金銀妖瞳02
吾だ。
今日はこの屋敷の中に住まう人間どもの生態について語ろうと思う。
この屋敷の中には、いくつかヒエラルキーというものが存在する。種の優劣を現す段階的組織構造のことであり、自然界で言うところの食物連鎖ピラミッドという所か。
残念なことに主人はこの中では、最下層に位置する。
敵は多く、どいつもこいつも隙あらば主人を食らわんとする、獰猛さと狡猾さを有している。逃げるか味方と結託して排するかすべきなのだろうが、なにぶん我が主人は脆弱ゆえ、そのどちらも叶わぬ。
では、黙って食われるのを待つのか――――と言うと、実はそうでもない。
主人自身は脆弱、虚弱、病弱な上に貧弱、と四大非力要素が備わっているが、主人のバックには強力な味方が付いているのである。
ふむ?
どうやら母ライオンの登場のようである。
せっかくだから紹介しておこう――――
「乱世の火種、潰えよ」
呟いたかと思うと、虚空より振り下ろされた鬼の手がみしりと床板を打ち抜いた。
あとわずかで身体が同じように粉砕されていた――――
正則はぺたりと尻餅を付くと、すぐさま姿勢を正し、額を床にこすりつけた。
そして、
「すンませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!」
腹の底からの絶叫。
だが、官兵衛はそんな正則に一目もくれず、足元に落ちた一眼レフを拾い上げると――――
ぐしゃり。
どこにそんな力が眠っていたのかと思えるような怪力で、握りつぶした。
「あ、ああ……三成のカメラが……」
正則の目の前でパラパラとカメラの破片が塵に変わる。
官兵衛は冷たい眼差しで正則を見下ろすと、
「命が惜しくば詰まらぬ企ては起こさぬことだ」
と、言い捨てぱたんと襖を閉めた。
いかがだろうか? これが母ライオンの力である。
面妖な技を使う上に、意外と体力もある。ついでに顔はいつでも凍りつくほど冷徹で、敵に対する威嚇も十分である。その上、子供に対する愛情も申し分ない。
実は襖のこちら側で、主人が無防備な格好で寝入っていたのだが――――それ故、あのような不埒な輩を寄せ付ける――――敵を撃退した上に、寝入っている主人に自分の衣までかけてやるという博愛の心。
うむ。母と呼ぶに相応しき男である。この男が密かに「おかんべえ」などと呼ばれていることを、吾は知っている。
主人もこの男にはなついているようだが、吾もおかんべえの事は嫌いではない。どこぞの不遜な白い若造や、先ほどの妙に頭部が出っ張った小僧より、静かで思慮深く、愛情溢れるこの男は遥かに好感が持てよう。
だからこそ、吾も安心して主人の護衛を任せておけるというものだ。
ちなみに、白眉という名はこの男の命名だ。もう少し強そうな名前はなかったのかと異議を申し出たい気分ではあるが――――玉三郎や田吾作よりはいくらかましである。
仕方がないので、その名で呼ぶことを許してやろう。
「白眉」
と、男が吾が名を呼んだ。なんだ、と返事を返すと、男がちょいちょいと手招きをした。
意外な事だが、男は実は猫好きである。照れくさいのか余人がいる時は、吾に触れるどころか名を呼びもせぬが、誰もいないとたまにこうして吾の顎の下を掻く。
ふむ。男の膝は固くて好かぬが、この男は撫でるツボというのを心得ている。しからば、しばし家猫のように撫でられてやるのも、やぶさかであはるまい。
end
金銀妖瞳二話目。白眉さんの官兵衛考察でした。