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!CAUTION!
このシリーズには、狂愛、ヤンデレ、鬼畜、外道、暴力といった要素が含まれます。
また、半兵衛と官兵衛が仲良くない&ヒロインが複数の男性と関係を持っています。
嫌悪感を感じられる方はブラウザバックをお勧めします。
大丈夫な方のみお進みください。




















悪之華 02





 のいわゆる枕営業が、官兵衛のために行われている事は知っていた。
 官兵衛は軍師としては有能だが、いささか正直すぎて敵を作りやすい。槍を振ることしか脳のない筋肉馬鹿など、適当におだてて良い様に使えばいいと半兵衛は思うのだが、官兵衛はそういう小細工をしない。
 だから、諸将が変な事をしないよう、が楔となって彼らを繋ぎとめる。
 官兵衛がそれを命じたのか、それともの意思かは知らないが、いずれにしろ官兵衛の振る舞いがを追い詰めたのは確かだろう。そして、それを官兵衛は黙認した。であれば、直接的にしろ間接的にしろ、唆したのは官兵衛だ。
 殺されちゃうかもしれないよ、と囁いたのは半分は本音である。
 こんな事が子飼いや秀吉夫妻の耳に入れば、どうなる事か。想像するだけで笑えて来た。
 そうやってあの師弟をどん底に叩き落してやってもいいのだが、それはもう少し遊んでからにするとしよう。
 それに――――が自分に近づいたのは、他の男に対する理由とはいささか違うように思う。
「おねだりって何だったの?」
 情事の後の気だるさを纏いながら、半兵衛は自分の胸に縋り付くようにして目を閉じているに、語りかけた。
 うっすらと開かれる目はどこか虚ろで、未だ夢の中にいるように見えた。
「城を……」
 と、が小さな声で呟く。
「城?」
「城を獲っていただきたいのです」
 半兵衛はぱちりと瞳を瞬かせた。
 確かにこれは、錦の衣や銀の簪よりも数段に高価な代物だ。
「お城なんか欲しいの? どこの?」
 願いを聞き入れたわけではないが、興味が沸いて聞いてみた。
 はわずかに瞳を細め、
「翡翠(かわせみ)城を」
と告げる。
 なるほど。が何を考えているのか合点がいき、半兵衛はふうん、と半眼で唸った。
 翡翠城と呼ばれる城は美濃と近江の国境に建つ深緑の瓦で覆われた堅城で、氏の治める領内に建つ。つまり、にとっては生まれ育った生家であった。
 その城を欲しいというには、の生い立ちが大きく関係する。
 かつての領内が織田に攻め入られた時、時の城主であったの父は幼いの命を降伏の引き換えに差し出した。の両眼に宿る千里眼の力が、城と領民すべての命の代わりとなったのだった。
 その際、軍を指揮していた官兵衛の機転によりは命を助けられたわけだが、の心の中には親に捨てられた思いと、それでも懐かしき故郷を慕う気持ちがない交ぜになっているのだろう。
「いずれあの城は、何者かの手により落とされることでしょう。斉藤氏亡き後のに生きる術はございません。ならば……わずかな犠牲で済むうちに、織田に組み込みたいのです」
 おそらくは半兵衛の稲葉山城乗っ取りの件を、引き合いにだしているのだろう。わずか十六人で攻め落とした城獲りの話は、竹中半兵衛の名を乱世に知らしめる大きな契機となった。
「どうか……半兵衛様にしかお願いできないのです……」
 は半兵衛の腕の中で、か細い声で頼んだ。
 確かにこんな大胆な話など、並みの男には頼めまい。兵を率いる力があり、最小限の犠牲で目的を完遂する智謀がなければ成し遂げられない。更に言えば、主君にその兵を出させ、城攻めを正当化するだけの小狡さと口八丁が必要だった。
 そういう意味では半兵衛は最も適任である。
 なるほどねぇ、と半兵衛は口元に笑みを浮かべて呟く。
「でもさ、俺でいいわけ?」
 半兵衛の問いの意味が分からず、は怪訝な表情を見せた。
「その家の立場を悪くしたのって、俺なわけでしょ? だったら俺って、にとっては仇ってわけじゃない?」
 あの稲葉山城乗っ取りの件が、斉藤氏の没落を招き、引いては家の零落を引き起こしたのは、周知の事実である。そういう意味で言えば、半兵衛の言うとおり彼はの敵なのだった。
 だがの表情は動かなかった。
「構いません。私はもう……の者ではありませんから」
 もっと動揺するかと思ったが、あてが外れて半兵衛は詰まらなそうにふうん、と相槌を打った。
 本心かどうかは知らないが――――まあ、それはそれで良い。
「じゃあ、俺のお願いも聞いてもらおっかな」
 半兵衛は上半身を起こすと、の身体の上に覆いかぶさるようにして褥の上に手をついた。
「お願い……?」
「そ。のおねだり聞いてあげるんだもん。代わりに俺のお願い聞いてくれるよね?」
 の瞳がわずかに焦燥に揺れた気がした。
 そうだなぁ、と半兵衛は考え込むような振りをして、ふいにパチンと指を弾いてみせる。
「俺の恋人になるって言うのはどう?」
 は驚いたように、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「それなら、今でも私……半兵衛様の事をお慕いして……」
「あー、そういう空言はいらないから。演技とかそういうのじゃなくって、本物の恋人ってこと」
 本物の恋人、という言葉にはわずかに表情を曇らせた。
 もしかしたら、自分が他の男と繋がっている事を半兵衛には知られていないと、高を括っていたのかもしれない。あるいは関係を切る事で、官兵衛の身が危うくなる事を案じたのかもしれない。
 だが、迷う事ではなかった。
 その約束の代わりに城が手に入るなら、むしろ破格の交換条件だろう。
「わかりました。今日から私は半兵衛様の物です」
 の承諾の言葉に半兵衛はにっこりと微笑むと、まるで誓いを立てるように柔らかな口付けを一つ落とした。
「これからは俺だけのこと見ててね? 邪魔な男共も片付けてよ。じゃないと俺……あいつらを、殺しちゃうかもしれないからさ」
 あまりにも自然に零れだした物騒な言葉に、はびくりと肩を震わせた。
 だが、半兵衛は依然として微笑んだままで――――恋人の肌を確かめるように、ゆっくりとその身を重ね下ろした。




end



運命を変える二人の約束。