歩く清正とその後をしつこく追う久遠の姿が飛び込んできた。
「いいじゃない、ちょっとぐらい相手してよ」
「駄目だ。お前、この前も熱でぶっ倒れたんだろ?」
「もう良くなったって」
「駄目だ」
 ぴしゃりと言い放されて、はそれ以上何も言えなくなってしまった。こういう時の清正は頑固だ。何の話か知らないが駄目だと言ったものは、何がどうあっても駄目なのだろう。
 はぷくりと子供のようにふくれっつらをすると、恨めしげな視線で清正の背中を見送った。
 と、こちらに気づいたのか、ふと顔を向けると、
「聞いてよ、三成!」
 ちょっとした悪事を告げ口するようにして、駆け寄ってきた。
「清正ってば全然相手してくれないんだよ! 酷いと思わない? そりゃ確かにちょっと寝込んでたけど……おねね様だって普段通りにしてていいって言ってたし」
 こちらが何事だと問う前に、勝手に話を進め、勝手に怒る。こんな調子だから清正に相手にされないのだ、と胸中で呟きつつ、だいたいの状況を察し三成はふうとため息をついた。
「鍛錬の話か?」
「そう。だって、前に稽古つけてくれるって約束したんだよ?」
「お前の体調を気遣っているんだろう。そのくらい馬鹿でも分かると思うが?」
「それは……分かるけど」
 てっきり味方をしてくれると思った三成に正論をぶつけられ、は口ごもった。
「だいたいお前は軍師だろう。将のように前線に出るわけではないのだから、黙って守られていればいい」
 どうせ……黙っていたって誰かが守ってくれているのだ。ねねに始まり、二人の軍師、そして自分たち三人の子飼いの将が敵の凶刃を阻むだろう。その上、己まで強靭な刃を持つ必要があるのか。
 だがはそれは嫌だとかぶりを振る。
「私だって……自分の身くらい、自分で守れるようになりたいよ。みんなの足手まといにはなりたくない」
「なら、まずはその考えを捨てろ。お前が剣を持てば、逆に周りの仕事を増やす」
 なんで? と疑問符を飛ばすに、三成は再びため息をつきたくなった。それすらも分からない人間が、一人前に戦いたいとは笑わせる。己がどれだけ多くの人間を振り回し、気をもませ、心を奪ってしまうのか、この馬鹿はいつまで経っても理解しないのだ。
 もしが前線に立つようなことがあれば、心配性のねねは気が気ではないだろう。清正や正則も全力で戦う事が出来なくなる。そしてあの二人の軍師も、下手な軍略を打つかもしれない――――もっとも、官兵衛はむしろそれを逆手に策を練るかも知れないが。
「ともかく自分の体調管理も出来ぬうちは、つまらん駄々をこねるな。皆、お前の相手をしてられるほど、暇ではないのでな」
「三成は暇なくせに」
「……俺が暇そうに見えるのか?」
「うん」
 即答したに、三成は一瞬本気で頭を叩いてやろうかと剣呑な空気を放った。これでも(というほど、不真面目な態度をとったつもりはないが)よりは、働いている。
 一体、あの軍師どもはどういう教育をしているのだとぎりりと歯軋りしたところで、去ったはずの清正が棒切れのような物を二本携え戻ってきた。
「え、なに? やっぱり鍛錬付き合ってくれるの?」
 喜ぶに、少しだけだからな、と念を押し片方の竹刀をに投げて寄越す。
「ありがとう清正! 準備してくる!」
 そう言ってはあわただしくバタバタと自分の部屋へと帰って行った。
 三成はの去る背中を見送ってから、つと清正の顔を見やった。
「あまりを甘やかすな。俺がわざわざ説き伏せようとしていたのを無駄にするつもりか」
 三成の咎めるようなきつい視線に気づいたのか、清正はこちらを見なかった。
「馬鹿。ただ闇雲に禁じたって、あいつが聞くはずないだろ。それよりも最低限、身を守る方法を覚えさせた方が早い」
「それで前線に出たいなどと言い出したらどうする?」
「止めるさ」
「止まらなかったら?」
「全力で守る。それだけだ」
 そう簡単に言い切ってしまう清正が、三成には歯痒かった。それで軍の足を引っ張ったらどうする、それでもを危険に晒したらどうする。そんな悪い想像ばかりを自分はしてしまうというのに、この男はそれを全てたった一言で片付けてしまうのだ。
「お前だってそうだろ? 俺たち三人がいれば、あいつを守れるさ」
 そう言って真面目な顔で見返してくる清正の顔が、なんだか憎らしくて、三成は詰まらなそうにふんと鼻を鳴らした。



end



三成はネガティブ思考で現実主義者なので、簡単に守るとか言い切れません。
なのでそれを自信満々に言い切る清正には、ちょっとジェラシー。