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!CAUTION!
一応、百物語をモチーフにしているので、怪談話です。
大した事はありませんが、苦手な方はお戻りください。
なお、怪談話ではヒロインと語り部の名前を使っています。




















「私の話は以上だ」
 ふうっと放たれた官兵衛の吐息が、蝋燭の炎をかき消した。
 光を失いより暗さをました部屋の中には、男ばかりの影が五つ。
 未だも戻らぬし、どうするのだと言いだしっぺの正則に一同の視線が集まったその時、ふいに閉ざされていた障子戸ががらりと開いた。
 が戻って来たのかと思いきや、そこに立っていたのは顔見知りの初老の男だった。
 年齢不詳の顔に、人の良さそうな笑みを浮かべている。
「やあ、楽しそうな事をしていると聞いてね」
「元就公? 何時いらしたんです。っていうか、何でここに……?」
 突然の元就の登場に、さすがの知らぬ顔の半兵衛も驚きを隠せない。
 元就はいやあ、と頭を掻く様な素振りをしてから、
「信長公に用があってこっちに来たのだけれど、帰りが遅くなってしまってね。せっかくだから、君達の顔を見ていこうかと寄らせてもらったのさ」
 この時分のおとないという事は、しっかり寝泊りする算段だったのだろう。それはそれで構わないのだが――――
「そっちに行ってもいいかな?」
 問われて、一同の顔に動揺が走った。客人が百物語に加わるとなると些か気が引ける。
 が、断れるような立場でもないだろう。どうぞ、と半兵衛が答えると、元就は微笑んで中へ入り込み、すとんと官兵衛の隣りに腰を落とした。
「ああ、すまないね。話の腰を折ってしまったかな? 私に気を使わなくていいよ」
「いや……っつーか、百物語っつっても、もうみんな話し終えちまって……」
 正則のたどたどしい説明に元就はそうかいと朗らかに笑みを浮かべると、では私が語部になろうかと自らの口を開いた。
「これはとある怪談噺なのだけどね――――
 と、元就の声が闇の中に響く。



百物語・語部





 その日、寝ずの番を命じられた五人の若武者は、眠気を紛らわすために戯れに百物語に興じていた。若武者達と、ひそかに彼らが想いを寄せるその屋敷の娘が、六畳間に集い順々に怪談話を語り合っていた。
 と、娘の番になった時、ふいに家人に呼ばれ娘は席を外す。
 残された若武者達は娘の順を飛ばし、再び百物語に興じたのだった。
 だが、次の一人が話し終えても娘は帰らない。五人が訝っていると、そこにふいに見知った男が訪れたのだ。
「私も交ぜてくれるかな?」
 尋ねられ、当惑する五人。だが、断りきれず、
「そっちに行ってもいいかい?」
 その問いに、五人のうちの一人がどうぞ、と男を招き入れる。
 すると男はその輪に加わり、百物語の語部となる。
 だが、男の語ったのはただの怪談話などではなかった。まるで男達の今の状況をそのまま語っているような奇妙な話。とある五人の男と一人の娘が、百物語に興じる話だったのだ。
 そして、夜半遅くに訪れた男を部屋の中に招き入れるが、その男は彼らの知る人間ではなかった。
 招かれざる七人目。
 正しい作法で行われなかった百物語が、怪異そのものを呼んでしまったのだ。
 男達は戦慄き、我先にと部屋の外へ逃げ出す。だが、彼らの屋敷は、まるで賊の襲撃を受けたように荒れ果てていたのだ。
 血塗れの廊下で男の一人が、四肢の千切れた躯を見つける。いつも愛らしく笑っていた顔に恐怖を貼り付けて、百物語に加わっていた娘が――――事切れていたのだ。
「よせっ、止めろ!」
 話を聞いていた若武者の一人が、男の話を止めようと声を荒げた。
 それはまるで……まるで、自分達と同じではないか。
 だが、男は首を横に振る。
「駄目だよ……。もう、怪異は始まってしまったんだ。証拠に、ご覧」
 男の指先が部屋の端で燃え盛る蝋燭を指差す。
 元より六人しか集わなかった部屋には、六本の蝋燭しか用意されていない。
 だが、そこには――――在るべきのない七本目が煌々と真っ赤な炎を揺らしていたのだった。
 男が密やかに嗤う。
「ようこそ、怪異の夜へ」





 だんっ、と大きな音が鳴り響き、元就の話に聞き入っていた面々はびくりと肩を震わせた。何事かと見やると、正則が切羽詰った顔で床の畳を叩き鳴らしたのだった。
「あ、あんだよ、その話……」
 まるで今の状況を、そのまま怪談に落とし込んだような話だ。
「やれやれ、怖がらせてしまったかな」
 元就は苦笑のような笑みを浮かべると、これで仕舞いだとでも言うように、ふうっと蝋燭の火を吹き消した。
 ただのタチの悪い冗談だ。きっと皆を怖がらせるために、即興でそんな怪談を作ったのだろう。
 顔を青ざめさせながらも笑い話にしてしまおうと、正則はハハハ、と乾いた笑みを浮かべる。
 ――――が、そこではたと気づくのだ。
 元々この部屋には蝋燭は六本しか用意されていない。
 そしてが抜け、代わりに元就がやって来た。の分の蝋燭を元就が吹き消したのならば、この部屋は暗闇に呑み込まれるはずなのだ。
 だが、薄暗闇が完全な闇に呑まれる事はなく、ちらちらと頼りなさげな光を闇の中に揺らしている。
 正則の視線の先に気づいた面々が、順に息を飲み込む。
 在るべき筈のない七本目の灯りが視界に揺れ、その光を受けた元就が唇で弧を描き嗤ったのだ。
「ようこそ……、怪異の夜へ」




end


招かれざる七人目の到来。
怪異の夜の結末は?
次回、最終話です。