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!CAUTION!
この物語は「時限廻廊」のスピンオフ作品です。
ネタバレとまではいきませんが、「時限廻廊」を読んでいないと意味不明な箇所があるかもしれません。
未読の方は、先に「時限廻廊」を読まれる事をお勧めします。







































過現回廊03





 その世界は清正の体験した前の世界から、およそ二年後の世界だった。
 竹中半兵衛はすでにこの世を去り、軍師の座には黒田官兵衛が、そして秀吉は信長の命により中国攻略を任されていた。
 秀吉領の警護を任されていた清正たちだったが、秀吉の命により中国へ呼ばれたのがその年の初夏――――その軍勢にはの姿もあった。
 はこの世界では軍師ではない。
 官兵衛に師事しなかったは、ねねのくのいち隊に加わり斥候として働いている。此度の戦でも戦闘には参加せず、伝令として働く事になるだろうと本人は語った。
 軍師として前線に立ち兵を率いていた頃よりも、直接的な危険は少ないはずだ。
 加えて、この世界のは千里眼の事を隠している。少なくとも千里眼の酷使で死ぬという未来は防げたはずである。
 だが――――その死を防いだとしても、また別の死がを襲う可能性はある。油断ならない。
 そもそも、なぜ自分は二年も先の未来に飛んだのか。それが分からなかった。
 今までも数日の誤差で、主観よりも先の日付へ飛ぶ事はあった。だが、これほど大きな跳躍は初めてだ。
 半兵衛の死後から二年間――――本来であればそれ以前に死ぬはずだったが命を保っているのだから、の寿命が延びたと言う事だ。
 いい方に向かっていると思っていいのか……?
 清正は思案する。
 その時、ふと本陣の片隅でそわそわと辺りを気にしているねねの姿に、清正は気づいた。
 声をかけると、ねねは不安げに眉を垂れて清正を見た。
「ね、のこと見かけた?」
「いえ」
「どうしたんだろう。とっくに戻ってる頃なのに……」
 探しに行こうかしら、でも……とねねは呟きながら、組んだ両手を震わせている。
「おねね様、は……」
「遣いにね、出したの。ちょっと前に。毛利はもう落ちるから、一足早く信長様に知らせてくれってあの人が言うから。ここから京まででも、の足なら数日で戻るはずなのに……ねえ、本当にを見なかった?」
 同じ事を繰り返し尋ねるねねの不安げな姿に、清正は不吉な予感を覚えた。
 だが、すぐにそれを押し戻す。
 いや、まだだ。まだ確定したわけではない。おねね様は心配性なのだ。どうせどこかで道草を食っているだけだ。すぐに何気ない顔で戻って来るに違いない。きっと、そうに決まっている。
 だが――――まるで頃合を見計らったように、具足を泥だらけにした兵が陣幕を押し退けて、本陣の中に転がり込んで来た。
 羽柴軍の兵ではない。
 紫を基調としたその織田勢の兵は、秀吉の前に方膝を付き、
「明智光秀様、ご謀反! 信長公、討ち死にされました!」
 と、高らかな声で告げたのである。





 結局、後に本能寺の変と呼ばれるその一連の出来事から、秀吉は毛利と和睦、官兵衛の策で中国大返しを成功させ、光秀を討った。そして、信長の有力な後継者としてその名を馳せたが――――は戻らなかった。
 生死の確認は出来ない。
 だが、おそらく――――死んでいる。
 もし存命なら、何の便りもなく戻らないはずがない。秀吉が一軍団に相当するだけの人員を、ねねが全くのいち部隊を捜索にあたらせたにもかかわらず、見つからなかったのだ。
 また世界がを殺したのだ。せっかく生き延びたを、死を回避したはずの彼女を、また別の方法で殺した。
 清正は意を決し、と信長の因果を切った。
 だが、の未来は変わらなかった。秀吉と信長の因果がある以上、二人の主従関係は変わらない。次の世界でもは別の理由で本能寺へ向かい、戦に巻き込まれてしまった。
 ならば光秀かと、清正はと光秀の因果を切ったが、それでも結果は同じだった。
 さらに次の世界で、清正は徹底的にの本能寺への遣いを阻止した。努力の甲斐ありは本能寺へ向かわなかったが、その代わりに別の伝令に向かった先で流れ弾にあたり、あっけなくこの世を去ってしまった。
 本陣に運ばれたの冷たい身体を前に、清正は確信する。
 の躯を抱きしめて泣きじゃくるねねの背中を見つめ、唇を強く噛み締めた。
 を殺しているのは、信長や光秀、本能寺で起こるあの戦火などではない。
 を殺しているのは――――この世界に存在するとねねの因果の糸だ。



end


官兵衛との因果を切る事で二年の寿命を得たヒロインでしたが、
次はねねとの因果が別の死を呼んでしまいました。
それに気づいてしまった清正は……次回に続きます。