このシリーズには、狂愛、ヤンデレ、鬼畜、外道、暴力といった要素が含まれます。
嫌悪感を感じられる方はブラウザバックをお勧めします。
大丈夫な方のみお進みください。
ゆびきりげんまん 嘘ついたら針千本のーます
ゆび切った――――
ゆびきり
契り。
誓約。
誓い。
心中立て。
幾重にも結んだ約束が見えない糸となって傀儡を動かすように、一挙手一挙動、口をつく言葉のすべてが誓文に記されているかのように正確だった。
どのように振舞い、どのように受け答えをし、これからどうするのか、何をすべきなのか全て、半兵衛の意のままに動く。
人形でも仮面でもない。
それは素顔だ。
だが、誠の顔ではない。素顔を歪めて誠の顔のように見せている。
だからそれが空言であろうと、決められた台詞であろうと、その全てに真実味が増すのだ。
まるで祝言を控えた花嫁が恥らって頬を染めるように、そうした顔を誰が偽者と見抜けただろう。
秀吉も、ねねも、三成も、清正も、正則も――――誰も気付かない。あの官兵衛ですら、その表情の中に不自然さを見つけられずに戸惑うほどなのだ。
それでこそ徹底的に教え込んだ甲斐があるというもの。
半兵衛は上機嫌で、それこそ嗤い出したいほど可笑しくて、がずっと決められた言葉を吐く間、笑いを堪えるのに必死だった。
遡る事、数日前――――
鬼ごっこに興じていた半兵衛だったが、いつまでもこのままでは済まないと言うことは重々承知していた。
攫うように屋敷に連れて来ただが、ずっと座敷牢に閉じ込めておくわけにはいかない。実しやかな嘘で秀吉たちを騙しているが、いずれその嘘も綻んでくる。
新たな嘘が必要だった。それも、半兵衛が一方的につく嘘ではなく、を共謀させた絶対的な嘘でなければならない。
そのために半兵衛は、自由にする代わりに幾重もの盟約をに突きつけた。
ひとつ、半兵衛を決して裏切らぬ事。
ふたつ、落胆させぬ事。
みっつ、逃げぬ事。
よっつ、拒まぬ事。
いつつ、屋敷での出来事を口外せぬ事。
むっつ、本物の恋人として振舞う事。
ななつ、他者に悟られぬ事。
やっつ、他の男と親しくせぬ事、云々。
約束を違えばどうなるか――――分かっているよね? と半兵衛は陰惨な笑みを浮かべて告げた。
「誰の首が落ちれば、は約束を守ってくれる? ……なんて、俺も言いたくないからね」
要は拒む術など初めから無い。
言う事を聞かねば、半兵衛は容易く彼らを殺すだろう。の一族を皆殺しにしたように、親しかった人間も仲間と呼んだ人間も、すぐに手の平を返すように始末する事が出来るのだ。
半兵衛に躊躇いはない。
彼らのことは好いている。だが、それが首を落とす事と直結しない。
そして、その躊躇いの無さがを確実に従わせられると知って、ますます拍車がかかっている。
「ちゃんと俺のこと好きでいてくれれば、悪い事なんて何にも無いよ。ね、分かった?」
怯えながらそれに応じたに向って、半兵衛は嬉しそうに小指を向けた。
の小指と自分のそれを絡ませて、唄うように口ずさむ。
「ゆびきりげんまん 嘘ついたら針千本のーます。ゆび切った――――」
end
きっと半兵衛の信条は、生かさず殺さずなのでしょう。