このシリーズには、狂愛、ヤンデレ、鬼畜、外道、暴力といった要素が含まれます。
嫌悪感を感じられる方はブラウザバックをお勧めします。
大丈夫な方のみお進みください。
嘘にまみれた言葉は要らない。
演ぜられた媚態も要らない。
抱擁も、口付けも、愛撫も、口説も……
欲しいのはそんなものじゃない。
欲しいのはただ、誠だけ。
あなたの宿す、誠の心だけ――――
ゆびきり 03
すんすん、と鼻を鳴らして息を吸い込むと、微かに甘い香りが香った。
一体何の匂いだ、と正則が怪訝そうな顔をしていると、ああ、俺かも、と半兵衛が懐から小さな包みを取り出した。
紅い錦の布に包まれた小さな袋には、金の鈴がつけられており、りぃんと涼やかな音を響かせる。
「が持たせてくれたんだ。私が居ない間、これを代わりにって」
そう言ってはにかむ半兵衛に、正則は詰まらなそうな顔を向ける。
「けっ、男のくせに匂い袋かよ」
と、悪態を付いたが、それが単純に匂い袋に向けられたものではない事は明らかだ。
姉弟のように育ったが祝言を挙げる。それだけでも面白くないのに、その相手がよりによってこの性悪軍師かと思うと、正則は素直に祝福する気にはなれないのだった。
あーあ、つまんねぇ、とぼやきながら、正則は去っていった。
その背中が遠くへ行くのを見送ってから、官兵衛はつと半兵衛の飄々とした顔を見やった。
「……卿は一体なにを考えている」
暗い表情で問う官兵衛に、半兵衛はあくまで何のこと? と空とぼける。
「誤魔化すな。あれの策など見越していたのだろう」
「まあ、ね」
「ならば何故、祝言など挙げる。あれを嬲り殺すためか」
真面目に聞いてきた官兵衛に、半兵衛はぷっと吹き出した。
殺すなど――――ありえない。なぜ、わざわざ手に入れたものを、自分で壊す必要がある。
それが分からないとは、流石の官兵衛もこの手の話には疎いと見える。
「官兵衛殿は根本的から間違ってるよ。俺はを愛してる。これは本当」
「……では、何が偽りなのだ」
「しつこいなぁ。好きだから睦みたいし、夫婦になりたい。俺の子供を生んで欲しいし、死ぬまで側に居て欲しい。それって正しい理屈じゃない?」
「正当な情で繋がれた男女ならばな」
やれやれ、と半兵衛は肩をすくませた。
どうせ官兵衛などには半兵衛の気持ちは理解できないだろう。この性格破綻者に真っ当な愛情などあるはずがない、などと思っているのだ。
だが、言い返すならば、真っ当の愛情とは何だ。慈しむことか、思いやることか。
だが、それは結局は愛情の一面でしかない。
愛などと綺麗な字を与えられた感情は、慈悲であり、傲慢な欲望であり、優しさであり、他者への拘泥であり、善であり、悪であり――――結局は形に当てはめようとする事こそ馬鹿馬鹿しいのだ。
ま、そんな事、官兵衛殿に言ったってわかんないだろうけどね――――
「俺にとってが俺を殺そうとしたとか、どうでもいいんだよね。それを恨んで仕返そうなんて、もっと馬鹿馬鹿しいよ。が策を練るなら、その上を行けばいい。俺の事を愛してくれないなら、俺がもっと愛せばいい。わかる、官兵衛殿?」
官兵衛は黙っていた。
理解など出来まい。愛情の質が、深さが、官兵衛の認識できるそれとは、まったく異なっているのだ。
「……その袋の中には何がある」
官兵衛の鋭い視線が、半兵衛の手にした匂い袋に注がれた。
「見せられないよ。これはお守りなんだから」
からの、ね。
にっと笑った半兵衛の顔に官兵衛は悪い物を感じ、無理やり半兵衛の手の中からそれを奪い取った。
「ちょっと、官兵衛殿!」
取り返そうと伸ばす半兵衛の手を払い除け、結び目を解く。
ぐっと力を込めて開こうとすると、半兵衛の伸ばした手が当たって官兵衛は匂い袋を取り落とした。
その瞬間――――
ころころころ、と。
何か小さな物が袋から零れて、座敷を転がった。
なんだ、白い、何か――――
官兵衛は訝ってそれを拾い上げると、はっと息を飲み込んだ。
すぐさま、半兵衛がそれを奪い取り、大切な物なんだから乱暴に扱わないでよ! などと怒っている。
だが、官兵衛の耳には届かなかった。
官兵衛の見間違いでなければ――――それは人間の小指の先だった。
まるで生きているかのように瑞々しく、桜色の爪は艶やかだったが――――第一関節から先しかない。切断面には生々しい白い骨が除いていたのだ。
「あれの指を……切ったのか?」
驚愕する官兵衛の声はわずかに震えていた。
半兵衛は答えない。
「切ったのか!?」
焦りを帯びた官兵衛を嘲笑うように、半兵衛をふふふっと笑みを零す。
そして、
「切ったのは指だけじゃないけどね」