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!CAUTION!
このシリーズには、狂愛、ヤンデレ、鬼畜、外道、暴力といった要素が含まれます。
嫌悪感を感じられる方はブラウザバックをお勧めします。
大丈夫な方のみお進みください。




















『ねえ、好き?』
『好き』
『愛してる?』
『愛してる』
『この世の誰より?』
『この世の誰より』
『じゃあ、指切りしよう――――




ゆびきり 02





 確かに少し甘かったのかもしれない。
 あまりにもが従順に半兵衛の人形を演じたためか、自分は安堵してしまっていたのだ。
 ねねや秀吉と話す時のは、本当に半兵衛を恋しく思っているように、頬を桃色に染めて近く迎える祝言を喜んでいた。
 半兵衛に良い印象を持たぬ子飼い達も、が口を挟めば手は出せなくなる。
 二人の関係を疑う官兵衛にさえ、本心から好きになってしまったのです、などと空言を繰ってみせ、余計な邪魔をせぬようにと十分な牽制をしたのだ。
 まるで昔のが帰って来た様だと、半兵衛は密かに喜んだ。
 あの日、を屋敷に連れ去ってから、は畏怖の眼差しで半兵衛を見るようになった。半兵衛の宿す狂気を恐れ、痛みを受け入れるように半兵衛を受け入れる。
 自分のした事を思えばその反応は当然なのだろう。
 が、日に日に感情が乏しくなり、抜け殻のようになっていくを見るのはやはり忍びなかった。
 今となってはすべて空言だが、まるで本物の恋人のように過ごしたあの蜜月は、決して悪い思い出ではなかった。偽りの睦言も、ごっこ遊びのような関係も、それが嘘だと知りながら、その嘘が大きくなればなるほど自分への執着が強くなるようで嬉しかった。
 裏があった事など端から知っている。が自分を殺そうとしていた事も、それが全て官兵衛のためである事も。
 だが、それも含めてすべてが――――の繰る計略を小賢しく思いつつも、愛していたのだろう。
 だから――――たとえ、それがすべて誓文通りの言葉であっても、半兵衛は偽りの恋人を楽しんだ。
 そして、その夢があまりに甘美だったためか、繋いだ鎖をつい緩めてしまったのだ。
「どうか国に帰る事をお許し下さい」
 と、暇乞いと共に三つ指をたてて頭を下げたを、半兵衛はきょとんと目を丸めて見返した。
 一瞬、本気で何をが言っているのか分からなかったのだ。
 国に戻ったところで城はあれども、家族はない。全て半兵衛が始末してしまったからだ。
「何のために?」
 と訝った半兵衛に、
「祝言の準備に」
 とは至極当然のような顔で答えた。
 面食らったと言うのは、まさしくそんな様子を言うのだろう。
 祝言などとんだ狂言だ。要は自分がを一生繋ぎとめるための、世間への体のいい説明にすぎない。
 それを知った上で、が自分から婚姻の準備などをするとは思わなかったのだ。
 確かに長く離れているとはいえ、一度も実家に戻らぬのは不自然だし、嫁入り道具でも持ってくるのならその方が現実味が増す。
 もちろん、自分を謀ろうとしているのかもしれないと疑心を抱きはしたが、監視をつける事を条件に半兵衛は暇乞いを許した。誓文は生きているし、裏切ればどうなるかも分かっているはず。
 何よりが自ら花嫁支度をするという事実に、愚かしくも心が躍って――――
 嬉しかったのだと思う。ただ、純粋に。
 だから――――





「あーあ。こうなる事は分かってたんだけどねぇ」
 半兵衛は――――心なしか寂しげな顔で呟いた。
 青々と茂る竹林はどこまでも深く、下界から完全に乖離した異空間のように思えた。
 地面に敷き詰められた木の葉が、風が吹くたびに乾いた音を立てる。その柔らかな木の葉に包まれるようにして、は地面に尻餅をついたまま半兵衛の顔を険しい表情で睨みつけていた。
 右手には飛刀が構えられ、すぐにでも飛ばせるよう刃が半兵衛に向けられている。
 そして、足は――――鋸歯状の歯が付いた鉄製の罠が、がっちりとの足首に刃を食い込ませていた。
「逃げるなら、この道は一番通って欲しくなかったんだけどね」
 がりがりと頭を掻きながら、半兵衛はの側へとしゃがみこんだ。
 大型の禽獣を捕らえるのに用いられる虎ばさみの一種である。動けば動くほど歯が強く食い込む種類のもので、運が悪ければ骨まで粉砕するほど強力な物である。白い足首は血で真っ赤に染まり、伸ばされたつま先からぽたりぽたりと血を滴らせていた。
 の逃亡を考慮にいれないはずがなかった。
 秀吉の屋敷に戻ってからはさらに厳重に、自分の目の付く所に置き、監視もつけた。屋敷の四方に罠を仕込み、万が一の場合にはその逃亡の阻止となるよう凶刃を張り巡らせたのだ。
 それでも、は屋敷に来てからずっと従順であったし、官兵衛たちの命を人質にとっている以上、滅多な事をしないだろうと己は高を括っていたのも事実。否、むしろ祈っていた。それが裏目に出たのだ。
 の行動は迅速だった。
 屋敷から離れてすぐは監視をまき、この深い竹林へと逃げ込んだ。
 すぐに追っ手がかかったが、その差は大きかった。
 逃げ切れると信じていたは、これほど早く追いつかれるなど思いも寄らなかっただろう。だが、枯れ葉に隠されたこの残忍な罠が――――が目的の地に到達する前に、その足を喰らった。
「どうしてこの道を選んだの?」
 問いかける半兵衛をは睥睨するだけで答えなかった。
 逃げるなら――――この道は逆なのだ。
 この竹林の先には何も無い。断崖絶壁の滝があり、その下は岩場になっている。どこへも進めない。逃げる道では、ないのだ。
 この先には――――黄泉の入り口しか開いていないのだ。
 だから、この道には一番凶悪な罠を仕掛けた。
 どんな傷を負わせ、四肢が砕けたとしても――――魂を失うよりは、ましだと思えたから。
「ねえ、は……死ぬほど俺が嫌い?」
 半兵衛が悲しげな顔で聞いた。は答えなかった。
 半兵衛はその沈黙が答えであるかのように、そう、と静かに呟くと手にした羅針盤を掲げた。
 鋭利な刃がしゅんっと空を切って飛び出す。
 ゆっくりと、刃を振りかぶって、
「じゃあ、仕方ないよね――――




end



ちょっとデレた所で、どでかいヤンがやってきました。
次回よりいつもの半兵衛先生が戻ってきます。