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とある事件簿02





 さて、ここからは私が集めた証言を記そうと思う。証言者の「ぷらいばしー」を守るため、証言者の名は仮名である。





『被害者・甲の証言』

 だからよー、俺は何も知らねぇ、って言ってんだろ。悲鳴が聞こえて宝物庫に飛び込んだら、後ろから何者かにどかってやられたんだよ。
 ああ、顔ぉ? 暗くて見えなかったから、わかんねーよ。
 ああ? 犯人だぁ? んなモン俺が知りたいっつーの!
 あいつ思いっきりぶん殴りやがって……次会ったらただじゃおかないからな、な!




『下女・乙の証言』

 ええ、わたくしが駆けつけた時には、福島様はもう……。
 え? 悲鳴ですか? いえ……わたくしは一度しか。
 ええ、ですから、わたくしが悲鳴を上げたのは、倒れられている福島様を見つけた後です。
 ですので、いつ福島様が宝物庫にいらっしゃったのかは存じません。
 わたくしの他の清掃係ですか……? さあ……、何人かに聞いてみましたが、誰も福島様と会ってはいないと言うのです。
 でも、あの日はとても忙しかったから。皆が宝物庫を空けていた時にいらしたのかも。
 あ……でも、おかしな話ですね。必ず一人は残るようにしていたので、誰も会っていないなんて事はないのですが。





『再び被害者・甲の証言』

 ああ? 悲鳴を上げた下女だぁ?
 顔なんて覚えちゃいねぇよ。賊が入ったと思って、その時は必死だったしよぅ。
 あん? 『いの十七号文書』?
 バっ! お、俺が知るはずねーだろ! あ、あれは、あいつのその色々……
 だぁ! だから知らねぇって言ってるだろっ!





『被害者・甲を診た御匙・丙の証言』

 ああ、あの件か。
 ふむう、事件などと呼んでいいものかわからぬが。
 まあ、確かに事件ではあるの。『いの十七号文書』が盗まれたとか。どんな内容なのかは知らぬが、大変貴重な書物だとか言うからのう。
 ああ、福島殿の怪我なら大したことはない。ぴんぴんしておられた。流石、石頭じゃのう。
 外傷? いや、特に目立ったものは……はあ、仏像で殴られたと。
 ふむ、確かに軽く殴られたようじゃが、血が噴出するほどでは――――おっと、来診の時間じゃ。では、ワシはこれにて。





『南東書庫の記録係・丁の証言』

 はあ、『いの十七号文書』ですか……。
 いえ、詳しくは……しかし、色々と問題な内容だそうで。
 いやぁ、だってそうでしょう。あの方のあんな事やこんな事を知れると聞いたら、喉から手が出るほど欲しいという方もきっと大勢いらっしゃるわけで……。
 うーん、まあ、ここだけの話ですが……あのぼや騒ぎで文書が見つかってから、何人か私の元を訪れて文書について聞かれた方がおります。ええ、中身に対するご質問でしたが、なにぶん私も直に目にしたわけではないので、詳しくは……。
 福島殿? いえ……その中にはいらっしゃらなかったような。襲撃事件の後も、特にいらっしゃらなかったですね。
 はあ、いらした方々のお名前ですが。
 うーん……では、ちょっとお耳を拝借。





『通りすがりの軍師見習い・戊の証言』

 え、『いの十七号文書』……?
 さぁ……誰が盗ったのでしょうね? 変な盗難事件でしたね。
 え、ええと……確かに、南東書庫には行きましたけど……
 でも、私じゃありません! だって犯行があった時、私は官兵衛様と一緒に軍議に出ていたんです! だから「ありばい」もしっかりあるんですよ。
 南東書庫へ行った理由ですか?
 あー、それは……内緒です!





『通りすがりの軍師・己の証言』

 はい? 『いの十七号文書』ですか?
 ああ……まあ、知っちゃあいますけどね。
 ええ、確かに南東書庫には行きましたよ。ちょっと気になる事があったもので……。
 あー……言いたい事は分かりますが、俺を疑っているならお門違いってもんだ。や、確かに『いの十七号文書』を取って来いと、さるお方から言われましたけどね……
 俺だって命は惜しいんで、全力で拒否させてもらいましたよ。
 だってそうでしょう、そんな物を手に入れたら黒田殿からどんな仕打ちを受けるか……
 あの襲撃事件だって、本当は……っとと、今のの聞かなかった事にしてくださいよ。
 殿の耳に入ると色々と厄介ですからねえ。





『通りすがりの軍師・庚の証言』

 なんだ。用件は手短に伝えよ。
 『いの十七号文書』だと……? 下らぬ、卿はあのような愚劣な文書の行方を追っているのか。
 南東書庫を訪れたのは所用だ。他意はない。
 そもそも、襲撃事件の下手人は女ではなかったのか。ならば私は容疑者にはなり得ぬ。
 これ以上用がないのであれば、失礼するぞ。





『通りすがりの武将・辛の証言』

 なに、『いの十七号文書』だと……?
 俺にそれを聞いてどうする。貴様、もしやこの俺を疑っているのか……?
 当然だ。そもそも俺ならもっと上手くやる。左近の馬鹿があれくらいの事で臆さねば、今頃……
 いや、なんでもない。こちらの話だ。
 それよりも貴様、誰が一番『いの十七号文書』を手に入れてたいと思っているのか分かっているのか?
 ふん……これだから、馬鹿は困る。
 発想を逆転させろ。『いの十七号文書』を手に入れて得をするのではなく、『いの十七号文書』が無くなって最も得をする人物……
 それが分かれば、答えは自ずと導き出されよう。
 なに、正則の襲撃事件だと? そんな事この俺が知るか、馬鹿が。




 さて、証言はここで終わりである。私の推理が正しければ、この犯行を企てたのはあの人物である。
 だが、ここまでは多少頭が回れば、誰でもたどり着ける答えだろう。
 実のところ、私の依頼主も、すでに犯人のあたりを付けていたのだ。
 だが、この事件にはいくつかまだ、謎が含まれている。その謎を調べ解いて欲しい――――それが今回、私に与えられた真の依頼である。
 さて、そろそろ子の刻になろうとしている。
 私はかの人物が待つ場所へと急いだ――――



end


事件簿、二話目。関係者の証言でした。
バレバレですが、モブ以外の証言者は、正則、ヒロイン、左近、官兵衛、三成です。
さあ、れっつ推理タイム!
と言うほどの推理はないまま、次回真犯人へ続く。