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 これは残酷なゲームです。
 欲望と狂気と小さな祈りのゲームです――――




人狼の館10





 夜が明け、各々が自室から出て来る。
 三日目の昼の到来である。
 官兵衛は一同が集まったのを見計らうと、唯一現れない人物の名を呼んだ。


官兵衛「昨日の犠牲者は信長様か」


 重い空気を纏ったまま、一同が信長の自室へと向かうと、部屋の中央で無残に喰い殺された信長の躯が転がっていた。
 昨晩の犠牲者が確定した瞬間だった。
 信長の死を確認した一同は、昨日と同じように中央の部屋に戻り、その日の水を分配した。
 濃姫はいつも通りの顔をしていたが、その間一言も言葉を発さなかった。
 一同が重苦しい表情を浮かべる中、官兵衛が口火を開く。


官兵衛「では、三日目の議論を始める。占い師の両名には占い結果を報告してもらおう」

半兵衛「あ、その前に、話したいことがあるんだけど良いかな?」

官兵衛「なんだ」

半兵衛「告白するよ。俺、霊能者なんだ。前日に処刑された人物が、人狼かそうでないか分かる。結果は、」

甲斐姫「ちょっと待ったぁぁぁぁ!」


 甲斐姫の突然の雄たけびに一同がびくりと肩を震わせた。
 隣りに座ったくのいちが、雄たけばない、雄たけばないと宥めている。


甲斐姫「ついに正体を現したわね! みんな信じちゃだめ、こいつが人狼よ!」

半兵衛「はあ?」

甲斐姫「あんたが霊能者だなんて有り得ないって言ってんのよ! だって本物の霊能者は、このあたしなんだから!!」


 二人の占い師に続き、二人の霊能者。
 混乱を場が支配する。
 官兵衛は半兵衛と甲斐姫の顔を交互に見つめ、二人に結果を告げるよう指示した。


官兵衛「この段階では、霊能者の真偽を議論するのは無意味だ。まず、霊能者、占い師共に結果を教えてもらおう」

半兵衛「ま、確かに今の時点で、俺を信じてくれなんて言っても無駄だよね。……俺の霊視ではおねね様は白だったよ。人間だった」

甲斐姫「ぐぐぐ、あたしが本物なのにぃ……。いいわ。おねねさんは白よ。人間だった」

官兵衛「なるほど。二人の霊能者が人間と言うならば、奥方が人間で間違いないだろう。一つ無駄な犠牲を生んでしまったな」

清正「官兵衛、貴様っ……!」


 清正は憤りを抑えきれずぶるぶると拳を振るわせた。だが、それ以上の言葉は何も続かなかった。


三成「では、次は俺の番だ。占いの結果、が人狼でない事が判明した。を占った理由は説明の必要もないだろう。縁者の人数がこの中で最も多かった。それに一日目に自分を処刑者とするよう提案したのも気になったからだ。以上だ」

元就「次は私の番だね。私は清正を占ったよ。彼も人狼ではなかった。理由は私の占い範囲の中では、縁者が一番多いから。それと、昨日のねねを庇うような言動が気になったからさ。以上だよ」

官兵衛「了解した」

半兵衛「占い師候補と霊能者候補、共有者である官兵衛殿、暫定白を得た人物を除外すると、残ったのは七人だね」

官兵衛「ふむ」


 その時、三成から制止の声が上がった。


三成「待て。おねね様に投票しなかった清正は不問か?」


 清正へ向けて一同の視線が集まる。清正は三成を睨みつけるように見やると、俺を疑っているのか、と怒りを込めて呟いた。


正則「おい、頭デッカチ! てめぇ清正のこと、疑ってんのか!?」

三成「疑わざるを得ない行動を取ったのは清正だろう。なぜおねね様に票を投じなかった? それはお前が人狼でおねね様が獲物だったからではないのか?」

元就「おっと。それは白判定を出した私への挑戦と受け取っていいのかな?」

三成「ふん。そもそも俺から見ればお前は偽者だ。偽者が人狼をかばったところで何の不思議も無い」

清正「俺はお前と元就、どちらが偽者の占い師か知らん。が、お前にとって偽者である元就が白判定を出したからと言って俺を疑うな」

三成「白が出たからではない。お前が投票しなかった。それだけが事実だ」

清正「どうだかな。仮に俺がおねね様に投票していても、お前は同じ事を言ったんじゃないか? あれだけ庇う言動をしていながら、なぜおねね様に投票した。それはお前が人狼だからではないのか、とな」

三成「ふん。例え話を今してどうなる。でさえ、おねね様に票を投じたのだぞ?」

「えっ」

清正「それでを疑って占ったのか。なるほどな。三成にとって俺達は皆人狼らしい」

三成「信じるからこそ疑いを晴らすため占った。そうは考えられんのか?」

清正「なら、なぜ俺の白判定は信じない」

三成「だから、それは――――

正則「おい! おい! 官兵衛、どうにかしろよぉ!」


 二人の険悪な空気を打ち壊すように、正則が声を上げた。名を呼ばれた官兵衛はじっと三成と清正の双方を見つめ、沈黙している。
 官兵衛の沈黙を代弁するように、左近がまあまあと二人の間に割って入る。


左近「殿。疑い出したらきりがありませんよ。確かに清正さんは怪しい……。が、今は暫定白は保留し、灰色な面子を疑うべきじゃありませんかね?」

三成「左近! お前まで何を言っている!」

左近「そりゃ、殿の話にも一理ありますが。俺達にとっては殿と元就さん、どっちが本物か分からないんです。その状態で対抗者の白判定を疑われても、正しい判断は下せませんよ」

正則「そ、そうだぜ! 今は保留でいいじゃねぇか!」

三成「貴様ら……」


 三成は悔しげにほぞを噛んだが、それ以上この話題を発展させようという発言が無い事を知ると、素直に口を噤んだ。


官兵衛「では、話が落ち着いたところで本日の処刑者を決める。占い師候補と霊能者候補、共有者である私、暫定白を得た人物を除外すると、残ったのは七人だ」

宗茂「その中から一人吊るし上げようと?」

半兵衛「合理的だと思うけど?」

宗茂「どうかな。人狼に踏み絵を踏ませるというのは悪くない。が、昨日も言った通り、縁者の数に拘るべきではないと思うが?」

官兵衛「ほう?」

半兵衛「しつこいよ、宗茂。縁者の仕組みはみんな合意の上だよ。今更、異議を申し立てるなんて、なんか都合でも悪いわけ?」

宗茂「意見を述べただけで、邪推するのはやめて貰おうか。そもそも縁者はただの尺度にしかならない。それを人狼と安易に結びつけるのは短慮だと思うが。それとも……そう思い込ませたい理由でもあるのかな?」

半兵衛「はあ?」

宗茂「霊能者のどちらかは偽者だ。重要な役職であるが故に、いずれは吊るし上げる事になるだろう。その時、お前かそちらのお嬢さん、守られるべきはどちらかな?」

半兵衛「それで鎌でもかけてるつもり? そっちこそ、否定的な意見を言われたからって安易に疑わないでくれる?」

宗茂「どうだかな」


 宗茂と半兵衛の間で火花が散る中、その諍いに割って入るようにァ千代が立ち上がった。
 厳しい顔でじっと濃姫を見下ろしている。
 濃姫は顔を上げると、嫣然と笑った。


濃姫「何かしら? 私に何か言いたい事でも?」




end


三日目昼、開始です。
半兵衛と甲斐姫による霊能者カミングアウト。
そして三日目の処刑者は? 次回に続きます!