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!CAUTION!
このシリーズには、狂愛、ヤンデレ、鬼畜、外道、暴力といった要素が含まれます。
また、半兵衛と官兵衛が仲良くない&ヒロインが複数の男性と関係を持っています。
嫌悪感を感じられる方はブラウザバックをお勧めします。
大丈夫な方のみお進みください。






















悪之華 05





 支柱を失ったように崩れ落ちたの身体を、半兵衛の薄い胸が抱きとめた。
 髪を梳くように撫でながら、半兵衛が何か言っている。
 良かったねぇ、これで翡翠城の城主はだよ、俺が一族を皆殺しにしてあげたからね、あの家の正当な血族はだけになったんだ、だって城をあげるって約束したでしょ、だから俺殺したんだよ、が望んだからお願い叶えたくって――――
 半兵衛の声が妙に遠くで聞こえた。
 脳裏にいつか官兵衛のかけた愚か者、という声が甦える。
 今更、後悔などしても遅いのに、なぜ今になって思い出すのか――――
 官兵衛はなどより正確に竹中半兵衛を知っていた。この男が、どれほど恐ろしく、狂気を宿しているのか、知っていた。
 元より――――私の敵う相手ではなかった……
 は敗北を知るように愕然として、その身を半兵衛に委ねた。
 だが、それですべてが終わったわけではない。
 ああ、でもさぁ、と半兵衛が何かを思いつくような声で言う。
の欲しかったもの、本当は城なんかじゃなかったんでしょ?」
 はびくりと両肩を震わせ、おずおずと半兵衛の顔を見返した。
 月明かりを受けて、半兵衛の双眸が輝いている。
 きらきらと瞬きながら――――
「俺の首。本当はこれが欲しかったんでしょう?」
 は飛びのくようにして半兵衛の腕の中から逃れると、瞬時に懐に忍ばせた短刀を抜いた。
 虚報だったのだ。半兵衛が討ち死にしたと言うのも、一族が生きているというもの。すべて半兵衛の放った偽りの情報だった。それに自分はまんまと躍らせられていたのだ。
 が臨戦態勢にも関わらず、半兵衛は胡坐をかいたまま、弛緩した姿勢でゆったりとを見上げている。
「あんな稚拙な策、児戯にも等しい……と言ってやりたい所だけど、あいつらを俺の軍に混ぜたのは満点をあげようかな。まさか未だに繋がってたなんて、思いもよらなかったからね」
 は咄嗟に半兵衛の軍に送り込んだ刺客達の顔を思い浮かべた。
 かつてが陥落させた男達――――半兵衛に無理やり関係を迫られていると涙ながらに語ると、憤激しての作戦に乗ったのだった。
 べつに愛情があったわけではない。
 軍師らしく、力のある者を利用しただけだ。
 だが――――
「おかげで探す手間が省けたよ。言ったよね? 手を切らないと、殺すって」
 は咄嗟に切りかかっていた。
 あだ討ちでもなんでもない。ただ狂ってしまいそうなほどの激情が、の身体にそうさせた。
 半兵衛は俊敏な動きでそれをかわすと――――短刀を持った腕をねじり上げ、の身体を畳みの上に組み敷いた。
 ダン! と大きな音をさせて、の身体が叩きつけられる。
 どこにそんな力を宿しているのかという万力で、半兵衛はぎりぎりとの腕に力を込めた。
 可愛いなぁ、と耳元に唇を寄せ、囁く。
「い……ぅ……あぁ」
 痛みに顔をしかめ、の指先から短刀が滑り落ちた。
 それはさくりと畳の上に突き刺さったが、半兵衛は尚も力を込めた。痛みで浮かんだ球のような汗がの顎先から零れ落ちる。
 ほんっと可愛いよ、と囁いて――――
「そんな愚かなが俺はたまらなく愛しいよ」
 半兵衛がそう告げるのと、ごきりと、鈍い音が響いたのは同時だった。
「あ、ぁあ……あぁぁぁああ!!!」
 は絶叫を上げ、痛みに耐えるように畳の上をのた打ち回った。
 半兵衛がくすくす、と笑みを零しながら、それを可笑しそうに眺めている。
「心配しなくても骨なんてすぐくっつくよ。俺だって、の綺麗な身体が損なわれるのは厭だからね」
 でもさ、と呟いて。
「悪い子には、お仕置きしなくちゃ」
 身体を仰向けにされたと思うと、半兵衛が馬乗りになって乗りかかってきた。何をするつもりかと目を白黒させていると、パァンと渇いた音が耳を劈いた。
 頬を打たれたのだと理解してから、ようやく痛みがじんわりと浮かんできた。
 呆然と半兵衛の顔を見返していると、半兵衛の指先がの頬に残った涙痕に触れた。
「俺のために泣いてくれたんだね」
 満足そうに微笑んで、唇を啄ばむように吸う。
 と思いきや、顔を離した瞬間、もう片方の頬を平手打ちにされた。
 憎しみと愛おしさがない交ぜになったような、一貫性のない行動には恐怖を感じた。
 間違っても竹中半兵衛は狂っているわけではない。
 これが彼の常態なのだ。彼は常日頃から……すでに心が破綻しているのだ。
 ふふっと半兵衛が笑みを零す。
「俺と祝言を挙げようよ。大切にするからね、一生。永久に……」
 飼ってやるよ――――
 半兵衛は唇を歪めて嗤うと、誓いの口付けを落とすようにの唇にそれを重ねた。
 何かががらがらと崩れ落ちていって、何もかもが消えていって――――は自分が今ここで何をしているのか分からなくなった。
「見てよ。ちゃんとのご両親にも許可を貰ってきたんだ」
 嬉しそうに微笑んで、半兵衛は懐から取り出した文をの眼前に突きつける。
 その文には子女を妻として差し出すと言った旨が記されており、日付と名の下に血判が押されていた。無理やり押させられたのか、文は端々が血に染まり、所々に赤い飛沫が飛んでいる。
 は泣いた。
 憎くも思っていた父母が、最期に抵抗らしきものを見せたその痕に、涙した。
 半兵衛の唇が下から上に掬い上げるように、の零した涙をなぞる。
 何度も雨のように慈しみの口付けを落とし、あの日残した痕と同じように、首筋に紅い華を散らす。
 欲情し徐々に呼吸が荒くなっていく半兵衛の愛撫を、は必死の形相で拒んだ。
 半兵衛は一瞬、冷めたような顔を見せたが――――
「ああ、そっか。ここじゃあ義母上が見てるもんね。それじゃ、俺の屋敷にでも行こうか」
 と、独り納得するとの身体を軽々と抱き上げた。
 足元に転がった女の首を無造作に蹴り飛ばして、半兵衛は月明かりの差す障子を開く。
 満天の星空には月が煌々と輝き、それを受けた野の花々が風に揺れていた。
 悪之華ってさ……、と半兵衛が呟く。
「どんな色をしてるんだろうね。黒かな、赤褐色かな」
 ざわりと、一陣の風に吹かれた花が一斉に揺れて、
「俺はそんな色じゃないと思うんだ。本当の悪之華はきっとね――――




end



どんな色なんでしょうね、悪之華。
さて、このシリーズには続編がありますが、
ひとまずこれにて「悪之華」は完結です。
ここまでヤンデレワールドにお付き合いくださり、ありがとうございました!