金銀妖瞳03
吾である。
吾の語る金銀妖瞳シリーズもこれで三作目となる。これもひとえに毎度、稚拙な吾の語りに付き合ってくれる皆のおかげである。出来ることならば今この頁に目を通している人へ、感謝の言葉を伝えたい。ありがとう。
さて、読者諸姉よ、そろそろ吾の名は覚えていただけただろうか?
……断じて玉三郎や田吾作ではない。
吾が名は――――
「お、玉三郎」
声をかけると、呼ばれたのが分かったのか、白猫が振り返りナーと声を上げた。
「よしよし、自分の名前が分かるんだな」
と、清正が頭を撫でると、猫は迷惑そうに目をしばたいて清正の手から逃れた。
可愛げのない奴だ、と独りごちると、今度は余計なお世話だと言わんばかりにンナーと声を上げる。
こいつ本当は人間の言葉が分かってるんじゃないか――――?
金と銀の左右異なる瞳が怜悧な視線を清正に投げかけ、思わずそんな荒唐無稽な事を考え――――清正は馬鹿なと首を横に振った。
そこへ鉄扇を手にした三成がやって来た。
「清正、何をしている」
と何時もながらに尖った口調。そう言えばこいつに呼ばれていたな、と思い出し、清正は悪い、と短く答えた。
「悪いと思うならさっさと来い。秀吉様がお待ちだ」
「ああ。そう思ったんだが、そこで玉三郎に会ってな」
「玉三郎?」
三成が眉根をしかめ、清正の視線の先にある白猫を見やった。
そして、
「なんだ。田吾作の事ではないか」
と。
読者諸姉、どうか人語を話せぬ吾に代わって、こやつらに突っ込んでやって欲しい。
吾の名は白眉である!
間違っても玉三郎や田吾作と言った、農民のような名ではない!
――――いや、全国の玉三郎氏と田吾作氏を敵に回すつもりはないのだが、吾には白眉という蜀の馬良にあやかった知的な名があるのだ。
そもそも貴様ら、どういうネーミングセンスをしているのだ。もう少しマシな名は思いつかなかったのか?
おい。何とか言ってみよ。このキツネ! トラ! 馬鹿と大馬鹿!
ニャーニャーと白猫がわめく隣で、清正と三成は互いに険悪な空気をかもし出していた。
「なんだ、そのダセぇ名前は。どこの田舎モンだ。この猫はおねね様が玉三郎って名づけたんだよ、馬鹿」
「馬鹿は貴様だ、馬鹿。秀吉様が、田畑で働く農民たちの苦労を忘れないようにとつけられた、有難い名にケチをつけるのか?」
「嘘をつけ。間抜けな顔が知り合いの田吾作どんに似てるとか言ってただろ。勝手に美談にすんな、馬鹿が」
「嘘も方便という言葉を知らんのか、馬鹿が。秀吉様が猫に領民を思いやる名をつけたと伝わった方が、秀吉様の株が上がるではないが」
「それが余計だ、この馬鹿。秀吉様はそんな小賢しい事しなくたって、十分領民に慕われているだろうが。それよりも、おねね様のつけた玉三郎の方が聞こえも美しい」
「何が美しいのだ。単にタマと呼びたかっただけだろう。そんな事も分からないのか馬鹿め」
「猫をタマと呼んで何が悪い」
「名が安直だ。捻る頭も持っていないのか、クズが」
いつの間にか互いの胸元をつかみ合い、剣呑な空気で繰り返される馬鹿の応酬。
二人は同時にちっと舌打すると――――
「どけ。狩られたくなければな!」
「目障りなのだよ!」
と、獲物を片手に暴れだした。
さすがにこれは猫には止め様がない。白猫はンナ〜と一鳴きすると、尻尾を振って逃げ出した。
もう構わぬ……諸姉も好きな名で吾を呼ぶが良い、と――――猫が言ったかどうかは分からない。
end
お猫様視点、三話目でした。
もう一作かけるかどうかってところでしょうか。
豊臣一家は全員(一部名前だけですが)出たので、次は中国・九州勢かなぁ。