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!CAUTION!
オリジナル要素満載です。
それでも構わない方だけ、お進みください。






















ひいなあそび 囲い閨





「ずいぶんと熱心だね、君は」
 声をかけられて顔を上げると、黙々と執筆作業に没頭していたはずの元就が肩をとんとんと叩きながらこちらを見ていた。
 縁側から西日が差し込んで来ている。いつの間にそんなに時間が経ったのだろう。
 半兵衛が現れたのは昼過ぎだった。勝手知ったる他人の家とばかりに、お邪魔しますよ、と上がりこむと、部屋に平積みにされた書籍を片っ端から広げ始めた。
「何を探しているんだい?」
 問うと、常世姫の歴史と生態を。と、振り返りもしないで答える。
 あの子の事だ。元就の脳裏に、碧眼の少女の姿が浮かんだ。どこか線の細い、戦場には不釣合いな少女。幻のように消えてしまいそうなのに、人の心に妙に残る危うげな存在感。
 それならその本がいいよ、と若葉色の冊子を手渡すと、半兵衛は何時にもない集中力で読みふけった。
「知りたいことは分かったかな?」
「う……ん、半分くらいかな」
 答えながらも半兵衛の視線は書面に注がれたままだった。
 どれどれ、と横から冊子を見やると、書には四角い部屋の図解が記されていた。
 正方形の部屋の四方を格子が囲み、四方の角に灯りを置く。
「囲い閨だね」
 囲い閨? と半兵衛が繰り返した。
「囲い床、もしくは囲い閨と呼ばれる常世姫の寝所だよ。同時に居所でもある。常世姫はこの部屋から出ない――――いや、正確には出られない、と言った方がいいかな」
 ここを見てごらんと、元就が書面を指差した。
「黒布を用いて光を断つべし、とあるね。これは常世姫の目を封じる呪いであり護りでもあるんだよ。両眼を目の細かい黒い布で塞がれると、千里眼は使えないんだそうだ。もちろん何処でもというわけではなく、囲い閨が正しい作法で用意されている必要があるけどね」
「それがどうして護りになるんです?」
「常世姫の目は何でも視えてしまうからね。そんなものを四六時中見続けていたら、頭がおかしくなってしまうよ。それと、姫は夢を媒介にして視たものを周りの人間に伝えるという。つまり、姫を囲った人間たちの安眠のためでもあるということだね」
 へえ、と半兵衛が関心したような声を漏らした。
「だから、常世姫は通常この部屋の中で生涯を終えるものとされている。姫自身が望んだのか、無理矢理捕らえられたのかはわからないけど――――
 まるで牢獄だね。
 元就の言葉に、半兵衛は顔を上げた。
 じっと注がれる真剣な眼差しに身じろぎ、そして、不適な笑みを浮かべる。
「俺はそうは思いませんね。緋毛氈の床に豪華な調度品。部屋を照らす灯りなんてまるで雛壇のぼんぼりみたいですよ」
 まるで桃の節句みたいでしょう?
 お内裏様も三人官女もいない、女雛だけの雛壇だけれど。
「綺麗な服を着せられ、飾られ、愛でられ――――元就公はひな祭りの雛たちを憐れだと思いますか?」
「どうかな。私は男だから、雛には興味はなかったけれど――――人形にはそんな感情はないんじゃないかな。雛壇の上の世界しか知らないんだ、それを不思議に思うことすらないと思うよ」
 だけどね。
「君の家のお姫様は違うんじゃないかな。ずっと雛壇の上に飾られていたのなら、そうなる事も望んだかもしれない。でも、彼女は外の世界を知っている。それなのに――――今更それを取り上げるのは酷だよ」
 元就が妙に真面目な顔をしたためか、半兵衛は一瞬ぱちりと瞬きを見せた。
 そして、ふっと笑みを浮かべる。
「わかってますよ」
「……わかっているのかな?」
「ひどいなぁ。俺、そんなに人でなしじゃないですよぅ」
 そう言って笑うさまがいつもどおりで、逆に元就は末恐ろしくなった。
 半兵衛は冷静だ。
 衝動的な行動でも、一時の気の迷いでもない。
 だから逆にそれが恐ろしくなる。
「半兵衛……囲い閨は人の心も捕らえてしまうものなんだよ」
 元就の懸念を知ってか知らずか、半兵衛はにこりと笑って、
「わかってますよ」



end


ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
はい、以下、反転で言い訳やらなんやら


半兵衛さん、全然わかってません。元就公のところにいったときには、もう監禁して自分だけのものにしちゃえという気持ちマンマンです。
で、せっかくだから一応形式に則っておこうかな、と囲い閨の作法を調べにいったわけです。
囲い閨は常世姫を封じると共に、守るものでもあるので、一概にひどいものではないんですが(昔は別に格子に鍵がついていたわけでもなく、なんか調子悪くなったら篭る引きこもり部屋みたいなもの)半兵衛のは明らかに独占欲による凶行です。
ちなみに半兵衛は歪み始めているけれど、ものすごく冷静です。
自分が歪んでいることも理解していて、それでどうなるのかも全部計算づくで凶行に走ります。
『ひいなあそび』でいなくなったヒロインを誰も探しにこなかったのも、誰にも疑問を抱かせないようすべて手を打ったから。
だからこそ元就は半兵衛の冷静な狂気に恐れを感じています。