欲望と狂気と小さな祈りのゲームです――――
人狼の館11
ァ千代「貴様、夫が喰われたにも関わらず、ずいぶんと冷静なのだな。まるでこうなる事を分かっていたような顔だ」
濃姫「あら、私はいつでも地獄を夢想しているもの。あの人の側には人間の醜い感情が集まりやすいの。いつかきっと、こんな地獄を見せてくれるって思ってたわ」
ァ千代「元就のような冗長な説明を立花は好まぬ。率直に貴様が怪しい」
濃姫「はっきり言うのね、嫌いじゃないわ。でも、それは私の縁者があの人だけだから? あの人が私の獲物だったと言いたいのかしら?」
ァ千代「その通りだ」
濃姫「ふふっ、そうね、私が獣だったら喰らってしまっていたかも……。でも、縁者の意味をすり替えようとしないでもらえるかしら? 事実はただ『人狼は獲物へ投票できない』それだけよ。縁者だから獣と疑われるのは不快ね」
二人の女性の間で火花が散る。今まで睨み合っていた宗茂と半兵衛も、思わず口を閉ざして注意をそちらに向けた。
濃姫「それに私を吊り上げたって、この中に私を獲物にしたい人狼はいるのかしら? あの人が生きていたら疑われたかもしれないけれど、今となっては夢の話。全員に私へ投票させたとしても、それで人狼は炙り出せないでしょうね」
ァ千代「ふん。炙り出しなど、この面子では意味はもはやない。それに気づかぬとは、所詮、獣程度の知恵しかないと言うことか」
濃姫「言ってくれるわね。じゃあ、あなたの言い分を聞かせてもらおうかしら?」
ァ千代は鼻息も荒く、縁者の表を出すと、今疑いのかかっている七人の名に丸をつけた。
濃姫、正則、左近、宗茂、ァ千代、幸村、くのいち。
この七名が今日の処刑者の候補である。
ァ千代「右の数字を見てみろ。官兵衛が昨日つけた獲物になりやすさだ。確かにこの中では正則の六人が多く、次に左近の三人と序列になっている」
濃姫「そうね。昨日、ねねを吊るし上げた理屈で考えれば、今日の生贄はそこの頭の飛び出た坊やじゃなくて?」
正則「お、俺ぇ!?」
ァ千代「同じ状況ならばな。だが今日になり、状況は変わった。信長が死に、と清正が暫定白の判定、そして二人の霊能者が名乗りを上げた。このことを考えると、正則の六人の内訳は三人の人間、一人の占い師、二人の暫定白となる。つまり、六人の中に人狼が紛れ込んでいる確率は、三人以下ということだ」
濃姫「そうね。でも、少しでも確率が高い人間を屠るべきではないの?」
ァ千代「話は最後まで聞くのだな。同じ理屈で考えるなら、左近の三人も信長と秀吉が死んでいる時点で一人と同じだ。しかも、三成が偽者の占い師だった場合、となる」
濃姫「つまり、一も零も大して変わらないと言いたいのかしら?」
ァ千代「そうだ。このような状態で、獲物になりやすさの序列をつける意味はない。よって立花はこの七名での自由投票を提案する」
濃姫がすっと眉根をひそめた。
ァ千代は表情を崩さない。
濃姫「あなた……、私を疑っていたんじゃないの?」
ァ千代「疑っている。だが、それと吊り上げる意味があるかどうかは別の話だ。疑いを持つ者が疑わしい者へ投票すれば良い。それだけの事だ」
甲斐姫「え、えっと、これって……」
くのいち「自由投票で票の動きを見るってこと?」
判断を仰ぐように、一同が官兵衛の顔を見やる。
だが、官兵衛は首を横に振った。
官兵衛「ならぬ。自由投票では票が分散する上に、人狼に逃げ場を与えることになる」
ァ千代「では、縁者の人数順に吊り上げると? その序列がもはや意味をなさないと言っている」
宗茂「その通りだ。昨日とは状況が違う。序列という考えは捨てるべきだと思うが?」
半兵衛「ちょっ、だから自由投票は票が分散するって、官兵衛殿が言ったばかりじゃん。序列を捨てるのは、官兵衛殿の意思に反す、」
官兵衛「それは違う。半兵衛よ」
思わぬ所からの反論に半兵衛は、顔に驚きを浮かべた。いいの? と官兵衛に向かって顔をしかめて見せる。
官兵衛「私はいつまでも縁者や序列というものに拘るつもりはない。宗茂の言うとおり、臨機応変に策を変えねばならぬという事も考慮に入れている」
半兵衛「でもさぁ。自由投票なんてしたら、人狼が獲物を選ぶはずないじゃん。確かに票の動きを見て、個々人の印象は分かるかもしれないけど、人狼を始末する機会を一つ失うって事なんだよ?」
官兵衛「そうだ。それは宗茂も理解していると思うが?」
宗茂「勿論。ァ千代に同調したが、俺は彼女とまったく同意見というわけではない。序列を廃するべきだと思うが、自由投票には反対する」
半兵衛「つまり……、結局この七人から一人吊るし上げるってこと?」
官兵衛「私はそのつもりだ。縁者に拘るべきではない、という卿らの意見は了解した。だが、自由投票は禁ずる。少なくとも、今の段階で始めるべきではない」
ァ千代「今の段階では、とは?」
官兵衛「宗茂や半兵衛が案ずる通り、この人数で票の動きを見ても逆に推理の邪魔となる恐れがある。今はまだ一点集中を続け、人数が減った頃に範囲を広げるべきだと思うが?」
半兵衛「うーん。ま、それなら分からなくもないけど……」
宗茂「ァ千代は?」
ァ千代「……分かった。今はその説明で納得するとしよう」
官兵衛「では、本日の処刑者を決める」
そして、官兵衛はとある人物を名指しした。
結果は――――
→濃姫
半兵衛→濃姫
官兵衛→濃姫
三成→濃姫
清正→濃姫
正則→濃姫
左近→濃姫
元就→濃姫
宗茂→濃姫
ァ千代→濃姫
濃姫→ァ千代
幸村→濃姫
くのいち→濃姫
甲斐姫→濃姫
濃姫「結局は私を吊るし上げるのね?」
官兵衛「正則とあなたを比較した結果だ。だが、正則への疑念を捨てたわけではない。昨日ののように……有益な情報が得られなければ、明日は正則が吊り上げられる」
濃姫「ふふ、いいわ。先に地獄を見てきてあげる。せいぜいこの遊戯を楽しんで頂戴」
最後にそう告げると、濃姫は静かに処刑された。
立ち込める死の香りに、場が静まり返る。
また一人、処刑者が死んだ――――
明日は誰が死ぬのか。自分なのか。それとも、自分に明日は来ないのか……
暗い思いを抱えながら、一同はゆるゆると自室へ戻るのだった。
三日目・昼 終了
<生存者>
半兵衛(霊能者?)、官兵衛(共有者)、(暫定白)、三成(占い師?)、清正(暫定白)、正則、左近、元就(占い師?)、宗茂、ァ千代、幸村、くのいち、甲斐姫(霊能者?)
<犠牲者>
秀吉、信長
<処刑者>
ねね、濃姫
end
三日目昼、終了。
着々と物語りは進行していきます。
果たして次の犠牲者は……?