この話は官兵衛シナリオの「大阪の陣」をモチーフにしています。
人がじゃんじゃん死ぬ上に、死にネタ・バッドエンドです。
それでも許せる方のみお進みください。
「、起きよ」
靴の先でこつりとやられた。忘我の世界に飛び立っていた意識を引き戻し、はゆっくりと瞳を開いた。
背中に感じる固い地面と雑草の匂いに、陣中で卒倒したのだと思い出した。そのまま放っておかれたらしい。日はすでに高く上がり、真夏の暑い日ざしが降り注いでいた。
「動け。仕事だ」
傷ついた身体に鞭打つように、官兵衛の言葉は容赦ない。
はゆっくりと身体を起こし、眼前にそびえる大阪城を見上げた。
瞳に碧の光を集約させ、敵陣を見据える。その顔ぶれにはいくつも見知った顔があった。
一瞬きの間、目を使っただけで眩暈が襲った。汗が背中を伝う感覚が気持ち悪い。の色素の薄い肌には、降り注ぐ陽光ですら毒のように体力を奪った。
もう力なんて残っていない。それでも戦がある以上、戦わなければならない。
は最後の力を振り絞るように瞳に意識を集中させると、翡翠の瞳で彼方を見つめた。
世界が終わる
正則は肩で息をしながら、敵兵を薙ぐように槍を振り切った。徳川軍の絶対的な物量の前に、豊臣軍は成すすべもない。だが、清正が諦めない以上、自分も膝を付くわけにはいかなかった。
俺たちの家が、今まさに壊されようとしている。
秀吉もねねも三成ももういない。
だが、たとえ空の家だとしても、それを崩す奴は絶対に赦しておけなかった。
あの陰険軍師――――
正則の脳裏に、黒尽くめの軍師の顔が浮かぶ。かつて共に豊臣を支えたはずの男が、なぜ今になって豊臣を裏切るのか。
関が原で三成が倒れたのもあの男のせいだ。あの男が俺たちの家をぶっ潰した。
泰平だとか何だとか、そんなもの関係ない。
秀吉がいたからこその天下で、それでこその泰平だ。秀吉のいない今、泰平など壊れて、乱世に戻ってしまえとさえ思う。
豊臣が徳川に屈するくらいなら、群雄割拠の世界に戻ってしまえばいいのだ。
ぎりり、と怒りを込めて槍を握り締めた。
あの男は絶対にこの戦地に姿を現すはずだ。もし自分の目の前に姿を現したら――――殺してやる。
正則は未だかつて感じたことがない激しい殺意を以って、黒田官兵衛の姿を探した。
と、正則の眼前に赤い衣が翻った。
一瞬、官兵衛かと思い槍を振りかぶりかけて、寸での所で止める。
「正則! 良かった、無事だったんだね」
「……。お前無事だったのかよ」
うん、と頷くものの、の姿は満身創痍だった。赤い衣は自分の血とも返り血とも判別の付かない鮮血でしとどに濡れ、頬は土で汚れ、足取りはふら付いている。こんな姿で、戦えるはずがない。
「帰れよ。おめーみたいなのが居ても、足手まといなんだよ!」
怒鳴り声を上げると、は悲しそうに顔を俯かせた。
ごめん、と小さく呟く。
「でも、私も……官兵衛様を止めたいの。官兵衛様と清正達が戦うのなんて、私辛くて……」
つうと頬を伝う涙に、正則は言葉を失った。
こんな戦場であっても、の美しさは失われない。どんなに血や埃に汚れようとも、その涙を美しいと思ってしまった。
「ちっ、仕方ねぇな。俺の側から離れるんじゃねえぞ!」
そう言って、正則はを庇うように前に立った。
まずはを安全な所へ移さなくてはいけない。清正の守る天守か……。だが、誰も通すなと厳命されている状態でどう連れていったものかと正則が頭をひねっていると、ふとずきりと胸の辺りが痛んだ。
「おい――――?」
なんだこれ……
わけもわからないまま、正則はその場に膝を付いて倒れた。
胸の辺りが妙に熱い。じわじわと液体のようなものが、流れ出ている。まるで身体に穴でも空けられた様だ――――
霞む目で背後に視線をやると、が銀の短刀を手に佇んでいた。逆光のせいで顔は見えない。切っ先からぽたりぽたりと鮮血が滴り落ちている。
ああ、くそ、あれでやられたのか――――
「敵に背中なんて見せちゃ駄目だよ? 正則」
恐ろしく穏やかな声で、いつものように語り掛ける。
「な……で……」
なんで、お前が豊臣を裏切るんだよ――――!
「だって……私は官兵衛様の駒だもの。泰平の世のためなら、豊臣だって滅ぼすよ」
そのために今まで、生かされてきたんだから。
はゆっくりと正則に覆いかぶさると、短刀を空高く振り上げた。
「正則、ごめんね? 私のこと、たくさん恨んでいいから」
だから死んで――――
力いっぱい振り下ろされたそれは、正則の命を一瞬にしてかき消した。
頬を汚した返り血を無造作にぬぐい、はゆっくりと立ち上がり、大阪城を見上げた。
end
ヒロインは官兵衛と徳川に付いたので、清正達とは敵同士。