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 ここで信じられるのは唯一つの真実。
 自分だけが、自分の味方であるという、それだけが――――真実。




人狼の館 2nd night02





 の提案に、三成は驚きの表情を向けた。馬鹿が、と小さく忌々しそうに吐き捨てる。
「猿知恵だな。自己犠牲で信頼を得ようという魂胆がみえみえだ」
 だが、も負けていない。きっと鋭い瞳を三成に向けると、真っ向から反論する。
「なぜ? 私たちのどちらかは偽者なのだから、たった一人の犠牲で皆が安全になるなら決して悪い策じゃないはず。あなたが本物なら、自分の命くらい皆のために捨てられるはずでしょう?」
「ふん。自分を犠牲に出来ないなら、お前が偽者だと言いたいのか? ならば言わせてもらおう。本物の占い師であるならば、それこそ簡単に自分の命など捨てないはずだ。人間の勝利は占い師の双肩にかかっている。それを容易く捨てようとする事こそ、貴様が本物ではない証拠に見えるがな」
 反論に反論で返した三成を横目に、左近が一理ありますね、と呟きつつ二人の間に入った。
「ただの人間ならいざ知らず、占い師は重要な役割です。それを容易く捨ててしまおうというのは、ちょいと無責任じゃないですかねぇ」
 三成を援護する形で会話に入った左近を、は疑うような目で見つめる。
 ただの主張なのか、それとも三成を擁護しようとする、あちら側の存在なのか見極めようとしているのだ。
「つまり……私の事を疑っているの?」
 直球なの質問に左近は苦笑を浮かべたが、恐縮しながらもええ、とはっきりと答えた。
「正直、俺にはどっちが本物かは分かりません。ただ、今の会話の流れだけを見ていると、どうにも不自然に思えて来るんですよ。偽者は狂人、人狼、妖狐のいずれか……。この中で自分の命を簡単に捨て駒に出来るのは、狂人だけだろうなぁって」
 瞬間、一同の視線がに集まった。その視線ははっきりした敵視よりも動揺の方が多かったが、今の一言でに疑心が集ったのは確かだろう。
 そして、への疑いをぶつけた事により、同時に三成へも疑いの目が向いたのも事実だった。
「なるほど。確かにが狂人、という可能性もあるね」
 と、殺伐とした状況に似合わず、穏やかな声音で会話に加わったのは元就である。
「だが、考えてみて欲しい。もし三成が偽者なら、それこそ必死に処刑される事を拒むんじゃないかな? 確かに自分の命を軽々しく扱うのは不自然だが、逆に保身に走りすぎるのも私はどうかと思うよ。目指すべきはあくまで人間の勝利なんだ。その大目標の前では、必要な犠牲のように思えるよ」
 柔和な笑みを浮かべつつ、元就の視線は三成の表情を伺うように真っ直ぐに向けられている。その視線は口以上にはっきりと、三成が怪しいと言っているようだった。
 丁度二対二でにらみ合う形になったその中に、清正と半兵衛も続いた。
「確かにな。必ずどちらかは偽者と分かっているなら、他の人間を疑う前に両方とも処断するのが、俺はいいように思う」
「でもさぁ、俺たちにそんな余裕あるのかなぁ? 七人の中に狼と狐が一人ずつ。明日の朝には五人、明後日には三人に減ると考えるなら……占い師や狂人を吊り上げてる余裕なんて俺たちにはない」
 じゃあどうする、この中の誰を吊るし上げる――――
 一同が騒然となったその時、今まで沈黙を守っていた官兵衛が口を開いた。
「占い師の処断は早計であろう」
 この場においてもっとも人間に近い立場である官兵衛の発言は、言葉以上の重さをもって響いた。
「ですが、このまま偽者を放っておくのですか? こんな事を言って私が疑われてしまうのは、理解しています。でも、」
 の言葉を遮るように、官兵衛は重々しい口調でそれを否定した。
「まだ早いと言っている。占い師の中に一匹、もう一匹我々の中に人外が紛れているのなら、占い師を片付けるだけでは不十分だ」
「なるほどね。つまり、今は泳がせておくってことかな?」
 元就の質問に、官兵衛は大仰に頷いて見せた。
 そして、
「今日は占い師ではなく、人間の中から処刑者を選ぶべきであろう」
 そのやり取りを聞き、半兵衛もさんせーいと声を上げた。
 占い師であると三成、そして官兵衛を除外すると、その対象は半兵衛、清正、左近、元就の四人となる。
 占い師への疑念を捨てたわけではないが、官兵衛がそう言うならばと左近と清正もそれに同意した。
 そして――――

→左近
半兵衛→左近
官兵衛→左近
三成→元就
清正→半兵衛
元就→左近
左近→元就

 公開された結果を目にしても、左近の顔は平然としていた。
「参りましたね」
 と、頭をぽりぽりと掻いて、いつもの皮肉っぽい顔で一同を見やる。
「これが皆さんの結果だって言うんなら、俺は甘んじて死を受け入れますよ。なに、皆さんの手は煩わせません」
 すらりと懐の短刀を抜くと、それを己の喉に当てる。が青ざめた表情でそれを見ているのに気づき、左近は照れたような笑みを浮かべた。
「あんたが何者だろうと、ご婦人に見せるには刺激が強いんでね。悪いがむこうを向いてくれませんかね?」
 言われるままには背を向け、強く耳を塞いだ。
 外の音を遮断するように強く耳を塞いでいるのに、指の合間をすり抜けて、どさりと何かが倒れる音が鼓膜に届いた。続いて濃厚な血の匂いが鼻腔を衝き、はじんわりと目頭が熱くなるのを感じた。
 一つ命が散って、二日目の昼が幕を閉じる。
 そして再び、狂気の夜が訪れるのだった――――


二日目・昼 終了
<生存者>
(占い師?)、半兵衛、官兵衛(暫定白)、三成(占い師?)、元就、清正
<犠牲者>
正則
<処刑者>
左近


end


二日目終了です。
官兵衛殿ってなんかこういう役回り多いですね。