軍師騒乱04
「バカ! バカ、バカ、バカ! この三バカ!」
敗走した清正と三成にぶつけられた最初の言葉は、やはりバカだけで統一された罵倒だった。
地面に正座させられた二人を、は顔を真っ赤にさせて見下ろしている。
あの戦でどこをどう間違えたら負ける要因があるというのだ。戦力はこちらが上。一騎打ちに持ち込んだというなら、なぜ武将である二人が軍師に負ける?
それもこれも全部、こんな――――
「こんな下らない策なんかでっ!!」
はきぃぃっと奇声を上げ、地団駄を踏んだ。
「待て。俺はコレクション(観賞用)を奪われているのだぞ。いくら保存用が残っているとはいえ、その損失はどうしてくれる」
「知らないよっ!! っていうか、そんな物集めるなっ!!」
「馬鹿。二次元なんかより三次元が先だ。俺のねね人形はフォルムも美しく――――」
「真顔で変なこと言うなっ!!」
は澄まし顔の二人の頬をつまみ、ぎぎぎぎとつねって引っ張った。
一人で撃破に向かわせたのが間違いだった? そもそも子飼いと組んだのが負けの始まりだった?
それを見越してを三人と組ませたというなら、すでにあの頃から二人は勝利を確信していたという事か。
ううん、まだ負けてない。まだ勝機はある――――
「次は私が出る。絶対にネズミ耳をつけてもらうんだから!!」
は両眼に爛々と碧の光を宿し、強く拳を握った。
子飼いが敗走した後の軍の動きは、さすがの指揮と言ったところか――――体勢を立て直し、確実にこちらの軍を壊滅へと追いやる。
元々戦力に差があったのだ。このままでは負けるのも時間の問題だろう。
「その前に何とか手を打たなくちゃね」
半兵衛はにっと笑みを浮かべると、を探すべく混戦状態の戦場へと飛び込んだ。
「お、はっけーん」
しばし戦場をきょろきょろとしていると、前線に立って戦うの姿があった。子飼いが敗走したせいで、自身が前線に立たざるを得なくなったためだ。ここまでは、半兵衛の読み通りといえる。
後はの首を獲ってしまえばそれで終了。負けるのが時間の問題なら、その前に大将首を獲ってしまえばいい。
半兵衛はを討ち取るべく、の背後に躍り出た。
「半兵衛様……っ!」
きっとが瞳を厳しくさせた。爛々と輝く瞳が白衣の軍師を見据える。
いくら虚弱体質とはいえ、あの千里眼が開いている時は、こちらの攻撃はすべて効かない。繰り出された羅針盤はすべて飛刀によって弾き飛ばされ、阻まれる。
だが――――
「背中がお留守だよっ」
の背後から、雑兵の一人が攻撃を仕掛けた。
たかが雑兵、とが軽んじた瞬間――――の身体はまるで吹き飛ばし攻撃を受けたように、後方に跳ね飛ばされていた。
「な……」
驚くだったが、間髪いれず雑兵の刃が喉下に当てられた。
まさか、こんな一般兵に負けるなんて――――
が愕然としていると、雑兵が笠を上げ、その顔を晒した。
そこにはいつもの知らぬ顔を突き通す、半兵衛が居た。
「そんな……じゃあ、あの半兵衛様は……」
視線をやると、半兵衛の姿をしたそれが目深にかぶった帽子を脱ぎ捨てた。
やられた――――半兵衛の姿をした全くの他人を、はずっと千里眼で追い続けていたのだ。
いつの間に……? 正則や三成と戦った時は確かに本物だったのに。
混乱するに半兵衛はネタばらしをするように、楽しそうな口調で告げる。
「の目ってさぁ、便利だけどそれが本当に真実がどうかは教えてくれないよね。自分の目に狂いなんてないと思い込んでいたでしょ? それがの敗因。の最大の武器がその千里眼であるなら、その隙をついちゃえば俺の勝ちってこと」
わかった? と笑む姿が忌々しかった。
だが、指摘されればその通りだ。子飼いが敗走されてからは、現実の視界と千里眼の視界を常に切り替えていたため、注意がそこまで行かなかったのだ。
そもそも、に目を酷使させるのが最初から両兵衛の目的というなら、今までの子飼いの敗走もすべて計算尽くだったと言える。
「さて、と。俺が負けたらネズミ耳だったんだから、にはネコ耳でもつけてもらおうかな〜。それともメイド服がいい?」
「……どっちも嫌です」
「えー、そんな事いうと、もっと過激なのにしちゃうよ? ナース服とかセーラー服とか」
顔はあどけない少年のようなのに、思考はまったくもってオッサンそのものだ。はげんなりとしつつ、この状況を如何に打開すべきか脳裏に策を広げた。
それを察してか、
「無駄、無駄。俺、敗将を逃がすほど甘くないから」
と、半兵衛が獲物を追い詰めた獣の顔をする。
だが、もまた諦めていなかった。
「半兵衛さまぁ……」
と妙に熱っぽい声で呼ばれたかと思うと、は半兵衛の胸に飛び込んだ。
え、と一瞬思考を停止させる半兵衛。
涙で潤んだ瞳で見つめられ、半兵衛の喉がごくりと生唾を飲み込んで上下する。
「あ、あのさ、こういうのは屋敷に戻ってからしっぽり――――」
と、ちゃっかり背中に手を回し、余裕なく半兵衛が告げたその瞬間。
「いやぁぁぁぁぁぁ! けだものぉぉぉぉぉ!」
絹を切り裂くような悲鳴が、山中に木霊した。
普段の半兵衛ならすぐさまの思惑を看破し、手を離したかも知れない。
が、の方から甘えて擦り寄ってくるなど、未だかつてない好機。その感触を手放すのに躊躇い、半兵衛の動作は一瞬遅れた。
と――――
「うちの子に、何してるのかな?」
突如、背後に黒い人影が立った。いったいいつからそこに居たのか、神出鬼没に現れたその影は子飼いの母とも言えるねねだった。
顔にはいつもの微笑みを浮かべているが、背後にどす黒いオーラが見える。
違うんです、と言いかけたが、それよりも早くがねねに飛びついていた。
「おねね様っ、半兵衛様がムリヤリ私に……!」
「ムリヤリ……何をしたの、半兵衛?」
「べ、べつに俺は――――」
弁解もたどたどしく、ねねの黒いオーラは益々濃い闇を呼ぶ。
口ごもった半兵衛に代わり、
「とても口では言えないような事を半兵衛様が……!」
と、が涙まじりに嘘を放った。
ぎょっと半兵衛は目を見開く。
「女の子を泣かせるなんて、悪い子だね?」
ねねは武器を構え、じりじりと半兵衛に詰め寄る。その背後で、がふっと笑みを浮かべたような気がした。
くそう――――!
「おねね様、これはの計略です。俺たち旅行の行き先を巡って模擬合戦をしていただけで――――」
説明の最中、の放った飛刀が半兵衛の懐を切り裂いた。その切り口から零れ落ちたのは、のあられもない姿を激写した無数の写真。
「ふうん、模擬合戦にこんなものが要るの?」
「そ、それは」
三成のものです、と答えるより早く、ねねの武器が半兵衛を襲っていた。攻撃を受けつつ半兵衛は三成から巻き上げた限定三成コレクション(観賞用)with半兵衛秘蔵コレクションパート2を守ろうと必死に応戦したが、結局はねねの手によって破かれる事になるのだった。
end
ついにおねね様も参戦してカオス状態に。
もはやいい訳すらありません!
次回、ついに官兵衛との決戦。最終話です!