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君が夢中なあいつに嫉妬





「それで官兵衛様がね、私の策を褒めてくださってね」
 欣喜雀躍という言葉が似合いそうなほど、嬉しいそうに言って子供のようには飛び跳ねた。何でもの立てた策が官兵衛に褒められ、次の戦で採用されるのだそうだ。
 本人は嬉しそうに何度も何度も同じ事を繰り返すのだが、聞かされている方はとても身が持たない。密かにふああとあくびをかみ殺し、清正は形ばかりの相槌を繰り返した。
 それにしても……
 官兵衛様、官兵衛様とよくもこんなにも舌が回るものだ。あの無口で無表情な軍師について、語るほどのものがあるのだろうか。
 どうせ褒めたと言っても、秀吉のように手放しで褒めるような事はすまい。きっと、よくやった、とかその程度の賛辞に過ぎないのだ。
 なのに……、たったそれだけの事で、をここまで笑顔にさせてしまう官兵衛に妬いてしまった。
 俺が同じ事を言って、こんなに喜ぶだろうか?
 答えは否――――にとって官兵衛は、絶対的な信頼と尊敬を向ける存在なのだ。
 あんな軍師のどこがいいのか、清正には理解できない。泰平の世のためとは言うが、心まで秀吉に仕えているとは到底思えない。いつ、その刃を主に向けるか、分かったものではないのだ。
「清正、聞いてる?」
「ああ」
 適当に相槌を返すと、は疑うような目を向けてきた。別の事を考えていたと、お見通しらしい。
「あーあ。力ばっかの武将には、軍略の素晴らしさが分からないんだよね」
「そうは言ってないだろ」
「目が言ってたよ」
 そんなつもりはなかったが、拗ねたは面倒くさい。ここは逆らわない方が良さそうだ。
 軍略や軍師をないがしろにするつもりはない。ただ、そういう役割を果たすものが別にあるのなら、自分がそれに関わる必要はないと思っているだけだ。
 軍師は頭で戦い、武将は腕で戦う。それだけの、単純明快な理屈だ。
 ただ、やはりあの軍師だけは――――どうしても気にかかる。
「泰平の世のため、か……。秀吉様の世のためではないんだな」
 ふと呟いた言葉に、は瞳をぱちくりと瞬かせた。
「同じことじゃない? 秀吉様が求めているのが皆が笑って暮らせる世――――つまり、泰平の世ってことだよ」
「そうか……?」
 平和という言葉でくくってしまえばそうかもしれないが、その二つには明らかに齟齬があるように思う。そう、例えばそれは秀吉の天下でなくても、平和になれば泰平の世という事ができるのだ……
「清正の言いたい事は分かるよ。でも……官兵衛様は徒に世を乱すような方じゃない。きっと私達、同じ世を目指していけるよ」
 ね? と柔らかく微笑まれ、二の句が次げなくなる。にそんな風に言われれば、反対の仕様がない。
「だから官兵衛様に噛み付いたりしちゃ、駄目だからね」
 と、額にちょんと指を突きつけられ、清正は力なくおう…と応じたのだった。



end

ヒロインの官兵衛大好きっ子ぶりにジェラシーな清正。