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 女の人形の夢を見た。
 等身大のそれは、とても精巧に作られており、まるで呼吸をしているようだった。
 だが、瞳は胡乱で、手足はだらりと伸びている。
 身体のいたるところに糸が繋がり、虚空に浮いた白い両手がその身体を操っている。
 腕に操られるままに、人形はカタカタと動き出す。剣を振り、馬に乗り、走る。
 まるで生きているようだが、しかしそれは人形だ。
 呼吸を繰り返しているように見える胸も、肺に代わるからくりが仕掛けられているだけかもしれない。きらきらと輝く両の瞳も、硝子玉をはめ込んだだけかもしれない。
 だというのに、地に伏せた女の人形は、こちらを恨めしげな悲しげな顔で見つめている。
 助けを求めているのか、ゆっくりと軋む身体を持ち上げようとする。
 だが、上半身が半分起き上がった頃に、それは阻止される。
 白い腕がいつの間にか手にした刀で、すとん、と。
 首を落とされ、人形は事切れる。
 地面に落ちた首がころころと転がって、恨めしげな瞳だけがこちらを見ている。
 薄く開いた唇はいまにも恨み言を言いそうだ。
 なぜ、殺すのです、なぜ、助けてくださらないのです、と。
 そしてやがてゆっくりと瞳が閉ざされ、人形はただの人形に戻るのだった。
 美しい女の首が、ひとつ。コトリと転がって。





常世の瞳 07





「半兵衛、起きよ」
 名を呼ばれ、半兵衛はうっすらと瞳を明けた。
 ひどく顔色の悪い長身の男が、半兵衛を見下ろしている。黒田官兵衛だ。
「なぁ〜んで、官兵衛殿はいっつも昼寝の邪魔をするかなぁ」
 半兵衛はごろりと寝返りをうって、官兵衛に背を向けた。背後からため息が聞こえる。
「卿が寝てばかりいるからだろう。話がある。起きよ」
 再度催促されて、半兵衛は渋々と起き上がった。なに? と官兵衛のほうを見ると、外に出ろと促された。
「ねえ、官兵衛殿ー。どこまで行くつもり?」
 てっきり庭先で話を始めるのかと思えばそうではなく、官兵衛は半兵衛を伴って、城から離れた高台の上までやって来た。
 城下を一望できるこの場所は、軍略を練るには格好の場所。もしこの城に攻め入る者がいるならば、ここに陣を引けば、相手の出方を余すことなく知ることができる。そして、同時に間者の心配をする必要がない。このだだっ広い場所であれば、何人たりとも姿を消して近づくことはできない。密なる話をするには、うってつけの場所だった。
「昨日、間者を捕まえたそうだな」
 唐突に官兵衛が口を開いた。城下での一件は、すでに官兵衛の耳にも入っていた。
 もっとも、帰るなり早々、ねねが大騒ぎしたものだから、耳に入らない事の方がおかしいかもしれない。
「卿がを助けたのだそうだな。感謝する」
 無表情のまま頭を下げられ、半兵衛はきょとんと目を瞬かせた。
「なんだ……。てっきり俺、怒られるのかと思ったんだけど」
「怒る?」
が蹴られるまで、隠れてたし。の怪我、俺のせいでもあるかなって」
 ねねの大騒ぎの原因であるの怪我は、思いのほか深刻だった。医師の見立てによれば、肋骨にひびが入っていたらしい。
 間者を見つけたところまでは良かったが、結局は半兵衛に助けられしかも怪我をしたとあっては、とても自慢できる手柄ではない。はねねのお説教を、苦虫を噛み潰したような顔で聞くはめになった。
「卿を責めるべきことではない。此度の負傷はあれ自身の責だ」
 おそらく、ねねに続き、官兵衛のお説教がを襲ったのだろう。淡々と咎められるのでは、さすがのも身にこたえたに違いない。
「それで? 官兵衛殿の話ってなに?」
 大方の予想はついていたが、あえて知らぬ顔で尋ねることにした。
 官兵衛はそれを見透かすように、じっと半兵衛を見据え、
「卿のことだ。あれが何者なのか、見当はついているのであろう?」
「まあね」
「では、私が言わんとしている事もわかるはずだ。あれの存在は、世を脅かす火種に、」
「ね、官兵衛殿、回りくどい話はやめない? 俺、このまま有耶無耶にするつもりなんて無いから」
 官兵衛の思惑を悟り、先手必勝とばかりに釘を刺した。知ってしまった以上、それをなかったことにできるはずなどない。しかも、今のように中途半端に知っている状態で。
 官兵衛は観念したようにため息をついたが、半兵衛がそう答える事を予測していたようだった。相変わらずの無表情な顔のまま、
「長い話になる」
 と、続けた。



end

短くてすみません。
次回から官兵衛殿のお話タイムです。