Text

!CAUTION!
最終的にヤンデレ落ちになります。狂愛風味です。
「共犯者」シリーズ以上にエグくなる予定(たぶん)ですので、
嫌悪感を感じられる方はブラウザバックをお勧めします。
バッチコーイ!な方のみお進みください。




















甘露03





 再び幾度か交じり合った後、日が昇りきらぬ内には半兵衛の元を辞去した。
 三つ指をそろえて丁寧に別れの挨拶を済ませたに、褥に寝転がった半兵衛はやはり深い罪悪感と後ろめたさに捕われた。
 いくら策謀を巡らせるのが乱世の倣いであっても、そこに関係のない少女を巻き込んだのは、自分や官兵衛と言った大人達の傲慢だ。本当にの事を思うならば、残酷であっても突っぱねるべきだったと、今更ながらに半兵衛は後悔した。
 自分は男だから、これは夢か何かだと簡単に片付けられる。きっと何事も無かったように振舞えてしまうのだ。
 だが――――の柔肌を思い出して、決して悪い夢ではなかったと思うと、半兵衛は腹立たしさにも似た自己嫌悪に陥ってしまう。
 喉の奥から漏れる嬌声や、熱に浮かされるように染まった頬、潤んだ瞳、そこから生理的に流れる涙、おずおずと戸惑いながら重ねられた手の平が愛おしくて仕方がなかった。
 男に慣れていないおぼつかなさがあるものの、脳を麻痺させ蕩かせるような甘美な夢に、どっぷりと溺れてしまったのだ。
 は今まで抱いてきたどんな女とも違う。
 もう一度抱きたいと思ったのは初めてだ。
 だが、それは赦されない。これ以上深入りすべきでないと理性で言い聞かせつつ、半兵衛は自己嫌悪と罪悪感でいっぱいのため息を深々と漏らした。






「ありがとうございました」
 と、微笑みと共に丁寧に頭を下げられた。
 秀吉の屋敷の一角にある廊下でのこと。
 がかんざしを忘れて行った事に気付いた半兵衛は、それを口実にの反応をさぐろうとしたのだ。
 少なくとも何らかの情事の後の変化を得られるものと思っていた半兵衛にとって、のいつも通りの応対は予想外のものだった。
 わざわざ二人きりになれる場所を選んだと言うのに、の反応はまるで執務の延長であるかのように他人行儀だ。
「身体、大丈夫?」
 わざとそちらに話が向くよう尋ねると、
「はい、お気遣いありがとうございます」
 と、これまたいつも通りの応対。
 頬を染めたり、恥らったりするものと思っていた半兵衛は、まったくの肩透かしを食らったことになる。
 それ以上引き止めておく事もできず、半兵衛はの背中を見送った。
 去っていくを見つめながら、一体あれは何だったのだと胸中で訝る。
 半兵衛の予想以上に、は自分の役割というものを弁えていたと言う事か。あれが一夜限りの夢であると、誰よりも現実的に割り切っているのか。
 それを少し寂しく思うのは、やはり男の傲慢なのだろう。
 自分が捨てるのは構わないくせに、自分が忘れられたと思うと、妙に切なくなってしまう。
 自分はの想い人であって、積年の想いをあの日遂げる事になったというのに――――なぜ、は簡単に自分を忘れてしまう事が出来るのだと。
 本当はどこかで、浅ましい打算があったのだ。
 かんざしをきっかけにもう一度誘いたいと思っていた。が自分の事を忘れられず、もし熱っぽい瞳で見つめて来たら……の想いに応えるためだと、自分を誤魔化して抱き寄せただろう。
 だが、そんな浅はかな計画は早々に打ち砕かれ、独り惨めに取り残されている。
 滑稽だ。
 馬鹿みたいに笑い出したい気分だ。
 自分を好いていると知っていたから、いつの間にかが自分のものであるかのように思っていた。いつでも自分を求めてくれるのでは、と甘い考えを抱いていた。
 だが――――
「ちょっ、正則ってば!」
 庭先から笑い声が響き、ふと縁側に降り立つと、が子飼い達とじゃれ合っている姿が目に入った。
 いい歳をしてまるで子供のようだと、少し前なら思っていただろう。
 否、むしろこの内の誰かがの想い人なのかと、そんな他愛もない妄想をしていたかもしれない。
 だが、今半兵衛の心を最初に満たしたのは、黒雲のような禍々しい感情で。
 嫉妬している。
 なぜ、自分を好いているのにそんな風に、他の男と笑い合えるのか。
 なぜ、自分を忘れて、何事もなかったように振舞えのか。
 なぜ……、なぜ――――
 なんて自分勝手な男だと冷静な自分が嗤っている。
 愚か者。いい歳をした大人が、あんな小娘に振り回されて情けない。あれは罠だ。官兵衛殿の計略だ。だから触れるな、これ以上欲しがるな。
 だと言うのに――――罪悪感と自己嫌悪と後ろめたさと、そんな感情ばかりであったはずが、今はそれを凌駕するほどの嫉妬が心を満たしている。
 今すぐ庭先に降り立ち、の手を乱暴に引いて、三人から引き離したいと思っている。
 誰もいない薄暗い部屋に連れ込んで、そのまま想いのたけを、欲望を、ぶつけるように抱いてやりたいと、嗜虐心にも似た感情を抱いて、欲情している。
 ごくり、と知れず唾を飲み込んでいた。
 わななく手の平を握り締めて、半兵衛は暗い瞳を一心にに向けていた。



end


半兵衛殿が歪み始めました。
めくるめくヤンデレワールドへようこそ。