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常世の瞳 12





 戦もひとまずの収束を得、ひとときの平和が訪れた。そんなある日の事である。
「はあ?」
 官兵衛の言葉に、半兵衛は明らかに不満げな顔を見せた。
「なんて言ったの、官兵衛殿?」
 と、顔をひきつらせて、問う。
「昨今、領内で人攫いを働く輩がいる。その者たちを捕らえ根城を――――
「違う。その後」
 ふと官兵衛は口を止め、
「女装か?」
 と、繰り返した。
「そう、それ。なに? 女装? なに、俺に女装しろって言ったの?」
 顔をひきつらせて、ずいと詰め寄る半兵衛。相手が官兵衛でなければ、掴みかかるくらいの事はしていたかもしれない。
「何か不満か?」
 無表情のまま官兵衛が問うと、当たり前じゃん! と間髪いれず、半兵衛が声を張り上げた。
「言っておくけど、俺男だし、官兵衛殿より年上だからね!? 誰が好き好んで女装なんか……」
「だが、件の輩は女子供しか攫わぬ。根城を突き止めるためには、囮が必要だと思うが?」
「そりゃ、そうだけどさ」
 だからって俺に女装しろはないでしょう、と半兵衛は呆れた。一見筋が通っているようで、官兵衛は大事な所の算段をお座なりにする。人の気持ちとか沽券とか、そういったものだ。
 官兵衛はふむと腕を組むと、
「では、仕方あるまい」
 と呟き、席を立った。
 官兵衛の引き際の良さを意外に思いつつ、その程度の用件なら初めから俺に頼むなと、胸中で毒づく。
 そんな馬鹿げた仮装は、子飼いの三馬鹿にでもやらせればいい。がたいのいい青年ばかりだがら、さぞかし女装はおぞましいものになるだろう。
 そんな想像を膨らませ、独りくつくつと笑っていると、白羽の矢は思わぬ所に立った。
「では、に単身で向かわせるとしよう」
 はた、と笑いを止め、半兵衛は真顔に戻る。
「さすがにあれ一人では頼りにならぬと思ったが……卿がそこまで言うならば仕方あるまい。には半兵衛が死んでも嫌だと言っていたと伝えておこう」
「ちょっ! 俺、そこまで言ってないから!」
「では、同行してもらえるのだな?」
 官兵衛の無表情な顔がぐいっと半兵衛に寄る。
 半兵衛は悔しげに言葉を詰まらせた。
 女装は嫌だ。誰かをからかう為に自分で化けるならまだしも、正体がばれた状態で女の姿になるという事は、それを知っている者たちに指をさされて笑われるという事だ。たとえ務めとはいえ、人に馬鹿にされるなど半兵衛の矜持が許さない。
 が、を単独でならず者の根城に潜り込ませるのは激しく不安だ。そもそもあの虚弱な身体で戦えるのだろうか。正体がばれて、攫われた娘たちと一緒に女郎屋にでも売り飛ばされたらどうする。
 半兵衛はぐっと奥歯をかみ締めて、観念するように足を投げ出した。
「あー、もう! わかったよ! 行けばいいんでしょ、行けば! でも、その間の仕事は官兵衛殿がやってよね!?」
「よかろう」
「ったく、官兵衛殿は人が悪いよ」
 ぶつぶつと呟くと、わずかに官兵衛が笑ったような気がした。気のせいかも知れないが……
 



end


第二部、開始!
二部はオリジナル路線で進めていこうと思います
そして、また女装ネタ……