Text

 竹中殿は最近凛々しくなられましたなぁ――――と。
 口々に噂されるようになってから、竹中半兵衛への人気が高まりつつある。
「あの……」
 屋敷の裏に見ず知らずの女性から呼び出されたと思ったら、顔を真っ赤にした女中が想いのたけを告白してきた。初めは面食らっていたものだが、まあこの容姿、この智謀なのだから、まともにしていれば女性受けが良いのは当然だろう。
 問題なのは――――
 私、なんだけどなぁ……。
 絶賛、中身が入れ替わり中という事である。




とりかへばや奇談02





 執務室に戻ると半兵衛が文机に頬杖をつき、にやにやと顔に笑みを浮かべていた。机上には何やら淡い色合いの文が広げられている。
「あ、お疲れさん」
 と、が何の理由で中座したのかを知ってか知らずか、振り返らぬまま半兵衛が告げた。
「なんですか、それ?」
 自分の文机の前に腰を下ろしながら尋ねると、半兵衛は、恋文、とさらりと答えた。は驚いて、思わず立ち上がりかける。
「恋文って! え!?」
「若者は純情だね〜。殿の光り輝く様はまるで明け方の明星の如く……と来ましたか。いやぁ、若いな〜」
 そう呟きつつ、くっくと忍び笑いを漏らす。事情はどうあれ、人宛に届いた恋文を勝手に読んで笑うのは礼儀に反する。半兵衛様、と咎めるように声をかけると、
だって同じじゃん」
 と、見透かすような視線が返って来た。
 心中を暴かれどきりとは鼓動を早める。半兵衛はにやにやと笑みを浮かべつつ膝を付いての前まで移動すると、鼻先に人差し指をつきつけた。
「告白されたでしょ?」
「う……」
 別に疚しい事をしているわけではないのだが――――やはり、他人の大切な気持ちを代わりに受け取ってしまった事に、後ろめたさがある。
 あの状況で説明もできず、時間を下さいと言って逃げ出してしまったのだが、どうやらそれすらも半兵衛にはお見通しらしい。
「ま、俺は別に知らない女の子に告白されても何とも思わないし、好きにしてくれていいけどね」
「好きにって……」
 それではあの子が可哀想だと思ったが、そう答えるよりも早く、半兵衛はびりびりとの目の前で先ほどの恋文を破りだした。
「あ……」
「ん、なに? もしかして気があった?」
「いえ……」
 そういうわけではない。
 自分もやはり、名も知らない若武者に想いを伝えられても戸惑ってしまうだけだろう。だが、そうやっていとも簡単に誰かの想いが引き裂かれてしまう事に、罪悪感があったのだ。先ほどの女中の切なげな顔が脳裏にちらついて、の心を揺らす。
 の不安げな表情を察してか、大丈夫だよ、と半兵衛が笑って見せた。
「ちゃんと俺が後腐れないように断っておいたから」
「そう……ですか」
 それならば少しは安心していいのだろうか。綺麗に断ってくれたのならば、一時的には傷つくだろうが、きっとその青年にとっても良かったに違いない――――
「うん。二度とに良からぬ想いを抱かないように、コテンパンに振っておいたから。私はもう、半兵衛様なしでは生きていけない身体なんですってね!」
 笑顔で答える半兵衛に、はひくりと顔を引きつらせ、
「何してくれるんですか、半兵衛様ぁーーーーー!」
 の怒号と共に爆音が屋敷中に響いたのだった。



end


依然として入れ替わったままです。
半兵衛は周りには変人扱いされているけど、外面は良いに違いないと妄想。
次回、黙って静観していた子飼い達がついに現れ……!?