かわいい人
その美しい相貌に心奪われたと言ったなら、この人は怒るのだろうか。
頬杖をついて書を眺めるその横顔を見つめながら、そんな事を思った。
大きな瞳を伏せ目がちにして、視線を動かすたびに長い睫毛が震えるように揺れる。
子供のように柔らかな頬も、女人のように柔和なかんばせも好きなのだけれど、彼にとってはそれは劣等感でしかないらしいので今まで口にした事はなかった。
柔らかな髪も、少年のように透き通った声も、猫のようにしなやかな四肢も、大きすぎないその背中も。年不相応のその容姿をもっと愛でたいのだけれど、怒られると思って今まで黙ってきた事。
「なに?」
の視線に気が付いたのか、半兵衛は頬杖をついたまま顔をこちらに向けた。
「怒りませんか?」
突然の問いに一瞬不思議そうな顔をして、それから複雑な表情に変わる。愛しい恋人のする事なら大抵の事は許せるだろうし、可愛いと思う。
が、それも物と事次第だ。
「あー、モノによるけど……まあいいや、言ってみて?」
怒りませんか、と前置きをしたと言う事は、多少は気分を害する危険性のある発言なのだろうが、が何を考えているのか知りたいという好奇心が勝って、半兵衛は続きを促した。
了承を得ては嬉しそうに微笑むと、半兵衛の顔を覗き込むように顔を寄せて、
「半兵衛様って可愛いですよね」
半兵衛はぴしりと身体を固まらせた。
特にこの柔らかいほっぺたが、と言ってがぷにぷにと指先でつつく間も、半兵衛は苦悶の皺を眉間に刻み、落ち着け落ち着け俺と自分に言い聞かせていた。
はあずかり知らぬ事だが、「可愛い」「綺麗」「子供っぽい」は半兵衛にとって三大禁句である。かつて知らずにその言葉を口にしたものが、何人も砂にされた事をは知らない。
もしこれが、子飼いの三馬鹿や九州の性悪風神であったのなら、迷わず羅針盤を叩き込むところだが、相手はあのである。手を上げるわけにはいかないし、悪気があるわけではないので文句を言うのも憚られる。
とはいえ、一番言われたくない相手であるのは確かなので、このままというのも納得がいかない。
半兵衛が珍しくうんうんと唸りながら煩悶していると、おもむろにがちゅ、と唇を頬に寄せた。
突然の行動に半兵衛が頭を抱えていた手を離し呆然と見やると、は悪戯をした子供のような顔でえへへ、とはにかんだ。
「可愛いかったから、思わず魔が差しちゃいました」
そして、もう一度顔を寄せて、ちゅ、と啄ばむような口付け。
ただ触れるだけの口付けだったにもかかわらず、触れられた場所がじんじんと疼いて熱を持ち――――半兵衛は年甲斐もなく顔を赤面させた。
時たまこういう事を躊躇いもなくやってのけるから……この子は本当にタチが悪い。
だが、だからこそ同時にこの子の事が可愛くて仕方がないのだ。
「ああ、もう。かなわないな」
半兵衛はくしゃりと笑うと、おもむろにの手を取って自分の方へと引き寄せた。
半兵衛様と言いかけた唇を自分のそれで塞いで、さて可愛いと言ったお仕置きはどうしてやろうなどと考えながら、温かい何かが胸のあたりを満たしていくのを半兵衛は感じていた。
end
ほっぺたにチューってなんか可愛いですよね。