世界が終わる・夢現
「うわあああああああああん!」
どたどたと騒がしく廊下を踏み鳴らす音がしたかと思うと、すぱんと襖を開いて、涙で顔をぐしゃぐしゃにしたがそこに立っていた。声をかけるよりも早く部屋に上がりこむと、官兵衛の肩にがしっとしがみつき、
「かんべえさまあああああああ!」
と、泣き声を上げる。
「なんだ、騒々しい」
とても二十歳近い娘が上げる泣き声ではない。まるで子供のような泣き声に呆れながら官兵衛が声をかけると、はひっくひっくとしゃくりあげながら、
「夢を見たのです……」
と呟く。
聞けば遠い未来。泰平の世を導くため、豊臣と徳川が戦を起こすのだそうだ。そこで次々と見知った人間を屠り、最後は誰も残らないという無残な話だった。
下らぬ、と官兵衛が一蹴すると、はますます涙を浮かべて官兵衛にしがみついた。
「百歩譲って泰平の世のため豊臣と徳川が争ったとしても、私はぜっっったい豊臣に付きますから! 官兵衛様もです!」
びしり、と指先を官兵衛に突きつけたが、官兵衛は我関せずという顔で、もはや聞いてもいない。ひどいっ! とがまた涙声になると、二人の傍らからあのさ、と口を挟む者がいた。
「ところで、なんで俺はその夢に出て来ないの?」
と、半兵衛。
「え、ええと、さあ……?」
「すでに没しているのであろう。卿は早死にしそうな相が出ているからな」
「なっ! 官兵衛様、何てこと言うんですか! 官兵衛様だって、十分病死しそうな顔してますっ!」
「お前が言うな。そもそも、お前が一番早く死にそうだ」
ぎゃーぎゃーと――――だが、騒いでいるのはだけだが――――言い合いながら、誰が一番早く死ぬだの、お前はつまらない死に様を晒すだのと、言い合っている様はまるで夢の光景に相応しくなく、半兵衛は可笑しそうに腹を抱えて笑った。
「心配しなくていいよ、。そんな夢は、俺が絶対実現させないから」
「本当、ですか……?」
「うんっ。俺の残りの人生の昼寝と、官兵衛殿の禄全部賭けたっていい!」
勝手に賭けるなと官兵衛が突っ込んだが、はそんな事はお構いなく半兵衛を尊敬と信頼の眼差しで見つめている。
「ほらほら、官兵衛殿も約束して。を悲しませるような事はしません、って」
「……誓えぬな」
「まーた、そういう可愛げのないこと言ってー。いいから、ほらほら。約束!」
無理矢理に小指と小指を繋ぎ合わせ、ゆーびーきーりげんまん、と半兵衛は唄う。
「じゃ、これで俺と官兵衛殿はを泣かせるような事は絶対にしません。約束だよっ、官兵衛殿?」
「ふん。禄を全部取り上げられてはかなわぬからな」
詰まらなそうに不平を零すものの、約束の内容自体に文句はないらしい。
は涙で濡れた目をごしごしとこすり、にっこりと微笑むを投げかけた。
end
本編に救いがなかったので、夢オチはいつも以上に甘く。
官兵衛がデレたところで終劇!