舞宵 06
時はしばらく遡る。
半兵衛が秘め事を明かすように、はにかみながら官兵衛にへの恋心を語っていた頃、本陣からおよそ半径五里の圏内を見張るの元に、五人の兵が訪れていた。
「少し話をさせてもらえませんかね」
そのうちの一人がげひた笑みを浮かべて、の前に立った。
「……わたくしに何の御用でしょう?」
男達の訪いを千里眼を通して予め知っていたは、驚いた表情を見せることもなく、淡々と用件を尋ねた。
「いえね。ここじゃあ、なんですから」
男がの手首を掴んだ。は一瞬眉根をひそめ抵抗を試みたが、それより早く別の男の手にした刀がの鼻先に突きつけられていた。
「その綺麗なお顔に傷なんかつけたかぁないでしょう。へへっ、素直にしてくれりゃあ、悪い事はしませんぜ」
「そうそう、むしろ善くって善がっちまうかもしれねぇなぁ」
ひひひ、と薄笑いを浮かべ、刀を突きつけられたままは、林の中へと連れ去られた。
ちょうど本陣の裏手の小川の先あたりで、それ以上我慢がいかなくなったのか、男達はを地面に組み伏せた。一人がの身体に馬なりになり、二人が片方ずつ手首を地に縫いつけ、一人が見張り、そして最後の一人がの頭上に刀を構えていた。
女一人を襲うのにずいぶんな念の入れようだ。もっとも、それだけの能力を買っているという事なのかもしれない。これまでが荒くれ者ばかりの武士の中でその純潔を守ってこれたのは、やはりその武力に頼る所が大きい。
だからこそ此度の主犯は、四人の仲間を誘い、五人がかりでを襲った。四肢の自由が奪われてしまえば、抵抗も出来まい。
恐怖で声さえ出ないのか、の顔は凍りついていた。いささか面白みに欠けるが、その澄ました顔をこれからぐちゃぐちゃに泣かせ、蹂躙してやるとのだと思うと、逆に熱が篭った。
「あの冷徹無比な官兵衛殿が離しぁしないんだ。さぞや具合がいいんだろうよ」
首筋を舌で舐め上げると、の身体がぶるりと震えた。男の愛撫から逃れるように身をよじるが、両側で腕を掴んだ男がそれを赦さない。
乱暴な仕草で着物の襟元をくつろげると、白い双丘が覗いた。片腕でそれを揉みしだき、もう一方の手は隠された秘裂を探すように着物の裾に潜り込んだ。
滑らかな足を遡り、布越しに女の中心に触れると、そこはくちゅりといやらしい音をさせて濡れそぼっていた。
その湿りけに男がげひた笑い声を上げる。羞恥を煽るように足を抱え上げ覗き込むと、紅い鮮血が溢れていた。
破瓜の血か――――?
咄嗟に思いついた女と血の接点などそのくらいしかなかった。だが、量がおかしい。それにまだ貫いてすらいない。
では月のものか、と一瞬考えたが、やはりこのように噴出すのはおかしい。
男が呆けた顔で血の源流を探すと、鮮血は娘の身体から流れているものではなかった。それは自分の手首から――――ぱっくりと横に切られた傷口から勢いよく噴出していたのである。
「う、うわあ、あああ、あああああ!」
男が腕を引いて身体を起こすと、それを待ち構えていたようにの足が横に凪いで男の即頭部を強打した。
「て、てめぇっ! 何時の間に!?」
刀を持った男がの喉元を狙って、刃を振り落とす。だが、は血に濡れた短刀でそれをはじくと、腰を頭上に伸ばし、肩を地につけたまま男の顎を蹴り上げた。
そのまま一回転し、起き様に男の脛を飛刀で切り裂いた。絶叫を上げながら地面を転がる男を尻目に、見張りの男に向って短刀を構えた。
腕を押さえていた奴は何をしていた――――!?
見張りの男はじりじりと後退しながら、の背後に崩れる二人の男を見やった。姿勢は腕を押さえつけていた時と変わらない。だが、角度を変えて見やると、顔面からぽたぽたと血を垂らし、白目を向いている事に気付いた。
やられていた――――この女は、自由を奪われた振りをしていただけだ――――!
は具足の踵を鳴らし、ゆっくりと男に近づいた。
「す、すまねぇ。ほんの出来心なんだ。頼む。俺も国に帰りゃあ、家族がいるんだ。娘だっている。あいつらを食わせてやんなきゃなんねぇ……頼む」
実際には男には家族も娘もいなかったが、この場を逃げられる嘘ならば何でもついてやるつもりだった。
頼む、頼む、と地面に額をこすりつけて土下座をすると、が小さく、
「わかりました」
と呟いた。
血まみれの短刀が、ゆっくりと下ろされる。
男は顔に明かりを灯し、土で汚れた顔を上げたが、次の瞬間、その胸にの放った飛刀が突き刺さった。
「な、なんで……」
まるで鬼でも見るような顔で、男は突っ伏したままに視線を送る。
の表情は変わらなかった。
襲われた時から、否――――声をかけた時から変わらない、ひいなの顔で、ただ爛々と輝く碧の双眸が冷たい光を放って男を見下ろしていた。
「貴方の家族は私が一生かけて養います。だから安心してお逝きなさい」
瞬きすらしない、翡翠の瞳がじっと男を見つめている。
男は地に伏したまま思った。
これは……人間じゃあない。ひいななんかでもない。
この女は――――鬼だ。
end
キラー・マシーンヒロインの本領発揮です。