常世の瞳 19
が連れ去られてから一日が経ち、秀吉の屋敷にて。
半兵衛は縁側で足をぶらぶらさせながら、庭先の桜を見つめていた。ちらちらと舞う桜の花びらを見ながら、が開花を心待ちにしていた事を思い出す。
花が散る前に戻ってくる事ができるのか――――それを考えると心が痛んだ。
あの後、の行方をならず者の残党に吐かせたが、寺に残った男達は皆末端に過ぎないのか、詳しい場所を特定する事はできなかった。
そもそも人攫いと人売りは別の組織の人間らしい。
あの寺で娘達の代わりに金子を受け取り、身柄を人売りに渡す。その先の事は情報が漏れる事を案じてか、詳しくは伝えられていなかったのだ。
ただ、堺の街のどこかの遊郭に売られていくのだと、娘達の末路を知り、それが尚更半兵衛の不安を煽った。
堺の遊郭と言うだけでは、店子は五万とある。今はねねのくのいち集団が、しらみつぶしに遊郭を調べていたが、いつの元に辿り着けるかは天運任せだった。
「元気がないね」
頭上より声が振ってきたかと思うと、孫市が半兵衛の隣に腰を落とした。あの一件の後、半兵衛が身元を明かしたところ、秀吉とはダチだと言うので共に屋敷に戻ってきたのである。
半兵衛は孫市を一瞥すると、深くため息をついた。
「元気なんて出せるはずないじゃん。こうしている間にも、が危険な目にあっているかもしれないのに」
売られた娘達がどうなるか――――考えないようにと努めていたが、どうしても想像が脳を満たして、その度に嫌な気分になる。
遊女姿のが、見知らぬ男に組み敷かれる姿を想像して、吐き気がこみ上げた。
孫市はそんな半兵衛をじっと見つめると、
「……やっぱ男なのかぁ」
と、嘆息を漏らした。
身元を明かした際に半兵衛は自分の正体も明かしたのだが、半兵衛が男だった事に孫市は思いのほか衝撃を受けたようである。
「いや、ちょっとは違和感はあったんだぜ? ちゃんの方が可愛く見えたしさぁ。だけど、男って……ないだろ。普通に笑えねぇ」
と、ぶつぶつ呟きながら半兵衛の顔を見やる。そして、半兵衛の女顔と男物の着物を見て、やはりため息をつくのだった。
自分の顔に劣等感を抱いている半兵衛にとっては、不愉快極まりないものだったが、わざわざ相手にする気にもなれず言うに任せていた。
「ま、女性なら慰めの言葉でもかけるところだが、男だったら話は別だな。こんな所でくよくよしてちゃ、犠牲になったちゃんが浮かばれないんじゃないか」
「犠牲って……!」
「俺だって信じたくはないさ。だが、その可能性は十分あるって分かってるんだろう?」
「……」
「だったら……俺達にできる事は一つだ」
孫市は立ち上がると、銃を肩にかけて半兵衛に背を向けた。
「どこへ?」
声をかけた半兵衛を振り返り、にっと笑む。
「俺はこれでも堺の街じゃ色男で名が通っている。少しは顔も利くつもりだが……付いて来るかい?」
半兵衛は立ち上がると、挑むような顔で孫市を見返した。
「当然」
そのいらえに孫市は満足そうに笑むと、
「やれやれ。男と二人旅だなんて、ぞっとしないな」
と、軽口を付いて見せた。
end
孫市は半兵衛が男と知って、かなりショックを受けたと思う。
「俺が男を可憐な少女と見間違える……? 普通にないだろ」とか。