一応、百物語をモチーフにしているので、怪談話です。
大した事はありませんが、苦手な方はお戻りください。
百物語・旭日
情けないなぁ――――と、呆れたような笑みを浮かべて。
の対面に座った五人はそれぞれに気恥ずかしそうな、また不機嫌そうな表情を顔に貼り付けていた。
傍らの元就が頭を掻きながら、はははと苦笑めいた笑い声を上げる。
「済まなかったね、あんなに驚くだなんて思わなかったものだから」
種を明かせば至極簡単な事なのだ。
もともと部屋に置かれた蝋燭は六本だが、招かざる七人目と共に七本目が部屋の中に入ったと考えれば、特段不思議な事はない。怪異と呼ぶにはなんとも稚拙――――であるのだが、まんまとあの両兵衛ですら一瞬本気で信じてしまったのは元就だからこそ為せる業だろう。
まさか元就がそんな冗談をかますとは――――さすがの両兵衛も思いも寄らなかったのだ。
まさかの大絶叫は元就の予測の範囲を超え、しかも正則などはそのまま失神してしまったのだから、いかに悪戯と言えどタチが悪い。
悪かったね、ともう一度詫びて、元就は膳の上の漬物をしゃくしゃくと頬張った。
「まったく人が悪いですよ……。それにも」
半兵衛のジト目で睨みつけられて、はごめんなさい、と謝りながらもその顔には笑みが浮かんでいた。
実はねねの用事はとっくのとうに済んでいたのだが、元就に少し怖がらせてやろうと相談され、部屋に戻らず外で待機していたのである。そのため、五人の絶叫はしっかりに聞かれてしまい、なんとも恥ずかしい思いをしたわけだが――――
「でも、みんなが悪いんだよ? 私を除け者にするから」
と、は唇を尖らせて言う。
「あ? 何が除け者だってんだ」
訝しげに尋ねた正則を、は責めるような目で見やる。
「だって。鍵をかけて、中に入れてくれなかったじゃない。用事を終わらせてすぐ戻ったのに、呼んでも全然反応ないし」
「鍵……?」
誰かかけたか? と問うような目で清正は一同の顔をみやったが、誰も心当たりはなかった。
たかが障子一枚で隔たれた部屋ならば、呼べば声など容易く届く。
だが、誰もの声を聞いた者はいない。
そもそも――――あの部屋に鍵などないではないか。
さっと顔を青ざめさせた五人を見やりながら、ははあ、と元就は顎に手をやる。
「これは本当に……、怪異がやって来てしまったかな?」
一瞬の間。
が、すぐさまがやだぁ、と声を上げて笑った。
「もう、冗談がすぎますって元就公。あの部屋、立て付けが悪いから、きっとそれで開かなかったんですよ」
「そ、そうだぜ。まさか本当に怪異とか……在りえねぇだろ」
な? な? と正則がすかさず同意を求め、残りの四人もそれぞれに首を縦に振った。
怪異などあるはずがない。あれは元就の即興の怪談なのだ。そもそも招かれざる七人目の話など存在しない。ならば、の言う話ももしかしたら、彼らを怖がらせてからかっているだけなのかもしれないのだ。
「ははは、まあ、そういう事にしておこうか」
と元就は朗らかに笑いあって、それで全ては水に流されたかのように思えた。
だが、ああ、そうだ、とふと元就は思いついたように言葉を続けると――――
「それでも、気をつけなくちゃいけないよ。やり方を間違えると……いつ、それが生じてしまうか、わからないからね」
そうして元就はコトリ、と小さな蝋燭を膳の上に乗せて見せた。
芯の燃えていないそれに、一同は一瞬、訝るように小首を傾げ――――ひっと息を飲み込む。
「不思議な事もあるものだねぇ。ちゃんと火をつけたつもりだったんだけど。私の持ち込んだ七本目が燃えていないと言う事は、あの最後の蝋燭は一体どこから現れたのだろうね?」
end
大殿は二本、蝋燭を持っていた。
うっかり者の正則が初めから七本用意していた。
本物の怪異が発生してしまった。
さぁ、真実はどれだ!?
……というところで、「百物語」これにて完結でございます。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!