このシリーズには、狂愛、ヤンデレ、鬼畜、外道、暴力といった要素が含まれます。
また、半兵衛と官兵衛が仲良くない&ヒロインが複数の男性と関係を持っています。
嫌悪感を感じられる方はブラウザバックをお勧めします。
大丈夫な方のみお進みください。
悪之華
濃厚な空気の中に上がる、余裕のない荒い息継ぎ。
漏れ聞こえる嬌声はたっぷりと艶が含まれていて、いっそどこか白々しく聞こえた。縋りつくような両腕は必死だが、それさえも芝居がかっているように見えるのは、自分が屈折しているからなのか女が悪いのか。
「あっ……はんべ、……さま」
芝居だろうと何だろうと縋り付いて来る女は可愛いもので、腕を自分の背に回すように導いてやってから、女の身体を抱え上げた。
「ふふっ、どうしたの。今日はずいぶん頑張るね」
膝の上に乗せて、抱き合うような形で向き合うと、律動はそのままに問いかける。
「あっ、半兵衛様に……お願いがっ」
途切れ途切れに答えながら、縋り付くように半兵衛の胸に頬を摺り寄せる。女の柔らかな髪がくすぐったくて、わずかに目元を緩めてなあにと聞き返した。
「がおねだりなんて珍しい」
錦の衣か、銀のかんざしか、はたまた舶来の調度品か――――
いいえ、と首を振って女がわずかに笑んだ。
「もっと高価なものです」
「へえ」
男が面白そうに目を細める。
「半兵衛様にしか、……はぁっ、お願いできないのです」
こんな所で持ち上げた所で意味はないだろうに、媚びる様な台詞が可笑しくて、半兵衛は大きくの身体を揺さぶった。
一際大きな声で啼いて――――その声は半兵衛の中の邪まな欲望を埋めていく。それすらも、手練手管の一種かもしれないのに。
「いいよ、聞いてあげる。だからっ」
自分を陥落させようなどという小賢しい浅知恵に愛おしさと小憎らしさを感じつつ、半兵衛はの身体の中に深く己を沈めた。
艶を含んだ嬌声は、やはりどこまでも白々しく。快楽に翻弄される身体も、すがり付いてくるその腕さえも、もしかしたら全て嘘なのかもしれないと思いつつ、半兵衛はただ密かに嗤った。
まったく以って小賢しい――――
「ずいぶんと執心だな」
仏頂面の黒衣の軍師は、彼には珍しく呆れたような嘆息と共にそう告げた。
その言葉には真昼間からよくも飽きもせず、と情欲に溺れる男を揶揄する意味合いも含まれている。
の香の匂いでも移ったのか、特段それを隠すつもりもなかったが、こうもぬけぬけと言い当てられてはまるで閨を盗み見られたようで、さすがにばつが悪い。
が、半兵衛にしてみれば、それはのせいでもある。何を思ったか知らないが、誘うような言動で寄って来たのはあちらなのだし、据え膳食わぬは男の恥、それを咎められてはさすがに立つ瀬がない。
「だいたい……枕営業なんてさせてるの、官兵衛殿でしょ?」
くっと唇を曲げて笑みを作ると、半兵衛はにやにやと笑みを浮かべながら官兵衛を見返した。
「いくら弟子だからってさぁ。育ての親同然の官兵衛殿に、こんな事させられるなんて……ってかわいそ〜」
可哀想などと言うくせに、その実、半兵衛の顔は笑っている。
楽しんでいるのだ。閨でをいたぶるのも、ここで官兵衛を詰るのも、元は同じ感情から来ている。
どちらも半兵衛にとってお気に入りの人間で、好きだからこそ苛めてやりたいという困った癖が彼にはある。
もっとも彼にとっては『好きだから苛めてやりたい』と、『気に食わないから苛めてやりたい』の二つが存在し、どちらにしろ周りの人間にとって彼の嫌がらせは迷惑極まりないものでしかないのだが。
ともかくとして、そんな半兵衛の性質を正しく理解している官兵衛だったが、当然の如くそれに理解など示すはずもなく、また半兵衛の暇つぶしに口から飛び出す戯言にも聞く耳を持たなかった。
「知らぬ。卿に抱かれろと命じた覚えはないが?」
と、さらりと答えて、視線を書面に落とす。
半兵衛はうわ〜、と白々しい動作で顔を覆って見せると、けたけたと笑いながら、この外道、と官兵衛を罵った。
「そんなの理由になるわけないじゃん。がこう動く事くらいお見通しだったくせに。いやいや、さすが名軍師は違うねぇ!」
たっぷりと嫌味を込めて告げると、官兵衛がわずかに眉根を寄せた。
よく知る者だけ感じる事ができる、官兵衛の感情の機微。それを目ざとく半兵衛は見つけ、ふふふっと笑みを零す。
「きっと官兵衛様のために〜、とか思って震える身体を俺に差し出したわけだよ。そのくらいで俺のこと、陥落なんて出来ないのにねぇ」
ねえ、と半兵衛は官兵衛の耳元に唇を寄せた。
「官兵衛殿、殺されちゃうかもしれないよ?」
甘く柔らかな声で、囁く。
「子飼いの三馬鹿が知ったらどうなるかなぁ。それとも、秀吉様に注進しようか? お宅のお嬢さん、官兵衛殿に売春まがいのことさせられてますよ、って。おねね様なんて、発狂しちゃうかもしれないね」
ねえ、どうしようか――――?
無邪気な顔で微笑みながら、悪魔の声で囁く。
官兵衛はひどく緩慢な動きで、ゆっくりと半兵衛の笑む顔を見据えた。
そして、ぴくりとわずかに眉根をひそめたかと思うと――――
「下衆が」
官兵衛の白い手が半兵衛の喉を握り潰さんばかりの勢いで、喉元に絡みついた。
柔らかな皮膚に爪を埋め込むようにぎりぎりと、そのまま砕いてしまいそうなほどに、力を込めて。
だが、半兵衛は笑っていた。
呼吸も出来ず、声すらも出せないまま、月のように目を細め、
嗚呼、だから好きな子って苛めたくなる――――
にんまりと唇を歪めて嗤ったのだった。
end
とりあえず半兵衛が外道でごめんなさい。