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 秘策があると自信ありげに告げた正則は、二人の前でその策を語って見せた。





ぐしゃぐしゃ03





「半兵衛の弱点を知ってっか?」
 正則の問いに、三成と清正は揃って顔をしかめた。
 何事も飄々として思い通りに事を運ばせる、向うところ敵なしの「知らぬ顔の半兵衛」に弱点があるのか――――と、思いを巡らせたためだった。
 嫌いなものや苦手なもの、と言うならば幾らかは上げる事ができる。
 まず信長が嫌いだ。これは臣下として問題ある発言だが、本人は周りを気にせずそう豪語している。
 が、嫌いではあるが弱点ではあるまい。そもそも豪語しても構わぬと言う事は、それに対して何らかの不利益を被っても対応できると踏んでいるからだ。
 小うるさい人間、とりわけ狭量で独善的な人間は嫌いだろう。が、これもどうとでも操れる相手だ。
 苦手なものと言えば、官兵衛の小言、怒ったねね、小骨の多い魚など思いつくが――――どれも弱点には成り得ない。そこにあったらちょっと遠慮したい、という程度のものだ。
「あるか?」
 と、清正が首を捻ると、正則はにやにやと笑みを浮かべながら、あるじゃねぇかよ、と返した。益々、首を捻る清正だったが、
か……」
 三成がぼそりと呟いた。
「へっ、頭デッカチのくせにやるじゃねぇか!」
「馬鹿の考える事など、見抜けなくてどうする」
 その馬鹿の考えを清正は見抜けなかったわけだが、それはさておき確かに弱点と呼ぶには相応しい。あれは嫌いとも苦手とも違う、確かに弱点だ。
 半兵衛が年甲斐もなくを気にしていると言うのは、子飼い達もよく知る所である。普段から飄々としているのでどこまで本気かわからないが、同僚意識以上のものがあるのは間違いないだろう。
「もしもに、『半兵衛様、最低です。二度と近寄らないで下さい』なんて言われたらどうだ?」
「それは……」
 確かに「ぎゃふん」かもしれない。
 もし、正則の策でに冷たくされたのなら一矢報いた事になるのだろうが、問題は果たしてそう上手く行くかどうか。
「どうやってにそれを言わせる?」
 今のところが半兵衛に対して恋慕のような特別な感情を抱いているわけではなさそうだが、軍師としては目上の半兵衛を尊敬しているし憧れてもいる。自分達にとっては時に恐ろしい鬼姉だが、半兵衛と官兵衛に対しては礼儀正しく分を弁えた弟子の顔を通しているはずだ。それを崩させるのは容易ではない。
 だが、正則は自信ありげに、にやりと笑んだ。
「秘策・棚から牡丹餅作戦だ」
「は?」
「餅だ。いや、ありゃ大福か」
 どっちでも構わないけどな、と呟く正則を前に、清正ははっと息を飲んだ。――――確かどこかの甘味処の大福の話をしていなかったか。戸棚において置くけど食べたら今生は諦めたと思いなさい、といつもの鬼姉っぷりで自分達に釘を刺していたのを思い出したのだ。
「待て。お前……あれを使うのか?」
「おうよ!」
 正則は意気揚々と声を上げた。
 正則の作戦はこうである。
 半兵衛の元へ、先日の侘びと称しての大福を持って行く。頃合を見て自分達は退散し、半兵衛が大福をパクついている所へ、を登場させる。大切に取っておいた大福を食われて激怒。後は六道廻りの刑でも、地獄車の刑でも好きにしてくれ、というわけである。
「な、な、どーよ? 俺の策!」
 軍師顔負けじゃねぇ!? と興奮気味に語る正則。
 確かに正則の頭にしては良く考えたほうだ。半兵衛にをぶつけると言う案は悪くないだろう。だが――――
「馬鹿か、貴様は」
 三成が呆れたような口調で言い放った。
「あぁ?」
「仮にその場はが収めるとして、半兵衛にはお前が大福を運んで来た事は知れているのだぞ? 後から更なる報復を受ける事は目に見えている」
「あー……えと、ああ」
 こいつ考えてなかったな――――
 正則の歯切れの悪い返答に、清正も呆れてしまった。
 三成の指摘の通りだ。
 一時は溜飲が下りるかもしれないが、その後半兵衛が黙っているはずがない。よくも騙してくれたな、とあの薄ら寒い笑顔で仕返しを受ける事は間違いない。しかも、を変に絡ませたおかげで、その怒りは先日の比ではないだろう。
「じゃあ、どーすんだよ」
 と、秘策を早々に打破されて、正則が拗ねたような顔で言う。それを考えるのはお前の仕事だろうと、二人は思ったが、言った所で妙案は生まれまい。
 この話は無しだ、と清正が言いかけた時――――
「これだから馬鹿は困る。大福如きで釣ろうとするから、馬鹿を見るのだ」
 俺ならそんな策は立てぬ、と自信ありげな笑み。
 そして、三成は二人を順に見やると、おもむろに懐からある物を取り出したのである。



end


そして三成秘蔵コレクションを高々と掲げるのでした。