半兵衛と官兵衛が仲良くない&ヒロインに優しくない。
ヒロインが複数の男性と関係しています。
それでも許せる方のみお進みください。
暗闇の中に横たわる女の身体は、まるで人形のようにぴくりとも動かなかった。
男の放つ欲望の声ばかりが、荒い息遣いとなって闇夜に響く。
いくら男が熱を放っても、女は冷たく、ただそこに横たわっているだけだった。
瞳は揺れることすらなく、四肢はだらりと投げ出され、まるで男の独り相撲。
これでは自慰となにも変わらない。
男が必死になればなるほど、女の心も身体も冷えていく。
『可愛げのない女子じゃ』と男が恨み言を呟くと、女はわずかに、唇の端を釣り上げて笑った――――
共犯者
「遅れて申し訳ございません」
軍議に送れてやって来たを、一同は一瞥すると、何事もなかったように話を再開させた。
これ以上は兵糧が持たぬ、いっそ援軍を願い出てはどうか、いやいやそれでは我らの沽券にかかわる、しかしこれ以上戦を長引かせては――――
なかなか落ちない敵を城を囲んで、すでに十日が過ぎていた。
孫氏に言わせるなら、城攻めは兵法では下策も下策。それまでに降らせることが出来なかった戦ならば、一度体勢を立て直し、相手が城を出たところを叩くのが早い。
が、この戦場に出陣した重鎮たちは、やれ沽券がなんだの、やれ面目が立たぬなどと、何がなんでも城を落とす事に躍起になっている。
軍師たちはいい加減、説得するのに閉口し、最近は口を閉ざして別の策ばかり巡らせていた。
「あーあ、今日も無駄な時間を過ごしたなぁ」
と、ひとまずの解散を受け、半兵衛は伸びをしながら陣幕をくぐった。
外はとっぷりと日が暮れて、空には星が輝いている。吹く木枯らしは冷たく、冬の到来を告げていた。
「まったくさっさと城に戻っちゃえばいいのにね。これからどんどん寒くなるし、兵たちの士気ももたないよ」
ね? と同意を求めるように、後ろを歩くに顔を向けると、はさして興味もないといった表情で言葉を返した。
「さあ……私は皆様の方針に口を挟める身分ではございませんので。命じられた使命を全うするだけです」
「うわっ、さっすが官兵衛殿の弟子だね。は優等生だなあ」
と、にやにやと半兵衛は笑みを浮かべた。はわずかに眉根をひそめたが、とりわけ相手にする気にもなれず、無言を押し通した。
でもさあ、と半兵衛は続ける。
「戦が長引けば長引くほど、の身体にはよくないんじゃないの?」
「それは……」
お互い様でしょう、と言いかけては口を噤む。
病弱な身体の事を言うならば半兵衛も同じ。だが、半兵衛の揶揄するような口調はそんな事を指しているのではない。
「兵は男ばかりだからね。こんな生活続けてると、中には我慢ができなくなってくる人もいるんじゃない?」
何を、と明確には言わず、半兵衛は曖昧な言葉を選ぶ。まるで心を外堀から埋められているような気分だ。
「お濃様やおねね様と違ってはただの軍師だしさ、後ろ盾もなければ護衛もいない。無防備だよね」
の瞳に怒りの色が強く表れた。が、半兵衛はにやにやとした笑みをやめない。
「官兵衛殿はこういう事に鈍感だからなあ。かといって、秀吉様にも相談できない。三馬鹿たちには尚更言えないだろうし――――孤立無援だね」
「何のことでしょう」
は瞳を鋭くさせて、半兵衛を睨み付けた。半兵衛はそれすらも楽しむように、口元に笑みを広げる。
「こんな物つけて歩いてたら、みんなにも気づかれちゃうよ?」
と、の髪に張り付いた枯葉を指で取って見せ付ける。
「ねえ、武将たちに身体を自由にさせてるって本当?」
好奇の瞳がを捉えた。は答えない。
「代償は何かな。大方、戦で指示を聞くようにっていう約定? そんな事しないと兵も動かせないなんて、女の子は大変だね」
ひゅっ、との短刀が半兵衛の頬を掠めた。頬をつうと伝う鮮血を、半兵衛は無造作に指先でぬぐうと口に含んだ。
「なんだ。反抗できるんじゃない。だったら、どうして君を抱いた男たちにもそうしなかったの? それとも――――けっこう楽しんでた?」
「何を……!」
はもう一撃くらわせようと振りかぶった。今度は牽制ではない、多少痛い目にあってもらう。
が、半兵衛に切りかかる前に、手首を押さえられぎりぎりと締め付けられる。
「っ……!」
の指先から短刀がするりと落ちた。足元に落ちたそれを半兵衛は、遠くへと蹴り飛ばす。
「はい、終了〜。挑発されたくらいでむきになって、大切な武器を手放しちゃだめだよ。武器がないと――――戦場では誰にも勝てないんだから」
ね? と柔らかい笑みを浮かべるが、掴まれた手首には力が篭ったままだ。が痛みに顔をしかめると、半兵衛はさらに力を込めた。
「ねえ、俺とも遊んでよ?」
まるで悪戯を誘うような子供っぽい口調で。
目をみはるに、半兵衛は共犯者の口付けを落とした。
end
殺伐夢のはじまり、はじまり。
官兵衛殿の登場はもう少し先です。