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「あらやだ、どうしたのその顔」
 風呂から上がり宴会場に現れた面々の顔を見て、ねねが驚きの声をあげた。
 まるで合戦に出た後のようなぼろぼろの姿に、側にいたも目を丸くする。
 無論何があったかなどと、口が裂けても言えない面々は、いえ、なんでも……と視線を反らしてねねの質問から逃れた。
 その背後には、妖気球を手に妙なプレッシャーをかける官兵衛の姿があった――――




一家狂乱・酒盛





 さて、宴会場では膳を囲んで、ささやかな酒宴が開かれていた。
 上座に秀吉とねね、その隣に半兵衛、官兵衛、、その反対側に子飼いと左近が並ぶ。
 豊臣一家の正しい並び――――ではあるのだが、これではは官兵衛の独占だ。
 先ほどの露天風呂での一件もある上、そもそも日ごろから官兵衛ばかりが美味しい思いをしているという恨みも重なり、半兵衛と子飼い達は官兵衛へ黒い念を向けていた。
 どうしたらを俺の側に越させる事ができるか――――
 思案を広げた彼らの目に、ある物が目に止まった。
 それは――――





「あはははははは、お酒〜。もういっぽーん!」
 と上機嫌に笑いながら空の徳利を振る。目の前の膳の上には、幾本もの徳利が雑多と転がっている。
 着眼点は良かったはずだ……
 日ごろ固いを酔わせて隙を作ると言うところまでは。現に今、は浴衣の着崩れも気にせず、酒を飲むのに夢中になっている。浴衣の裾からすらりと伸びた白い足がまぶしい。この足を拝む事ができたのだから、確かに効果はあったといえる。
 が、予想外の出来事が二つ。
 一つはが思いの外、酒に強かったということ。最初は四人に酌をされて、ちびちびと飲んでいたのだが、今は自分から女中を呼んで酒の注文をしている。その勢いは留まるところを知らず、誰も付いていけないほどだ。
 そしてもう一つは――――何故か、が官兵衛の膝の上に乗っているということ。
「重い。どけ」
 と、無表情に言い放ち、官兵衛が降ろそうとするが、はやだやだと首を振って官兵衛の首にしがみつく。
 正直言ってかなり羨ましい――――
 というか、なぜ官兵衛ばかりがいつも美味しい所を持っていく――――!?
 四人の放つ黒いオーラはさらに闇を深め、今では妖気球なしに鬼の手を召喚できそうな勢いだ。
「くそ、どうする。これじゃあいつも以上に最悪だぞ」
「官兵衛が便所に立った隙に、ふん縛って風呂場に監禁すっか?」
「馬鹿が。それでは根本的な解決にならん。左近、何か策を立てろ!」
「殿……左近はまだ浄土へ旅立ちたくはありませんよ……」
 こそこそと子飼い+左近が相談をする中、反対側に座す半兵衛は独り勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「ふっ、俺の軍略、見せる時が来たみたいだね」
 にっと笑んだかと思うと、半兵衛は膳の上のグラスを高々と掲げ――――
! こっちに来ればイチゴパフェが食べれるよ!」
 と、まさかの餌付けに出たのだった。
 これが天才軍師の軍略?
 はっ、と三成は鼻で笑い、嘲りの視線を半兵衛に向ける。
「馬鹿め、酒飲みが甘味などで釣られるものか。酒飲みは辛党と古来より決まっている」
 と、それはそれで外したコメントを零す。
 だが、清正は顔を険しくさせ、待て、と三成に告げた。
「よく見ろ。あれは……デザートは別腹の顔だ!」
「なにっ!?」
 三成の予想に反し、はおぼつかない足取りで立ち上がると、ふらふらと半兵衛――――もとい、イチゴパフェに引き寄せられていく。その表情は甘味を前にしてとても幸せそうだ。
「くっ、デザートは別腹だと!? 半兵衛め、そこまで見越していたのか――――?」
 悔しがる三成を尻目に、にやりとほくそ笑む半兵衛。
 こっちこっち、とうまく自分の膝の上にを誘導すると、ちゃっかり腰に腕を回し、両腕を自分の肩の上に乗せさせる。
 そして、
「はい、ア〜ンv」
 瞬間。
 パァァァァン!
 子飼い達の手の中で、握り締めた茶碗やお猪口が、同時に音を立てて砕け散った。
 あんの、色ボケおやじがぁぁぁぁぁぁぁ――――
 唇をかみ締めすぎて血をぼたぼたと垂れ流す面々を前に、半兵衛は微笑みながらの口元にスプーンを運んだ。
 一瞬、躊躇いを見せただったが、ぱくりと食いつくと、クリームのついた唇をぺろりと舐め上げ、
「美味しい……」
 酒の酩酊感も手伝い、うっとりするような恍惚の表情で微笑んだ。
「やっべ、可愛い。俺、萌え死ぬかも……」
 と、手で押さえた鼻腔から鼻血をどばどば流す半兵衛。もはや天才軍師の見る影もない。
 と、その時、ついに我慢が出来なくなったのか、三成の手から熱燗の徳利が投げられた。
「このっ、変態軍師が!」
 罵倒の声と共に、見事に半兵衛の両目にクリーンヒット。熱湯のような酒に目をやられ、
「うわああああ、目がぁあああああ!」
 と、どこかの大佐のような台詞を叫びながら、半兵衛はごろごろと床を転がる。
 その隙にはパフェごと子飼いの陣営へと奪われた。
「このっ、クソ餓鬼――――!」
 ようやく痛みが引いたのか、知らぬ顔の半兵衛にあるまじき余裕のない顔で三成を睨み付けると、半兵衛はぶんっと羅針盤を振り回した。
「誰がに相応しいか、教えてあげるよっ!」
「クズが、年寄りは退いてもらおうっ!」
 応戦するように三成も鉄扇を構え、二人の武器がぶつかろうとしたその瞬間――――
「ケンカはやめなさい!!」
 ねねの怒号で辺りは一瞬にして静まり返った。
「もうっ、二人とも何やってるの! 三成、お酒は投げるものじゃないでしょう? 半兵衛、室内で武器を振り回すのはやめなさい!」
「でも、おねね様……」
 どう考えても三成のあの攻撃は反則だろうと、半兵衛は言いかけたが、すぐさま言い訳しない! とねねにぴしゃりと叱り付けられる。
「それとも! ……ああ、もう。こんなにベロベロになっちゃって――――清正、そっち持って。、寝るならちゃんと布団で寝なさい!」
 いつの間にかうつらうつらとしていたを抱きかかえて、ねねと清正が襖の向こうに消える。
 残されたのは散々散らばった空の徳利と、結局を得る事が出来なかった男だちばかり。
「え……えぇぇぇぇぇぇ?」
 無難というより、もはや無残。




end


またアホと変態のオンパレードですみません。