自分だけが、自分の味方であるという、それだけが――――真実。
人狼の館 2nd night03
触れずともその身体に命がないと知っていたが、投げ出された指先が哀れで、はその手にそっと自分のそれを重ねた。
冷たい――――
ここに命はない。これはもう物になってしまった。
正則に続き、清正の死。明くる日、躯となって見つかったのは、清正だった。
眠るように穏やかな顔をしているが、下半身は無残に貪られていては涙が止まらなかった。どうして、どうして、と泣きながらそれを繰り返す。
「……」
慰めるように声をかけた半兵衛が、の肩をぎゅっと掴んだ。
温かい。生きている。なのに、もしかしたらこの身体は人間ではないのかもしれないのだ――――
「……信じよう? きっと、この遊戯が終われば、みんな嘘みたいに元通りになるって……」
「はい……」
は小さく応え、頷いた。顔をあげると、三成が腕を組んでを見つめている。
何か言いたげな顔をしていたが、議論以外で言葉を交わしても無意味だと感じたのか、静かに自分の席へと着いた。
「じゃあ、今日の占い結果を頼むよ」
空席になった左近と清正の席を見つめてから、半兵衛が二人の占い師に促した。
三成は小さく頷くと、
「俺は元就を占った。理由は謀将と称えられる男にしては、発言が少なく冴えない印象を受けた。まるでその場に身を任せ、目立たないように装っているようにな。結果は……」
そこで三成は息を飲み、鋭い視線で元就を射抜いた。
三成の形のよい唇から、結果が告げられる。
「黒だ。元就は人狼だった」
三成の告発に場はざわめきを帯びた。だが、元就はいつもの穏やかな表情を崩さぬまま、やれやれ、と肩をすくめる。
残念だったね、と一言。
「三成。やはり私の思った通りだったようだね。しかし、こんなに早く尻尾を出すとは思わなかったよ」
「尻尾? 自分が狼の尾をぶら下げた状態で何を言っている」
「どうかな? ここで皆に告白しよう。私は狩人だよ。狩人である私に黒判定を出した、という事は三成が偽者であるという証明だ」
再びの衝撃。もしここで対抗者が現れれば、元就の疑いは一気に増すが、しばしの沈黙を経ても誰も名乗りを上げなかった。
「じゃあ、元就公が本物の狩人? 本物の占い師は……なの?」
驚きを隠せない半兵衛に、三成は呆れたような顔を向ける。
「人狼の言う事を聞くのか? どうせその場かぎりの言い逃れに決まっている。大方、狩人を騙れば、俺を偽者にし立てあげられると思ったのだろう」
「さて、それはどうだろう」
三成の反論に元就は余裕の笑みを見せる。
「もし私が偽者ならば、どうして本物の狩人は名乗りをあげないんだろう?」
「すでにこの場に居ないからだろう」
「つまり、正則か清正が本物の狩人だったと言いたいのかな?」
「そうなるな。もし左近が狩人ならば、処刑前に宣言したはずだ」
三成の迷いのない反論に、元就はううんと腕を組んで唸り声を上げた。眉間に皺を寄せているが、その表情はやはり余裕に満ちている。
「人狼が偶々狩人を襲い、私がそれを騙った、と。都合が良すぎるようにも思えるけどね」
「結果論にすぎん。六人の人間の中には占い師、狩人、狂人が含まれていた。正則か清正のどちらかが狩人だった確率は、それほど低くないように思うがな。そもそも狩人を名乗る者が他に居れば、そいつを偽者にし立てあげればいいこと。他に候補者が居ないというだけで、貴様が本物である証明にはならない」
余裕の笑みを浮かべる元就と、無表情のまま淡々と反論を繰り返す三成。
平行線しか辿らないであろう議論に元就はやれやれと肩をすくめると、視線をへと移した。
「君はどうだい、?」
と、に意見を求める。
は元就を一瞥した後、三成をじっと見つめた。何か言いたげに唇を開きかけ、それを噤むと、元就へと向き直る。
「三成は偽者です」
疑われた三成を更に追い詰めるように言い放つ。
三成は忌々しそうにを睨みつけたが、は三成を一瞥すらしなかった。
「大人しく認めたらどうかな?」
ぽん、と元就が三成の肩を叩いた。三成が鬱陶しそうにその手を振り払う。
お前たちこそ偽者だ――――
そう三成が言いかけた瞬間、それを遮る様にが二人の間に割って入った。
悲しげな、陰鬱な表情のまま、元就の顔を見やる。
「三成は偽者です」
再び告げる。
だが――――
満足そうに頷いた元就を睨みつけ、が口にしたのは、
「ですが、あなたも偽者です。貴方が……人狼です」
元就の顔から余裕げな笑みが消えた。
end
元就へ黒判定を出した二人の占い師。
自分は狩人だと主張する元就。
さあ、嘘つきはだれ?