共犯者・裏の裏
夜半過ぎ、身体に絡みつく半兵衛の腕をそっとどけて、は起き上がった。
足取りがふらつく。今日の半兵衛はまるで己の存在を刻み付けるように荒々しかった。
は手早く夜着を着込むと、音を立てないようにするりと陣幕を抜けた。
の気配が消えると、眠っていたはずの半兵衛がむくりと身体を起こす。の身体の跡のついた褥に触れ、
「まったく……まだ俺のモノにならないなんて、可愛くないね」
と独りごちた。
吐く息が白く夜の闇に吸い込まれる。は息を切らして闇夜を駆けると、人気のない林道で脚を止めた。
暗闇の中に、すうと黒い影が現れる。
は片膝を付き、かしずいた。
「半兵衛は気づいたか」
闇夜に響く官兵衛の声。は短く、はいと答える。
「半兵衛ならば当然であろう。お前の稚拙な策を見切れぬようでは、軍師として役に立たぬ。尤も、今頃どうやってお前を手中に収めようかと、策謀を広げているやもしれぬがな――――」
あの日、官兵衛の元を訪れた半兵衛は、ある『お願い』を官兵衛に告げた。
もし官兵衛が戦の最中で死ぬようなことがあれば――――を半兵衛の直臣とする事。それを官兵衛に約束させたのだ。
「まさか……」
は半兵衛が官兵衛を謀殺するのではないかと、顔を険しくさせた。
だが、官兵衛は構わぬ、と答える。
「泰平の世を成すのは、私でも半兵衛でも構わぬ。もし私が死することがあれば、半兵衛を主とし、従うのだ」
には承服できなかった。どんなに身体が汚れようと心を支えてこれたのは、官兵衛がいたからだ。それをまるで首を挿げ替えるように、他人に代えられるものか。
心の逡巡が表れるように、両の瞳がちかちかと碧の輝きを放った。
だが、官兵衛は躊躇すら赦さず、よいな、と念を押した。
官兵衛の命であるならば、は従う他ない。
力なく、わかりました、と答えると顔を上げる。
月もない闇夜では官兵衛の顔を判断する事はできなかった。官兵衛の顔はほぼ無表情といっていいが、共に居るものだけに分かる、わずかな差異があった。
今、官兵衛はどんな顔をしてそれをに命じるのか――――には分からなかった。
「……私を恨むか?」
官兵衛の声に、はいいえとかぶりを振る。
両の瞳から涙が溢れた。
「私は……官兵衛様の事が大好きです。どんなに酷い事を命じられても、官兵衛様と離れたくありません」
こんな言葉を紡いだところで、官兵衛の心が得られるわけでもないのに。の瞳からはらはらと碧の光を宿した涙が、零れ落ちて地面に砕けた。
「ずっと……お慕いしております」
抱き合う事も、口付けを交わす事もないけれど、この想いはきっと本物だと。
共犯者で居続ける事が、二人の心をか細い線で繋いでいるのだから。
end
これにて「共犯者」完結! 今までお付き合いくださり、ありがとうございました。
結局、三人が三人とも共犯者でした、というオチです。
一番上手だったのは誰だったのか。
結局、
ヒロイン→城攻めを中断させるために、三人から情報を得る。肉体関係を持ったことは官兵衛には内緒。半兵衛にぐらりと来つつ、でも官兵衛を敬愛。
官兵衛→城攻め中断のためヒロインを差し向ける。ヒロインが関係を結んでいる事は実は知っており、ヒロインのトラウマを植え付けたのも官兵衛。ヒロインは大切だけどそれを告げる事はない。
半兵衛→ヒロインと官兵衛がお互いに黙っている真実を知る。それをネタにヒロインを得る。が、心はいまだ官兵衛にあるのでちょっと面白くない。
という互いに騙し合いながら同じものを目指す共犯者たち。