妊娠に関わるお話です。
男性のマタニティ・ブルーとか想像なので、ファンタジーとしてご覧ください。
懐妊の報せを聞いて喜ぶよりも何よりも、本当に己の子供かどうか疑ってしまった自分は最低だ――――
マタニティ・ブルー
「愚か者が」
正面切って罵倒されて、半兵衛はうっと顔をしかめた。
「勝手に孕ませた分際で、何をぶつぶつ言っている。大人しく男の責任を取れ」
官兵衛の言う事はまさに正論。
半兵衛がする事をしなければ、が子を孕む事もなかったのだし、人んちの娘を傷物にしておいて何を今更言っているという心境なのは至極最もだ。
だが。
「いや、うん、分かってるよ。分かってるんだって。は俺しか知らなかったし、お腹の子の父親が俺以外あり得ないっていうのも」
だけどさぁ、と呟いた瞬間、官兵衛の陰鬱な瞳が威圧的な光を増した。まだグチグチと口上を並べる半兵衛に苛立ち始めている。
だが、それでも半兵衛の言葉に耳を傾けてくれるのは、彼が唯一無二の親友であるからだろう。
もし、同じような事を懐妊を喜ぶ秀吉やねねの前で口にしたら、きっと絞め殺されていたのではないかと思う。あるいは子飼いを差し向けられてずたぼろにされていたか。
いずれにしろ、非難されていたに違いない。
「実感が――――ないんだよ。俺、子供なんて持つの初めてだし。俺自身がこんな成りしてるし」
「子供扱いされると怒るくせに、こんな時だけ容姿を盾にするつもりか?」
容赦の無い官兵衛の突っ込みに、半兵衛は言葉を詰まらせる。
卑怯だ。
知っている。俺は――――卑怯だ。
「怖いんだよ。俺……ちゃんとした父親になれるかなんて」
自信が無い。
だが、の腹はどんどん膨らんで、とつき十日で子は生まれて来るのだ。その時――――自分はちゃんと父親の顔が出来るのだろうか。
ちゃんと生まれて来た子供を愛する事が出来るのだろうか。戸惑って、を傷つけてしまわないだろうか。
「怖いんだよ」
文机の上に組み合わせた両手で額を支えるようにして、半兵衛は俯く。
男女が交われば子が出来るなど分かりきった事であるのに、どこか自分の頭ではその感覚が薄れてしまっていた。
いつかは子が出来るかもしれないし、産んで欲しいと思う――――そんな風に漠然と考えていたが、それがこうしてすぐに実現するとは思っていなくて。
「俺……父親失格だ」
唇の合間から溜息に似た吐息が漏れる。
官兵衛は陰鬱な瞳で半兵衛を見つめてから、再び、
「卿は馬鹿か」
と半兵衛を叱った。
「一朝一夕で父親の自覚など生まれるものか。そもそも父親になるのに、母親以外の誰の許可が要る。あれが夫と決めたのだから堂々としていれば良い」
そもそも――――私に出来たのだ。卿に出来ぬ道理があるまい。
少し照れくさそうにそう続けた官兵衛が意外で、半兵衛は眉をハの字に開いて苦笑を漏らした。
「まさか官兵衛殿に慰められるなんてね〜」
茶化すような口ぶりで言うと、照れ隠しか煩いと頭を小突かれた。
「それよりも、あれの前でその辛気臭い顔は見せるな。子を宿したばかりの女は精神が不安定だ」
結局はを一番に気遣うあたりが官兵衛らしいと言うか。
わかってるって、と返しながら半兵衛は有難く官兵衛の助言を受け入れる事にした。
今はまだ実感がなくても、やがてこの手に我が子を抱く頃までには、愛おしくて仕方がなくなっているかもしれない――――そんな事を思いながら。
「あ〜、名前なんにしよう」
end
マタニティ・ブルー半兵衛でした。
子供っぽい人なので実はけっこう戸惑いがあるんじゃないかと。
でも子供生まれたら、逆に親ばかになるんじゃないかなぁ。