Text

!CAUTION!
微エロです。
半兵衛先生がサディスティックなので、ご注意を。







































盤上遊戯 03





「ん、俺の勝ちっと」
 半兵衛は嬉しそうに笑むと、の身体を愛おしげに抱きしめた。体温を確かめるような強い抱擁に、は思わず手を突っぱねて抵抗した。
 今までの冗談のような嫌がらせとは異なる情熱的な愛撫に、全力で逃げろと脳内が警告を発している。
「はんべぇ……さま!」
 とりあえず渾身の力で半兵衛の身体を引き離すと、は怒りますよ!? と凄んで見せた。
 大抵の冗談はこれで収まる。が、今回の半兵衛はまったく動じず、上機嫌だった顔をわずかに曇らせて、詰まらなそうにしかめただけだった。
。負けたからには俺の言う事、聞いてよね」
 と、諭すような口調で。
 まだ負けていないと反論したかったが、それよりも負けの代償が怖くてつい聞いてしまった。そういえば自分は、勝った時の事しか聞かずにこの勝負に乗ってしまったのだ。
「聞くって……?」
「将棋の駒って取られたら、相手の物になるよね。それって玉将も同じだと思わない?」
 ひくり、とは顔を引きつらせた。半兵衛の言わんとしている事を、何となく察してしまったのだ。
 王将の事をわざわざ「玉」将と言い換えたのは、半兵衛なりの言葉遊びなのだろう。
「い、いえ……大将なのだから、詰まれたら自害か処断でしょう」
「それじゃあ、無駄死にだと思わない? 死ぬより……才能を活かしてくれる人の所で戦った方が、よっぽど幸せだと思うけど」
 半兵衛の熱っぽい視線に見つめられて、は慌てて顔を背けた。
 これは――――物凄く良くない。
 もはや冗談で済ませられない状況だとようやく気付き、は己の軽率さを呪った。
 だが、今は後悔している場合ではない。どうにか戦況を覆さなければ、玉将と同じ運命を辿る事になる。
「ま、まだ負けたわけじゃありませんから……!」
 は半兵衛の腕を振りほどくと、盤上に向き直った。
 せっかくその気に成り掛けていた甘い空気を壊されて、半兵衛は正直に顔を不機嫌にさせた。
「無駄だよ。あと十手で王手だから」
「……!」
 そこまで読んでいると言うのか。
 今更ながら、半兵衛の恐ろしさには舌を巻く。
 だが、引き下がるわけにはいかない。
「それでも……勝ちます!」
 と、駒を手に取ったに向けて、半兵衛は盛大にため息をついた。
「ま、いいけど。でもこれからは、俺もちゃんと攻めるからね」





 頭が火照ってくらくらした。
 いつの間にか日は西に傾き、薄暗い部屋の中で二人、わずかに呼吸を弾ませて盤上を見入っている。
 いや――――見入っているのは自分ひとりなのだ。
 半兵衛は先ほどからの首筋に唇を這わせ、念入りに所有の印を付けるのに執心で、盤などまったく見ていない。
「4六金」
 と、指し手だけははっきりした声で告げるのに、耳元に響く息遣いはすでに熱を帯びていた。
 攻める、とは良くも言ったものだ。
 将棋の事など片手間でしかなく、半兵衛の関心は今は腕の中で強張っているの身体にあるのである。
「玉将より先にが王手になっちゃうかもね」
 と、意地悪く笑いながら、の着物の合わせ目にするすると手を差し入れていった。
「!!」
 は驚いて必死に半兵衛の侵入を阻止したが、半兵衛はあえて無理に押し入る事はせず、代わりに耳元に唇を寄せて柔らかい部分を甘噛みした。
「っ……!!」
 びくり、との身体が跳ね上がる。
 何をするのだと言わんばかりに半兵衛を睨みつけるが、目の端はすでに赤く染まり、今にも泣き出しそうな顔。
 しかも、
「3七銀」
 盤など一切見ていないくせに、半兵衛の指し手は止まらず、は黙って駒を進めざるを得ない。
 盤上も、現実も、もはや退路は無く。
 刻々と追い詰められる玉将と、後ろから抱きすくめられて逃げられない状況が重なる。
、好きだよ」
 少しかすれた様な声で囁かれ、思考は無残にもばらばらにされて行く。策などもはや意味がなく、空転する脳裏で考える手は己までも追い詰めていった。
 するりと腰帯を引き抜かれて、露わになったうなじに唇が押し当てられる。
「2七桂」
 背を駆け下りるように口付けを点々と残し、白い肌に紅い花びらを散らせていく。
「1六歩」
 指先は節度を保ちつつも、やんわりとなだらかな肩から腕の曲線を撫で、の身体が開かれるのを待っている。
「5六金」
 痛いくらいに強く抱きしめられて、何度も名を呼ばれる。
 抱擁と、口付けと、繰言だけの――――甘く柔らかな愛撫は、真綿で首を絞めるように、徐々にの自由を奪い。
 それでも徹底的に、もはや逃げようなどと思わぬほど、完膚なきまでに袋小路へと追い込んだ。
 一手、また一手と、じわじわと追い詰められて逃げ場は無く。
 耳先を、首筋を、うなじを、背を、徐々に辿る柔らかな唇は、甘美な世界へとを奪い去ろうとする。
 そして、やがて半兵衛の称した十手先の手が打たれ――――
「王手」
 もはや逃げ場のない玉将は、力尽きたように吐息をつき、その身を半兵衛の胸の中へと委ねるた。



end


雰囲気が怪しくなって来ました。
次回は裏なのでご注意を〜