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軍師騒乱





「デ○ズニーランドですってば!」
「え〜、温泉がいいよう」
「偕楽園でよかろう……」
 三者三様に違う事を言い合って、むっと黙りにらみ合う。そんな事がここ一時間続いていた。
 事の発端は秀吉の二日前の一言だった。
 日ごろ苦労をかけている軍師たちに、たまには休みをと、労いの言葉と共に一両日の休暇をくれたのだった。
 半兵衛はいつものように昼寝を、官兵衛は日ごろ時間がなくて読めなかった書物を読もうと決めていたのだが、せっかくだからたまには三人で出かけましょうよ、と半ば強引にが二人を誘ったのだった。そして、行き先を決める段となり、この意見の不一致。
「じゃ、わかったよ。偕楽園を見た後、みんなで温泉。これでいいでしょ?」
「異論ない」
「ええっ、私のディ○ニーランドは!?」
「ちょっ、冗談きついよ。俺や官兵衛殿みたいなおじさんと、ネズミ王国に行って何が楽しいの?」
 そういうのは子飼いの子達と行きなよ、と呆れ声で半兵衛は続ける。だが、は不服そうだ。
「私は……官兵衛様と半兵衛様と一緒がいいんです」
 伏せ目がちにしてうな垂れる姿に心が揺れかけたが、いやいやいやと半兵衛はかぶりを振った。両兵衛が若い娘と一緒になって夢の国に? 一瞬、官兵衛が頭にネズミの耳を装着した姿を想像し、思わず噴出してしまった。それはそれで笑えるが、実現するとなると不憫でならない。
「じゃ、こういうのはどう? 軍師は軍師らしく、軍略で勝負ってことで」
「勝負……?」
「そ。俺と官兵衛殿が組んで、は子飼いの三人と組むの。で、お互いに将兵を動かして勝った方の行きたい所へ行く」
 が思案するように、小首をかしげた。
 天才軍師と名高い両兵衛と子飼いが匹敵するのか……。否、子飼いはあくまで武力として働くのだから、独りの力で対抗しなければなるまい。
 千里眼があるとはいえ、相手は軍略の師。二人を出し抜く策が出せるかと言われると、自信がない。
 が、が不安げにしていると、半兵衛が挑発するように笑った。
「不安ならもっとハンデつけてあげようか?」
 はむっと顔をしかめ、
「結構です! 私だって、軍師のはしくれ。お二人には負けません!」
 と、大見得を切ってしまった。
 挑発に引っかかる時点で軍師としては失格なのだが、そんな単純なところが半兵衛は可愛くて仕方ない。半兵衛は満足そうに微笑むと、決まりね、との肩を叩いた。
「ただし! 私が勝ったら一緒にネズミ帽つけてくださいね」
「いいよ、いいよ。何でも聞いてあげる」
「絶対ですからね!」
 言って、指切りを交わす二人に官兵衛はため息をついた。そんな官兵衛に半兵衛はこっそりと耳打ちをして、
「大丈夫だって、天才が二人集まれば不可能はほとんどないんだからっ」
 と、にんまりと笑うのだった。






「ひとぉーつ、軍師のいう事は絶対です。応答は、はいか了解で答える事。反論は受け付けません」
「なんだそれは」
 ふたぁーつ、と続けたの声を遮って、三成は心底不機嫌そうな声を上げた。
「なんだって……武将の心得?」
 不思議そうな顔で小首をかしげたに、三成は更に顔をしかめた。
 いきなり呼び出されて何かと思えば、両兵衛と旅行の行き先がかみ合わないから、模擬合戦で勝負をつけるのだと言う。武力を持たない自分の代わりに戦って欲しいと言われただけでも意味不明なのに、わけのわからない心得をつきつけられ、三成は苛立ちを募らせた。
「下らんな。馬鹿に付き合うほど暇ではない」
 そう吐き捨てて三成は立ち上がった。
「俺もだ。馬鹿は馬鹿だけでやってろ」
 と、それに清正が続く。正則はおろおろと清正とを交互に見やっていたが、お、俺も、と清正に付き従う形で席を立った。
「えっ、待ってよ! お願いだから助けて!」
 は必死で三成と清正の服を掴んだが、二人の足は止まらず、そのままずるずると引きずられる形になる。
「お願い! みんながいなきゃ、私負けちゃう!」
「勝手に負けてろ、馬鹿。どの道、休みはもらえるんだからいいだろ」
「温泉なりどこへなり、好きな所へ行け。俺たちには関係がない」
 それは至極もっともではあるのだが、あの両兵衛に対抗するには三人の力が不可欠だった。はずるずると引きずられながら、今にも泣きそうな顔で訴えかける。
「お願いだから……もし負けたら……私、半兵衛様のいうこと何でもいう事きかなきゃ……っ」
 何でも、という言葉に三成と清正はぴたりと足を止めた。
 温泉、浴衣、旅館という三つのキーワードが、スロットマシーンのように頭の中でかちりとそろい、ありもしない妄想を二人に見せる。
 きっちりと並べられた布団の上、
『よいではないか、よいではないか』
 と、悪代官のような顔で、の浴衣の帯をぐるぐると剥ぎ取る半兵衛の姿。は手篭めにされながら、やだやだとかぶりを振り、
『やだぁ、いやぁ……助けて、清正/三成』
 と自分の名を熱っぽい声で呼ぶのだった。
 冷静になって官兵衛の存在を思い出せば、そんな妄想など百万に一つでも起こりえないのだが――――普段、半兵衛のしたたかな部分を見せ付けられている二人にとって、その三つの条件はすぐさまの貞操の危機に繋がった。
 知らぬ顔でいつの間にか、おいしい所だけを掻っ攫っていくあの男。自分たちより何歳も年を食っているくせに、まるで少年のようなあどけない顔で、腹黒い事をやってのける。今まで何度も辛酸を舐めさせられた恨みも重なり、三成と清正の心を揺さぶるにはそれだけで十分だった。
 ちっと舌打ちを鳴らし、三成が鉄扇を手に取った。
「この戦、勝つぞ」
「ああ、俺たちの家、壊させやしない」
 いつの間にか戦う気まんまんになっている二人に、と正則は驚きつつも、
「しゃあ、両兵衛覚悟ぉ!」
 と、正則の気合の声と共に四人の心は一つになったのだった。



end


軍略勝負ここに勃発。
子飼いは半兵衛とはあんまり仲がよくないという裏設定。