襖を開いた半兵衛は、あまりの凄惨な光景にうっと口元を押さえつけた。
常世の瞳 13
むせかえるような白粉の匂いに、呼吸が苦しくなりすぐさま退出した。ぱたん、と襖を閉めて過呼吸を繰り返していると、襖の中からひょこりとねねが顔を覗かせた。
「あら、半兵衛。どうしたの?」
と、何事もないような顔で尋ねてくる。
「え、っと……おねね様に、その……化粧とか着物とか用意してもらおうと思ったんだけど……って、何してるの?」
何が? とねねはきょとんとして小首をかしげる。
半兵衛はだぁかぁらぁ、と頭を掻き毟ると、襖を盛大に開き、中に鎮座している物体をびしりと指差した。
「あれだってば! そこに座ってるゲテモノたち!」
叫ぶと、一斉にそのゲテモノがぎろりとこちらを向いた。
顔に白粉をぬりたくった子飼いの将たちが、それぞれ白目を向きそうな顔で鎮座している。しかも丁寧に髪を結い上げ、色とりどりの花柄の小袖を身に纏っているのだ。間違っても、それは筋肉隆々な男たちが袖を通していいものではない。
「だって、官兵衛ったらを独りで行かせるなんて言うんだよぉ。あたし心配で、心配で。せめてこの子たちに護衛について行ってもらおうと思ったんだけど……」
と、泣くような素振りを見せる。
思ったんだけど……外に出せる代物じゃなかった、というところか。
三人の献身的な協力は賛辞に値するが、これを攫うような無頼漢がいると言うならば、ぜひともお目にかかりたいものだ。
百歩譲って三成はまだ許容範囲内としよう。若干肩幅が広すぎるが、顔立ちは整っているし中では一番華奢なほうだ。
清正……、も単純に容姿を言うならば悪くはない。が、それは精悍な青年の姿であって、間違っても女装で発揮される類のものではない。小袖の上からも分かる盛り上がった二の腕が、見るものを不憫な気持ちにさせた。
そして正則……。これはもうどうしようもない。真一文字に締められた唇に、真っ赤な紅を引いているのが、さらに妖怪じみている。
ねねの命とは言え、あまりにも不憫すぎる。一体、心の中で何度、忍ぶという字を書き続けたのだろう。
と言うより、官兵衛は半兵衛の説得が失敗した時の防御策として、ねねにも単独の話をしていたのだ。さすが名軍師といいたいところだが、それにより心を砕かれた者たちのことを、少しはあの無表情軍師は推して知るべきだと思う。
と、その時、廊下の向こうからぺたぺたと足を鳴らして、がやって来た。
「おねね様ー、胸に入れるお饅頭買って来ましたよー」
まだ湯気の立つ饅頭を紙袋いっぱいに抱えて満面の笑み。えへへ、と子供のように笑うと、
「実はちょっとおまけしてもらったんですよー。後でお茶淹れてみんなで食べましょうね」
と、ひどく平和ボケした事を言っている。
三人の姿を見たらどんな反応を示すだろう。病弱なは、もしかしたらそのまま卒倒して、心臓発作を起こしてしまうかもしれない。
「ね、。今度の任について、あっちで話そうか!」
半兵衛はの両肩を掴んで、ぐるりと身体を反転させた。
「あ、でも、お饅頭が」
「いいから、いいから!」
半ば力任せに背中を押すと、その表紙に紙袋から饅頭がぽろりと零れ落ちた。
あっ、と声を上げるより早く、が身体を翻しそれを手にすると、顔を上げたそこには変わり果てた三人の姿が――――
の手の平から紙袋がするりと落下した。鞠のように饅頭が跳ね、ころころと床の上を転がる。
遅かった――――
はこれ以上ないくらい大きく目を見開いたまま、呆然と立ち尽くし、わずかに開いた唇からア――――と声を発した。
そして、
「きゃぁ、かわいいっ!」
ぱんと両手を重ね鳴らし、三人の下へ駆け寄った。
「は……?」
「わぁっ、三成小袖似合うねぇ。清正もその髪飾り可愛いよ。正則、綺麗にお化粧してもらったね!」
可愛い、可愛い、とまるで猫か犬の子を愛撫するように、ぐりぐりと頭を撫でる。
もし、冗談で言っているとしたら、これ以上タチが悪いものはない。
が、は本気だ。あの透き通った目は本気で三人を可愛いと信じている。
「おねね様……、の目ってちょっとおかしい?」
「さあねぇ……」
半兵衛とねねは、三人を憐れに思いながら、遠目にその光景を見つめた。
end
ヒロインは実は乱視(嘘)
ついに子飼い達まで女装させてしまいました。