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!CAUTION!
最終的にヤンデレ落ちになります。狂愛風味です。
「共犯者」シリーズ以上にエグくなる予定(たぶん)ですので、
嫌悪感を感じられる方はブラウザバックをお勧めします。
バッチコーイ!な方のみお進みください。




















甘露05





 翌日、は執務室に一度も顔を出さなかった。
 どこへ行ったのかと官兵衛に尋ねると、城下町に遣いへやったと言う。一人かと問えば、護衛に適当な者を連れていけと命じたと聞き、半兵衛はまた心に暗雲が広がるのを感じた。
「行ってくれれば俺が付いていったのに」
 何気なさを装いながら咎めるように言うと、官兵衛はふんと鼻で笑った。
「何を言う。卿はいつも面倒くさがって動かぬではないか」
「そうだけどさ。の護衛なら、まあ悪くもないし」
 仕事もサボれるしね、と冗談めかしたつもりだったが、官兵衛はむっと顔をしかめた。いつもの凶相がますます不吉に見える。
「……あれにはもう、関わらぬ方がよかろう」
 一瞬何を言われているのか分からなくて、半兵衛はきょとんと目を丸めた。
「関わるなって?」
「言葉の通りだ。あれは良い影響を卿に与えぬ。今後は……執務も別の部屋でさせる事としよう」
 一気に話が勝手に進み、何を言っているのかわからない。
 半兵衛は戸惑った。
「ちょっ、ちょっと待ってよ。何の話?」
「だからあれにはもう、近づかぬ方が良いと言っている」
「どうして」
「理由を言わねば伝わらぬか?」
 官兵衛の暗い瞳が半兵衛を見ている。まるで心の内に広がった、半兵衛の後ろめたい欲望を見透かされているようだった。
 確かに自分は、おかしいのかもしれない。
 こんな風に執着し、欲しいと思ってしまうのは、ずいぶんと滑稽で浅ましく見えるのかもしれない。
 だが、それは官兵衛に咎められる事では決してない。
「じゃあ……どうして、俺の所にを送り込んだりしたの。官兵衛殿はの気持ち、知ってたんでしょ?」
 は半兵衛が好きだった。
 だから、他の娘が伽に行くのは悲しくて、切なくて、勇気を振り絞ってその役を自分で買って出たのだ。たとえそれが、一夜限りの泡沫の夢だと知っていても。
 その想いを利用したのは、官兵衛や自分、大人の方なのだ。
 官兵衛はふうと深いため息をついた。
「あれを卿に近づけさせたのは私の誤算だ。それは私に咎があるだろう。だが……私とて本意ではなかった。元々は他の者を向わせる手筈だった」
 そんなものはいい訳だ。
 そこにどんな理由や思惑があったにしろ、あの日半兵衛の元を訪れたのはで、半兵衛が抱いたのは以外の何者でもない――――あの日からずっと半兵衛はの幻ばかりを見る。
「情欲に溺れた者ほど愚かな者はおらぬぞ」
 官兵衛の言葉は手厳しいが確かに正論で、半兵衛は分かってるよ! と強い口調で言い返した。
 その余裕のなさに、官兵衛は益々顔を不機嫌そうにしかめる。
 こんなはずではなかった筈なのに。罪悪感と後ろめたさが、なぜ嫉妬に変わり、こんなにも枯渇した情欲へとなったのだろう。
 がもう一度自分を受け入れてくれていたら、あるいは今でも自分に想いを寄せてくれていると感じられたら、きっとこんなにも不安にはならなかったはずなのだ。なのにの反応は変わらず、まるで何事も無かったかのように振舞うから……
 ――――自分は悔しいのか。
 いつでも焦がれるような想いを向けていてくれないと、満足できないのか。
 勝手だ。これ以上の関係は続けられないと思っていたくせに。それが現実になると、途端に寂寥感がこみ上げて、どうにも落ち着かなくなる。
 とんだ愚か者だ。
「……頭、冷やしてくる」
 半兵衛は力なく呟くと、執務室を出て書庫へと向った。
 自分はきっとどうかしている。
 官兵衛の言う事は正論だ。が何を思っているにしろ、こんな風に拘泥するのは良くない。
 いつも通りの顔でに会える日が来るまで――――距離を置くべきなのかもしれない。
 書庫の中で頭を冷やそう。兵書にでも没頭すれば、いずれこの熱は収まる。余計な雑念の入らない場所で独りになりたい。
 そう思って、書庫の扉を開いた。
 明り取りの窓から差し込む西日が一筋、板張りの書庫の床に朱色の光を投じている。その光の中を書から浮かんだ細かな埃が、きらきらと煌いていた。
 その中で、深い陰影を光の中に落とし、一心に書をめくる姿。
 長い髪や白いかんばせが、夕暮れを受けて朱色に染まる。
 嗚呼、やはりもう、無理だ――――
 距離を置こうと思い直した矢先に、こうも容易く決意が揺らいでしまうのは。
 袋小路に追い詰められたような心地で、半兵衛は書棚の奥に立つ華奢な人影を見つめた。
 こんなにも離れているのに――――瞬きのたびに震える睫毛の一つ一つを、呼吸のたびにわずかに上下する胸を、微風に揺れる髪を、書をめくる指先のわずかな動きを、眼が捕らえて離さない。
 ごくり、と知れず生唾を飲み込んでいた。
 口の中がからからで、頭がぼんやりとはっきりしない。
 一歩――――
 近づくと、がこちらに気が付いた。一瞬驚いた顔をして、そして微笑んで礼をする。
 一歩――――
 更に足を進めると、何か言ったようだった。
 この本が何だとか、あの資料がどうだとか、そんな事を言っていたのかもしれない。
 一歩――――
 獲物を追い詰めるように距離を縮めると、が怪訝な顔をした。
 自分は一体どんな顔をしているのか、それすらも分からない。ただ夕闇に沈んだ自分の姿は黒く、まるで闇を纏って来たる何か不吉なものに見えた事だろう。
 一歩――――
 もう、後はない。
「半兵衛様……?」
 と、名を呼ばれた気がした。
 鈴の音のような声。もっと喉の置くから搾り出すような嬌声を聞きたい。もっと瞳を濡れさせて、白い身体を熱で染め上げたい。
 無言のまま顔を寄せて、唇を奪った。
 混乱と戸惑いには抵抗したが、腕を縛り上げてそれを封じた。の手の中から今さっき読んでいた書物が零れ落ちる。
 何度も角度を変えて貪る様に口内をまさぐり、余裕のない指先はの足を這った。
 暴れられるのが面倒で、床に縫い付けるようにして押し倒した。帯を解く暇すら待てず、襟元を力任せに広げ、裾を捲り上げてすべらかな足を撫で上げた。
 首筋を噛み付くように吸い上げ、所有の証を点々と、徐々に下に降りるように付ける。
 愛撫もほどほどに足を抱え上げて、性急な仕草で女の中心を穿った。
 悲鳴とも嬌声ともつかない声が、静寂を破る。
 自分の上げる獣のような荒い息遣いと、の嗚咽のような細い声が、ただただ夕闇の中を満たし。
 は泣いていただろうか――――
 それすらも分からない。
 ただ欲望のままに身体を繋げ、幾たびもその中に精を放った。
 くしゃくしゃの着物の上に転がった躯のような身体に、命じるように告げる。
「もう、逃がさない」



end


ついに箍が外れてしまいました。
次回、最終話。「甘露」の本当の意味。