妊娠に関わるお話です。
三成がたいへん残念な事になっています。クールでカッコイイ三成が好きな方にはお勧めいたしません。
苦手な方はお戻りください。
懐妊の報せを聞いて喜ぶよりも何よりも、未だ見ぬ子の反抗期の心配をしてしまった殿はけっこうな確率でアホなのだろう――――
マタニティ・ピンク
「左近、どう思う?」
正面切って尋ねられ、左近はどう答えたものかと頭を悩ませた。
その間にも三成は勝手に妄想を突っ走り、一人つらつらと言葉を続けている。
「仮に娘だったとして年頃になれば、父親というのは疎ましく感じるようになるのは自然の事だ。俺は厳しい父親でありたいと思うが、ただ叱り付ける様な融通の利かぬ男ではない。ならば、もし娘が父上の洗濯物と一緒に洗わないでなどと言い出した時は――――」
なんでこうなっちゃったんでしょうねぇ、と左近は残念なものを見るような目で主君の顔を仰ぎ見た。
普段どおりの涼やかな表情だが――――あ、駄目だ、この人目がすわってる。興奮しすぎて目つきがおかしい。
きっと嬉しくて、嬉しすぎて仕方なくて、軽く思考がぶっ飛んでしまっているのだ。
前からどこか変わった思考回路をしていたが、今は完全に脱線しまくり思考という思考が別の回路と混線しているのだろう。
「左近、聞いているのか!」
三成の反抗期対策などまったく聞いていなかったが、左近ははいはいと適当な相槌を打った。
どうやらまだ続くのか、話は反抗期を通り過ぎ、すでに娘の嫁入りにまで及んでいる。今はお嬢さんを下さいなどと、どこぞの馬の骨がやって来たらどうしてくれよう、とその対応を真剣に考えている。
「左近。不吉なものは塩で清められるらしいが、その手の輩にはどういう塩が利くのだ?」
「知りませんよ……」
というか、挨拶に来た男に塩をぶつけるつもりでいるのか、この男は。
どうも娘を持つ父親というものを大きく勘違いしているらしい。
一応、知将で通っているはずなんですけどねぇ――――と、再び呆れたような視線を向けつつ、これが一時的なものである事を左近は祈った。
――――と。
「そういえば、なんで娘なんです?」
「なにだが。息子に婿が来るのか?」
「そうでなくって……だから。生まれるのがどうして女の子と分かるんです?」
男の子かもしれないでしょう、と続けると、三成は小馬鹿にするような――――それこそ、主従関係でなければ、左近がそっくりそのまま向けてやりたいような顔をした。
お前は馬鹿か、と彼らしい悪態をついて、
「似の娘の方が夢があるではないか」
と、とても戦国時代の大名らしからぬ事を、自信満々に言ってのけたのである。
世継ぎはどうするとか、家督は誰に継がせるとかそんな事は置いておいて――――とにかく、彼は嬉しいのだろう。今から過保護で鬱陶しい父親像を夢見るほどに。
自分の娘に、鬱陶しいのだよ! とか言われなければ良いのだが。
左近の心配など露知らず、三成の夢語りは続く。
と、その時、襖の向こうから付きの侍女が三成を呼んだ。
襖を開いて頭を下げた侍女に向かって、
「生まれたか!?」
「いやいやいや。生まれませんよ、殿。懐妊したのは二月前でしょう。とつき十日はかかるんですよ」
きょとんと目を丸める侍女に代わり、臣下の役割とばかりに左近は突っ込みを入れる。
三成はむっと眉をしかめると、もっと早く生めないのか、と無理な事をぼやいた。
「また、そういう無理を仰る……。人間の子供と言ったって、今はまだ虫みたいに小さいんです」
「人の子供を虫呼ばわりか」
「そうじゃなくって――――」
もうこの人やだ、と左近は泣きたくなりながらも、三成の子供のような無邪気さに顔は苦笑を浮かべていた。
何はともあれ、子は何にも勝る宝である。
左近は姿勢を正し三成に向かって深々とお辞儀をすると、
「殿、おめでとうございます」
顔を上げると、照れたような嬉しそうな三成の顔がそこにあった。
end
でも、書いてて物凄く楽しかったです(笑)
戸惑う半兵衛に対し、生まれる前から親馬鹿な三成でした。