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 ここで信じられるのは唯一つの真実。
 自分だけが、自分の味方であるという、それだけが――――真実。




人狼の館 2nd night05





 半兵衛は思案顔を作り、ゆっくりとと三成の方へと視線を移した。
 元就が人狼ならば、どちらかは狂人か妖狐となる。そして、もし元就が本人が語るように狩人ならば、偽占い師は両方となり、狂人、人狼、妖狐の中の二者となるのだ。
「つまり……、今日は人狼の疑いのある自分ではなく、妖狐を処刑しろという事ですね?」
 は元就への反論を必死に抑えながら、じっと元就の顔を凝視した。その通りだよ、と元就が答える。
「でも、それってこの中に妖狐がいる事が前提だよね? 左近がもし妖狐だったら?」
 半兵衛の問いに元就はかぶりを振って即答する。
「左近は妖狐ではないと思うよ。もし妖狐だったら、占い師が対立した時に、はっきりとどちらかに加担するのは不自然だ。その占い師が偽者扱いされた瞬間、自分も危険に曝してしまうからね」
 確かに昨日、左近はを疑った。はっきりと三成に加担したわけではないが、もし組み分けされる事があれば、左近は三成側と認識されかねない発言だった。
「もし妖狐なら目立つような事はせず、適当に疑われないよう発言するのが良策だ。その理由から私は清正か半兵衛が疑わしいと思っていたけれど――――まあ、それは今はおいて置こうか」
 自分の名を挙げられた事に半兵衛は眉根をひそめたが、半兵衛の反論を遮るように官兵衛が口を開いていた。
「卿の言い分は分かった。もし二人が偽者であると言うならば、当然私の事も疑っているのだろう。その可能性は捨てるべきではない――――が、いささか出来すぎているように思うが?」
「それは仕方がないね。私だってまさか、占い師が初めから死んでいるなんて思いもよらなかったのだから」
 元就は苦笑を漏らした。
 人狼は人間を襲うが、相手が何の役割を与えられていたか知る事は出来ない。つまり、初日の犠牲者が何者であったにしろ、それはまったくの偶然となるのだ。
「ただ、私が本物にしろ偽者にしろ、妖狐を先に殺さなければならないのは真実だよ。そして、妖狐はまだこの中にいる――――それには皆、同意してもらえるんじゃないかな?」
 三成と半兵衛は顔をしかめたまま、は戸惑いの表情を浮かべ、官兵衛は普段の感情の見えない顔で元就を見やった。
 疑われた事への必死の弁明のように思える。
 だが、妖狐を先に始末しなければならないのは事実だ。
 やがて官兵衛はそれに賛同の意を示した。半兵衛が驚きの表情を向ける。
「ちょっ、官兵衛殿?」
「ここで押し問答をしても仕方あるまい。どのみち占い師どもの処遇も決めねばならぬのだ。もっとも疑わしき者へ票を投じよ」
 官兵衛は言い放つと、皆の意見を聞かぬうちに自分の投票を終えてしまった。
 半兵衛は依然として不満そうな顔をしていたが、やがて沈黙を続けていた三成が同意するように頷いた。
「ふん。確かに悩む必要などないな。人狼である元就に、わざわざ追い討ちをかけたのが何よりの証拠。お前が妖狐だ、。」
「その言葉、そのまま返すよ、三成。そもそも一日目の占い結果から、私の結果に被せてきたのが不自然だった。さあ、ここで白黒はっきりさせましょう?」
 そして、お互いに睨みつつ、占い師たちは互いの名を投票しあった。
 それに続いて、元就が半兵衛に票を投じる。
「悪いけれど、やはり妖狐は人間の中に紛れているものだと思うんだよ。官兵衛か半兵衛か迷いはしたけれど、君は私の提案に否定的だったからね」
「当然でしょう。元就公は胡散臭すぎますよ」
「はは、それでも私は妖狐じゃない。さあ、次は君の番だ」
 促され――――半兵衛はぐるりと周りを見やった。
「本当は元就公が妖狐だったりして」
 疑いの視線を半兵衛は向けたが、すぐにその可能性は元就自身に却下される。
「それはないよ。占い師のどちらかが本物であれば私は呪殺されているはずだし、偽者の占い師たちが互いに投票し合うのは不自然だ。私が妖狐なら彼らの内訳は人狼と狂人だからね。演技で反目し合っているように見せかけていたとしても、実際に投票しあうような危険な賭けはしないだろう」
 元就の言葉は一見、説得力があるように思えた。
 確かに危険な賭けではある。だが、定石と思わせてその裏を書くことくらい、軍師である、知将と呼ばれる三成なら出来るのではないか。
 結局は確率だ偶然だと言っても、すべて結果に収束されるのだ。
 半兵衛は再び一同の顔を順に見やり、投票紙の上にもっとも妖狐と疑わしき人物の名を書いた。
 半兵衛が票を投じ、厳かに結果が明かされた。


→三成
半兵衛→三成
官兵衛→三成
三成→
元就→半兵衛


「貴様ら……」
 苦々しく三成が呟いたが、それ以上の言葉は出てこなかった。
 もはや何を口にしても意味はない。
 官兵衛は腰に帯びた短刀をすらりと抜くと、三成に向けて切っ先を掲げた。

 官兵衛の意図に気づき、半兵衛がすぐさまの目を覆い隠す。半兵衛の暖かな指の向こうで、命が事切れる音がした――――
「……では、後は明日を待つばかりだね。もし、明日になっても私を疑っているなら、その時は私を処刑すればいい。もっとも……私が明日まで生きていられたらだけどね」
 元就の意味深な言葉を最後に、三日目の昼は幕を閉じた。
 明日になれば状況はすべてはっきりするだろう。
 残された人々は疲れた身体を横たえ、眠りの淵へと落ちていった。


三日目・昼 終了
<生存者>
(占い師?)、半兵衛、官兵衛(暫定白)、元就(人狼? 狩人?)
<犠牲者>
正則、清正
<処刑者>
左近、三成(占い師? 妖狐?)


end


三日目終了。
妖狐、人狼は一体誰なのか。真の占い師は誰なのか。
次回へ続きます。