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 ここで信じられるのは唯一つの真実。
 自分だけが、自分の味方であるという、それだけが――――真実。




人狼の館 2nd night06





 伏せた身体はぴくりとも動かなかった。
 閉じられた瞳が再び開く事も、一文字に結んだ唇が動く事もない。
 命が零れるように引きさかれた胸から、鮮血が流れ落ち、巨大な染みを床に作っている。正則の流した血、清正の流した血――――そして、元就の流した血が、層を作るように重なって、まるで錦の織物のようだとは思った。
 投げ出された指先に触れる。
 唇に、瞼に、触れて、そこに命がない事を知ると――――は顔を覆って俯いた。
 なぜ、死んでしまうのだろう。なぜ、死んでしまったのだろう。
 知っている。私はその理由を知っている。
 それは、私が――――
 ウソツキだから。
「ふふっ、ふふふふ、あはは、あはははははは」
 は狂ったように甲高い笑い声を上げると、背後に佇む官兵衛と半兵衛の方に向き直った。
 ごめんなさい、と嗤いながら呟く。
「私……ふふっ、占い師なんかじゃないんです。元就公の言った通りですよ。私も三成も偽者。本物の占い師なんて、とっくに死んじゃってるんですよぉ」
 そして、やはり可笑しくて仕方がないと言った顔で、哄笑を続けた。
 そもそも狂人であるには三成が本物か、偽者であるかの判断はつかなかった。三成がより遅く占い師の告白をした事、そして一日目の占い結果がと同じだった事、この二つから人外である疑念はあったが、それは確定材料には足りなかった。
 だが、三日目になって三成は黒判定を出してきた。
 人外にしてはあまりに大胆すぎる行動。それ故に、さえも三成が本物なのではないかと一瞬疑ってしまった。
 確かめるためはひとつの賭けに出た。
 三成の占い結果に、あえて乗って見せたのである。
 狩人を主張する元就への黒判定。おそらく場の全員が、への疑念を募らせた事だろう。
 もしが本物の占い師であれば三成に発言を許す前に公表するだろうし、偽者であれば同じ人間への黒判定など怪しすぎる。三成を援護するようにも見える動きは、公然と疑って下さいと言っているようなものだった。
 だが、にはそれが出来た。
 が狂人だからである。
 疑われて、吊り上げられたとしても、は痛くも痒くもない。の勝利は人狼の勝利、そのためなら自分の命など惜しくはないのだ。
 もし三成が人狼であればこの発言によりを狂人だと見抜き、対立状態を解くようさりげなく指示を送ってくると思ったのだ。
 だが、そういった指示は一切なく、三成はただを敵視するだけだった。
 つまり、人狼ではない。
 これさえ分かれば後はどうでも良かった。本物にしろ妖狐にしろ、三成はにとって邪魔者である。三成へ票を投じ、まんまと処刑する事に成功した。
 そして、今日元就の躯が挙がり、やはり三成が妖狐だったと確信が取れた。もし、三成が本物ならば、元就こそ人狼であり、半兵衛か官兵衛が妖狐に確定するからだ。だが、ここに死体が転がっているのは元就が人間であった何よりの証拠。
 そして、が勝利した、確かなる証拠だった――――
「ふふ、うふふふ、あはっ、あははははは!」
 床に無残に転がった三成の遺体に、は嘲笑を向ける。
「可愛い三成。ふふっ、馬鹿だね。策で私に勝てると思っていたの?」
 けたけたと笑いながら、は三成の白く冷たい顔に指を這わせた。石膏のように白い頬に触れる。血の気の失せた青白い唇に触れる。愛おしそうに、忌々しそうに、嬉しそうに、煩わしそうに、は顔を寄せると三成の唇に己のそれを重ねた。
 嗚呼、死の味がする――――
 そう呟いたは背徳的で、狂人の名にふさわしい姿だった。
「死んじゃっても、化けの皮が剥がれないのね。残念。もし狐にでもなったら――――襟巻きにでもしてやろうと思ったのに」
 そして、再び狂ったように笑い声を上げる。
 もはやに人間を演じる必要などなかった。
 この館には人間、人狼、狂人が一人ずつ。人狼と狂人の票で人間を処刑してしまえば、人狼勢力の勝利なのである。
 勝利を目前にの頭は嬉しさでどうにかなってしまいそうだった。理性などかなぐり捨てて、狂気に溺れてしまいたくなる。否、すでにもう溺れかけている。
 はゆっくりと振り返り、さあ、と声をかけた。
 官兵衛と半兵衛、二人の男がその眼前に立っている。
 どちらかは人間、どちらかは人狼。その正体を見極めねばならない。
 不適な笑みを浮かべるの前で、半兵衛がそっと前に出た。
 の頭にそっと手を載せ、
「よくやったね」
 その一言に、は狂喜した――――


end


ウソツキの告白。
人狼の正体は?